第8話ガマ座衛門の襲来
ようやく八神くんを発見した草野は、彼に声をかけた。
「八神くん・・、やっと見つけた・・」
「草野さん・・!ひょっとしてぼくを捜していたの?」
「当たり前だろがいっ!田所たちと七美子さんも、ずっとお前のこと心配して捜していたんだぞ!」
「そうだったんだ・・・、でもぼく帰る場所がなくて・・」
「だったら俺ん家に来いよ。」
「えっ!?いいのですか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないっつーの!いいから行くぞ!」
そして草野は八神くんの手を引いて、そのまま自の部屋へと連れて帰った。
「夜ご飯どうする?」
「夜ご飯は家で少しだけ食べ来てました、後は大丈夫です。」
しかし八神くんのお腹はクゥと鳴った。
「お腹すいてるじゃないか、ラーメン作るから待ってろ。」
草野は二人分のインスタントラーメンを茹でた、トッピングは刻みネギとポークホープ自家製のチャーシューだ。
八神くんはラーメンを冷ます間もなく、すすりだした。
「美味しい・・・」
「お前、いろいろ大変だな。これからどうするんだ?」
「わからないよ・・、家には帰りたくないし、だからってずっと草野さんの家にお世話になるわけにはいかないし・・」
子どもながらに、自分の生活のことについて悩んでいる八神くんに、草野は哀れには思わずにいられなかった。
「親戚の家には行けないのか?」
「難しいと思います・・、あいつの息子ということになると、煙たがられるかもしれません。」
確かに強引に七美子さんを引き取ったあの親父の息子なら、避けられてもしかたない。しかし頼れるものが完全に無くなってしまった。
「うーん、弱ったなぁ・・。まぁ、しばらくは俺の家に泊めておくしかないか・・」
「そんな、草野さんに迷惑をかけられませんよ。住むところは自分でどうにかしますので、ラーメンごちそうさまでした!」
手を合わせて出ていこうとする八神くんを、草野は無理やり引き止めた。
「バカ野郎!こんな時間に泊めてくれる家があるか?それともすごく仲のいい友達がいるのか?」
「いません・・」
「だったら今日はここに泊まれ、一緒にこれからのことを考えよう。」
草野は八神くんの頭に手を添えた、八神くんは草野のうでの中で震えながら泣いた。
翌日、八神くんは草野さんより先に起きて、洗濯物を洗っていた。
「悪いな、やらせてしまって・・」
「いいんです、泊めてもらっているんだからこれくらい当然です。」
そして朝ごはんを食べ終えた草野は、八神くんに言った。
「そういえば、学校はどうすんだ?」
「今日は休みます、そもそも行く気になれないので・・」
「そうか、それじゃあバイトへ行ってくるわ。」
草野はバイトへ行ってしまった、一人残された八神くんは、とりあえずテレビをつけた。
「へぇ、朝ってこういう番組やっているんだなぁ。」
午前八時ごろ、朝のニュースが大詰めを迎えるころ。バラエティー要素が強いニュースがどのチャンネルでも流れていた。
午前十時ごろ、ニュースが終わりテレビショッピングが始まった。興味の無い八神くんはテレビを消した。
「退屈だなぁ・・」
草野さんが帰ってくるのはまだ先だ、それまで何して時間を潰そうか?今思えば、勉強以外に時間を潰す手段が無かった。
仕方なく八神くんは部屋の中で仰向けに寝転ぶ、風邪で学校を休んでいた生徒もこんな気分だったのか・・。
そして寝転んだまま時間は過ぎて、昼のチャイムが部屋の外から聞こえた。
「もうお昼か・・」
そういえば、昼食はどうするのかというのを忘れていた。どこかで食べに行くか・・、いやそれはできない、こんな元気な小学生が出歩いていたら、学校はどうしたのと訊かれてしまう・・。
それなら草野さんちの冷蔵庫にある食材を使って・・、いやそれもダメだ。勝手に人の家の冷蔵庫の食材を使っていいわけない。
ということは、今日は昼食無しで乗りきらなくてはならない。
「退屈だなぁ・・」
やることがないことがこんなに辛いことなのかということを、八神くんは全身全霊で思い知った。あの時、草野さんに昼食のことについて訊いていれば、この退屈を少しはしのげたのに・・。
もう寝てすごそうと体を床につけた、それから十分後に玄関のドアが開いた。
「悪かったな八神、昼ごはんのこと忘れていたよ。といってもオレはすぐにバイトへ戻らないといけないから、コンビニで弁当を買ってきた。食べるか?」
「うん、ありがとう・・」
八神くんは草野からもらったチャーハン弁当と小さなサラダの盛り合わせを食べた。
そして草野は再びバイトへ、八神くんは一人で昼食を食べた。
それから六時間後、草野がバイトを終えて帰ってきた。
「ただいま、帰ってきたぞ。」
「お帰りなさい、草野さん。」
「一人で大丈夫だったか?」
「もぅ、子ども扱いしないでって言ってるでしょ?」
「あぁ、悪いな。本当はもっと早く帰ってくるつもりだったんだがな・・」
「何か遅れた理由があるの?」
「あぁ、これだよ。」
草野は持っていた紙袋を八神くんに渡した、八神くんが紙袋の中をのぞくとそこには八神くんの筆箱と教科書とノートが詰めこまれていた。
「これはぼくの・・」
「帰りにお前の母さんと出会ってな、お前によろしくって持たせてくれた。これでいつでも勉強が出きるぞ。」
「母さん・・」
「さて、それじゃあ一服するとしますか・・」
草野はテレビをつけて腰を落とした、八神くんはテーブルに座って久しぶりの勉強を始めたのだった。
翌日、朝食の時間に草野は八神くんにこんなことを言った。
「お前に重大な話がある、落ちついて聞いてくれ。」
八神くんは真剣な話だと察して、箸を置いて話を聞いた。
「昨日、おれはお前の母さんと出会ったことは言ったな。その時に聞いたのだけど、母さんはあの親父と離婚する覚悟を決めたそうだ。」
「そうか、ついに離婚するんだ・・」
「聞いておくが、お前はおやじか母さんのどっちについていきたいんだ?」
「母さん」
八神くんは即答した。
「そうか、やっぱりそうだよな。それでお前の母さんは、親父と別居してマンスリーマンションに住んでいる。離婚が正式に決まったら迎えに行く、それまでお前はおれが預かることに決まった。」
「うん、わかったよ」
「大丈夫か?急にこんなことになってしまって・・、正直混乱していないか?」
「大丈夫だよ、それよりも七美子さんは大丈夫かな?」
「彼女か・・、あの親父にしごかれて勉強しているだろうな・・」
「七美子さんも助けられないかな・・?」
草野と八神くんは考えたが、いいアイデアは浮かばなかった。
そして午前七時二十分、八神くんは学校へ行った。同じ団地に住んでいる亜野くんが一緒に付き添ってくれている。
草野もバイトへと向かい、色々ありつつも日常がもどってきた。
そして数時間経った午後五時三十分、草野がバイトを終えて帰宅した。しかし、八神くんは部屋にいない。
「まだ帰ってないのか、学校はとうに下校の時間なのに・・」
部屋の時計を見た草野は、少し胸騒ぎがするのを感じた。
「寄り道しているのか・・?いや、あいつの性格からしてそれはないか・・。」
すると玄関のドアから「ドンドン!」と乱暴な音が聞こえた。草野が玄関を開けると、すでに目から涙をこぼしている亜野くんがいた。さらにほっぺたが赤く腫れている。
「草野さん・・・っ!」
「どうしたんだ、そんなに泣いて!?」
「八神くんが、八神くんが・・!?」
「八神くんに何があったんだ?」
亜野くんは涙を腕で拭うと、衝撃の事実を話した。
「八神くんが、だれかに連れていかれたんだ・・」
「何だと!?誘拐されたのか!?一体どこでだ!?」
「下校していた時に住宅街を歩いていたら目の前に車が停まって、車の中から男が現れたんだ。男は『君の母さんに頼まれてきたんだ、母さんのところへ行こう!』って八神くんを車に乗せようとしたんだ。でも八神くんは、怪しい奴だとわかってぼくと一緒に逃げ出したんだ、だけど男に追いつかれてしまって・・。ぼくは八神くんを助けようと、向かっていったら殴られてしまって・・。そのまま八神くんは連れていかれてしまったんだ。」
グスッグスッと泣く亜野くんの頭を、草野は優しくなでた。
「そうか、がんばったな・・。後はオレに任せな!」
「草野さん・・」
草野は涙を流す亜野くんを見送ると、昨日聞いた八神くんの母親が住んでいるマンスリーマンションへ電話をかけた。
「もしもし、今話せるか?緊急事態が起きた!」
「へっ!?一体、どうしたの!?」
八神くんの母親は、驚きで声が上ずった。
「八神くんが誘拐されたらしい、オレが連れ戻しに行ってくるから任せてくれ!それじゃあ!」
「あっ、ちょっと待って草野さん!」
草野は通話を切ると、外へ走り出した。彼の中からガマ座衛門が言った。
『草野はん、どないするつもりでっか?八神くんを連れ去った犯人のアテは解っているのですか?』
「どうするかはこれから考える、問題はだれが八神くんを誘拐したかだ。」
『だからそれを聞いてはるんや!』
「おそらく、八神の親父だ。理由は知らんが、八神くんの通学パターンを知っているのは八神くんの両親くらいだ。おそらく自身だと警戒されるから、他人に指示してやらせたんだろうな。」
『なるほどなぁ・・、して行き先は?』
「八神家に行ってみる!」
そして草野は八神家に向かって走り出した。
その頃、八神家では七美子さんがリビングで勉強に明け暮れていた。
両親が亡くなってここでの生活をすることになったのだが、息が詰まりそうになるほど勉強の日々を送っている。
実の父は勉強についてはさほどあれこれ言ってこない人だったのに、今の育ての親はとても勉強しろだと言ってきて、自分の自由に制限をかけた。
こんなところ早く抜け出したいよ・・。
黙々と勉強をしているが、七美子さんは本音を心の中に閉じこめた。
すると父親が帰ってきてリビングに入った。
「ただいま、七美子。」
「おかえりなさい・・・!?」
七美子さんは言葉に詰まった、なぜなら父親は誠太郎くんを連れてきたからだ。
「お父様、どうして誠太郎くんが・・?」
「あぁ、連れてきたんだ。本当はもう連れてこないつもりだったんだが・・」
八神くんは不満そうな表情で、何も言わない雰囲気だ。
「七美子、これでお前を門浄大学に入学させられるぞ!」
門浄大学は、名門大学の一つである。
「門浄ですか・・」
「どうした?何か不満があるのか?」
父親が睨む目付きで七美子さんの顔をのぞきこんだ。
「いいえ、名門校を受けるのは光栄なことです。しかし学費は大丈夫でしょうか・・・?名門ですし、とても高額になると思います。ましてや離婚するので、財産が減ることになります。とてもそんな余裕は無いのですが··」
「金なら問題ない、この役立たない息子がまさか金づるになるとは思わなかったがな。」
七美子さんは父親が何を言っているのかわからないが、尋常なく悪いことをしようとしているという予感を感じた。
「金づるってどういうことだ!ぼくを一体どうしようというんだ!!」
叫ぶ八神くんに、父親は怒鳴る代わりに平手打ちをした。
「おとなしくしてろ、黙って命令通りにすればそれでいい。それより夕食にしよう、誠太郎の分は二階の部屋に置いておけ。」
それから父親は八神くんの首根っこをつかむと、強引に二階へと連れていき、結局八神くんをここへ連れてきた理由を話さなかった。
「八神くんは、これからどうなるの・・?」
七美子さんはその事を考え、手に持っているシャープペンを動かすことができなかった。
一方、八神家の庭では草野とガマ座衛門が、父親と七美子さんとの会話を盗み聞きしていた。
ガマ座衛門が使う特別な油を扉や窓に塗ると、透けて見え会話を聞き取ることができるのだ。
「なるほど・・、八神くんが金づるねぇ」
『しかし、八神くんがどうして金になるん?人身売買なんて、とうの昔に終わってんで?』
「アホ、八神くんを引き換えに金を得るつもりだろう。例えば金持ちだけど子どもがいないところに出すとか··」
『なるほどな、それは決してアカンことや!』
「だろ?だから力を貸してくれ」
『合点承知の助!』
そしてガマ座衛門は草野の中に入って、力を与えた。そして舌を大きく長く伸ばした草野は、いきなり舌を突き出してベランダのガラス戸をぶち破った!
「きゃあーーーっ!」
悲鳴を上げる七美子さん、草野は慌てて彼女に言った。
「安心して、オレだオレ!」
「もしかして、草野さん!?一体どうして···」
すると二階から「だれかいるのか!?」という父親の声が聞こえた。
「やべっ、このままだと見つかる!!」
『何してんねん、このドアホ!』
「よし、変化の術だ!今からボールに化けるから、適当に誤魔化してくれ!」
何か言いたげな七美子さんをよそに、草野は野球の硬式ボールに化けた。父親が部屋に入り、悲惨に割れたベランダの窓に気づいた。
「これは一体どうしたんだ!?」
「お父様、突然こんなものが···」
七美子さんは草野が化けたボールを父親に渡した、父親はそれを見て不機嫌な顔になった。
「だれかのイタズラか···、一体誰がこんなことを?それよりケガはないか?」
「ええ、大丈夫です。お父様、私がここを後片づけするわ」
「そうか、よろしくな」
そして八神の父親は再び二階へとあがっていった。
「草野さん、もう大丈夫ですよ!」
七美子が言うと、草野は元の姿に戻った。
「ふぅー、助かったぜ」
『そんなのんきに言えますなぁ、こっちはヒヤヒヤしてうっかり冬眠しそうになるとこやで!』
「よし、八神くんを助けよう!彼はどこにいるんだ?」
「二回の部屋にいるわ、だけどこんなところにいたらバレちゃうわよ?」
「なあに、心配はいらないよ。バレる前に、あの親父をこらしめてやる。」
「こらしめるって···?」
首を傾げる七美子さんをよそに、草野は作戦を開始した。
午後六時三十分、八神家は夜ご飯の時間を迎えた。
「七美子!飯はできたか?」
「はい、できました。」
今夜の献立はチンジャーロースとスーパーで買った惣菜の春巻き、ご飯と朝に作ったみそ汁だ。
「ようし、食事を始めたな···」
草野は作戦を始めた、透明になる油を全身に塗った草野は、舌を伸ばして八神くんの親父をくすぐり始めた。
「あひゃあひゃ…おいっ!誰だ!!」
八神くんの親父は背後に向かって怒鳴ったが、だれもいない。
草野は舌を伸ばしてさらにくすぐる、八神くんの親父は持っていたご飯の茶碗を落として割ってしまった。
「いい加減にしろ七美子!」
「えっ!?あたしじゃないわよ!?」
八神くんの親父は冷静になって考えた、七美子は今自分の目の前でご飯を食べている。だとしたら、自分をくすぐっているのは誰だ···?
「よし、効いてるな···」
姿が見えない草野はそれをいいことに、さらなるイタズラをした。
彼はキッチンへ行くと、塩の入ったケースを持ち出した。
「イヒヒヒ、これでよし···!」
草野は八神くんの親父が手を付けていない隙に、みそ汁の中に塩をたっぷりと入れた。
そして八神くんの親父がみそ汁を飲んだとき、強烈な塩気で八神くんの親父はむせてしまった。
「大丈夫ですか!?お父様!?」
「ゲフォッゲフォッ···おいっ!!七美子、このみそ汁ちゃんと作ったのか!?」
「えっ、もちろんちゃんと作りましたけど···」
「ホントだろうな?少し味見させろ」
八神くんの親父は七美子さんの分のみそ汁を味見した、塩辛いということはなく普通のみそ汁の味がした。
「普通のみそ汁だ···、じゃあなんでオレのみそ汁だけが···?」
「不思議なことってあるわね、何か呪いを受けたとか?」
「くだらんことを言うな、優秀な人間は呪いなど信じない。」
机の下にいる草野はリアクションの薄さに不満気だ。
「いまいち怖がらないな···」
『そりゃそうや、あんなの子どもだましにすぎん。それより油の効き目が後十分で切れるで』
「よし、それならいっそ身バレしてやりますか!」
『は?何を言うてんねん?』
草野はガマ座衛門に作戦を小声でつぶやいた、そして机の下からでると、静かにドアを開けて廊下に出た。
それから少しして、突然八神家が真っ暗になった。
「今度はブレーカーが落ちたか、全く今日は地味についてないな···。」
八神くんの親父は家の奥の突き当たりに向かい、そこにあるブレーカーのスイッチを入れた。
家の明かりを取り戻した八神家、再び食事が始まるとドンドンドンと壁を叩く音が聞こえてきた。
「ねぇ、何か聞こえない?」
七美子さんが不安げに言うも、八神くんの親父は聴こえないフリをして食べ続ける。
そしてドンドンドンという音はしだいに大きくなっていく、これには聴こえないフリをしていられない八神くんの親父。
「おい!!誠太朗!何をしているんだ!?」
八神くんの親父は乱暴にドアを開けて怒鳴ったが、そこには誰もいない···。その事実に八神くんの親父は、頭を抱えだした。
「さっきから何が起きているんだ···!?」
「ねぇ、もしかしてさっきの音は誠太朗くんのイタズラじゃないかしら?」
「そんなことはありえない、あいつのいる部屋にはカギがかかっているんだ!部屋のカギは私が預かっている!」
『ほぅ、そのカギを使えば八神くんに会えるんやな~?』
「だっ···誰だ!?」
八神くんの親父と七美子さんが廊下の奥をのぞき込む、するとそこには巨大なガマガエルと草野の姿があった。
「さては、さっきからの異変もみんなお前の仕業だな!?」
「そうだよ、怖かったか?」
「ふざけたことしやがって、不法侵入で通報してやる!!」
八神くんの親父がスマホを取り出したとき、ガマ座衛門の舌が伸びて、八神くんの親父がポケットから出したスマホを奪い取った。
「あっ!?おい、それを返せ!!」
「返してほしかったら、取ってこいよ~」
草野が挑発すると、八神くんの親父は激昂して草野に襲いかかった。すると草野まであと二歩ぐらいのところで、すべってうつ伏せに転んでしまった。
「おっと、ここらへんはガマ座衛門のツルツル油が塗ってあるからな、気をつけたほうがいいぜ~」
あざ笑う草野を見上げる八神の親父は、七美子に命令した。
「七美子!お前のスマホから通報しろ!!」
「あの···、大変申し訳ございません。スマホを塾に置き忘れてしまったんです……。」
「なんだとっ!?こんな時にぃ~···!」
強く歯ぎしりしながら立ち上がる八神くんの親父は、再び草野に襲いかかった。草野がサッとかわして、八神くんの親父が方向を変えようとした時、彼の足に激痛が走った。
「グッ···、足をひねった···!」
それをチャンスと見た草野は、八神くんの親父の背後に周ると、後ろから羽交い締めにした。
「何をするっ!話せ!!」
「八神くんを苦しめた挙げ句、見捨てた報いだ。」
そして草野はジャーマンスープレックスをおみまいした、八神くんの親父は床に頭を強打し気絶した。
「すごい···!」
「ふーっ、しんどかった……。さぁ、後はカギを探すだけだな。」
草野は八神くんの親父の衣服のポケットを物色して、カギを手に入れた。
そのまま二階へ上がり、草野は大声で呼んだ。
「おーい!八神くんーー!どこだー?」
すると右側のドアから音が聞こえた、草野はそのドアへ向かいドアノブにカギを差し込んだ。
「草野さん!!」
「八神くん!!」
八神くんは草野に抱きつくと、安堵の涙をこぼした。
「草野さん……、来てくれてありがとう」
「よかった八神くん···!」
それから五分くらい抱き合った後、八神家にパトカーがやってきた。
『次のニュースです、昨日家から帰る途中に実の父親によって誘拐された小学生·
草野は一人で朝食を食べながらニュースを見ていた。
その後の内容は以下の通りだ。
八神くんの親父こと本名·
困り果てた八神権太は、なんとか養育費を支払う方法がないか模索していたところ、知り合いのツテを頼りある情報を得る。
それ跡継ぎ捜しの情報だった、ある名家の夫婦が子どもに恵まれなかったので、養子縁組で子どもを求めていた。
権太はそこに目をつけた、誠太朗をその名家の跡継ぎとして養子にださせ、その見返りに大金を得ようと目論んだのだ。
しかし誠太朗をどうやって連れ出すか···、自分は顔がバレているので警戒される。そこで権太は会社に勤めている貧乏な下っ端社員に話を持ちかけ、誠太朗くんの誘拐に加担させたのだ。
そして誠太朗くんの誘拐に成功し、翌日にその名家のところへ引き渡しに行くつもりだったという。
そして八神権太は、人身売買罪の容疑で逮捕された。加担した社員も、それからすぐに逮捕されたそうだ。
「これで、八神くんも自由だな。」
『ほんまによかったわ、これで彼も自由やな。』
それから少し経って、八神くんは再び田所たちと遊ぶようになった。
そんなある日、草野が団地の公園に行くといつもの三人と八神くんが、遊○王で遊んでいた。
「よぉ、お前ら!仲良く遊◯王か?」
「うん、八神くんも結構ハマっているんだ。」
「えっ、そうなのか?」
「いやぁ、田所くんに進められて···。」
「最近だとポケカも始めたよな?」
「そうなんだ、これが以外にも面白くてさ··。勉強が手につかなくなっちゃうよ。」
「おいおい、それはあかんて!お前は勉強だけが取り柄なんだから!」
「そんなこと言わないでよ、真面目なんて草野さんには合わないぜ~?」
「何だと亜野~!」
草野は亜野くんの頭をワシャワシャした、それを見た田所くんと笠松くんと八神くんは、笑い出した。
「ところで、八神くん。あれから母さんと二人でやっているか?」
「うん、楽しくやっているよ!母さん、ぼくと二人きりになってから元気になった。」
「そうか、それは良かったな。」
「そういえば、七美子さんはどうしたんだ?」
「そういえば、見かけなくなったね。八神くんの家にいるのかな?」
すると八神くんは言いにくそうに言った。
「七美子さんは···、家にいないんだ。児童養護施設で暮らしている。」
「えーっ、一緒に住んでないの!?」
「どうして!?」
草野と田所くんたちは八神くんに質問した。
「実は、父さんと離婚した後にぼくと母さんが七美子さんに『一緒に暮らそうよ』って言ったんだ。だけど七美子さん、自分のせいでぼくたちの家庭を壊してしまったことをずっと気にしていたみたいで···、ごめんなさいと謝って去っていったんだ。」
草野は複雑な表情になった、元々はあの親父が七美子を連れてきたから八神家が壊れたのに···。
「そっか、それは悲しいな……。八神、お前たまには七美子さんに会いに行くか、手紙を書いてやれよ。」
「うん、児童養護施設の住所と郵便番号を教えてもらったから、手紙は出せるよ。あっ、そうだ!七美子さんにぼくたちの写真を送ろうよ!」
「おおっ、いいなそれ!」
「だれかカメラ持ってない?」
「ぼくんちにあるから取ってくるよ!」
そして草野と田所くんたちは、田所くんが家から持ってきたカメラで、みんなの集合写真を撮影した。
あの写真を撮影してから二ヶ月が経った、ぼくももうすぐ小学六年生だ。
午前8時45分、いつもの朝礼が始まり点呼をする。そして点呼が終わると、先生の話になる。
「みんな、今日は真面目で寂しい話がある。」
いつもなら先生の長くて大切な話か、もしくは先生の最近あったいいことが語られるのだけど、今回はいつもと違うみたい···。
「実は、来年度から君たちは南小学校に通うことになった。」
教室が騒ぎだした、南小学校に通うことになったってどういうこと?
ぼくは疑問を解決するため、先生に手を上げた。
「あの、どうして南小学校へ行かなくちゃいけないのですか?」
すると先生は黒板に「少子高齢化」という言葉を書いた。
「この
「えっと···、学校に行く子どもが少なくなる」
「その通り、つまり学校があまり必要じゃなくなること。それなら地区にある学校の数を減らそうということになったんだ。」
「それはヒドいぜ、子どもが減ったからってぼくたちの学校を無くそうとするなんて!」
亜野くんが先生に抗議した。
「気持ちは分かるけど、これはもう決まったことなんだ……。先生にもどうしようもない、だから今年度はこの学校の最後の卒業式だ。みんな、真剣に取り組むように。」
先生はそう言って朝の会を終了させた、あまりの出来事にぼくは言葉が出なかった。
だけどそれはみんなも同じで、その日は亜野くんとも笠松くんともあまりおしゃべりする気にはなれなかった··。
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