第8話
後日、由紀恵はこころの通う高校経由で、近藤結花と話をすることにした。
例の西宮北口駅近くのカフェで待ち合わせ。こころには、結花と会うことは言わなかった。また結花にも、こころから依頼を受けていることは伏せておいた。
「はじめまして! 近藤結花です! よろしくおねがいします!」
近藤結花はいかにも元気そうな女子高生だった。少し栗色っぽい、もふっとした髪で、体はすらっとした美人だった。
カフェに接近してきた時、一応、後ろ姿を確認したが、由紀恵が予知魔法で見た、女子トイレで倒れている少女そっくりだった。この子が朝日こころと何らかのトラブルを起こす、と見て間違いない。
「はじめまして~。なんか、わたしと身長一緒くらいだね」
「そうですね! うち、女子だと大きめなので一緒くらいの人、好きです!」
由紀恵は身長が一六○センチ後半あり、女子にしては大きい。男子を抜いてしまう場合もある。だから同じくらいの身長の女子と会うと、無条件で親近感を覚えてしまう。
二人はさっそく席についた。結花は、ちょっと食欲がない、とのことでアイスティーしか頼まなかった。そこはがっつり食べるかと思ったので、少し意外だった。
「えっとね、今日聞きたいことは、朝日こころさんの事なんだけど」
「えっ、こころの事ですか?」
結花が急に口からストローを離し、グラスの中の氷がカチン、と鳴った。
「うん。最近、仲悪いみたいだね?」
「――あはは、ちょっと色々あって」
「何があったのか教えてくれる?」
「えっとお……こころには、うちが話すこと、言わないでもらえますか」
「いいよ」
「あの……うち、こころの幼なじみの、男子の先輩と付き合ってるんです」
「知ってる。黒澤大地さんでしょ。朝日さんから聞いたよ」
「そうです。うち、こころは転校してきた時から気が合うというか、好きだったので、普通にお友達として仲良くしてたんです。その流れで、うちが黒澤先輩と付き合ってて、デートしてる時とかの事をよくこころに話してたんですよ。で、最初は気づかなかったんですけど、こころはうちが黒澤先輩の話するの、どうも嫌だったみたいで。もしかしたら、こころ、黒澤先輩のこと好きだったのかもしれないな、と思って」
「あー」
こころが仮に黒澤大地のことを好きだとしたら、親友から好きな男といちゃいちゃしている話を延々と聞かされるわけで、サンドバッグになっているようなものだ、と由紀恵は思った。
「それで、ある日うちが、黒澤先輩と、その、しちゃった時のこと話したら、急に不機嫌になって、もういい! って、逃げられたことがあったんです。その時に、うちもこころが黒澤先輩のこと好きかもしれないな、って気づいて。でももう、どうしようもないので、とりあえずしばらくこころとは距離を置こうって思ってるんですよね」
「うん。それがいいかもしれないね」
一度こじれた女同士の仲を元に戻すのは至難の業だ。特に男が絡むと、ものすごく仲が良かった友人どうしでさえ険悪になるもの。
「べつに、こころがいいなら、一緒に話してもいいんですけど、なんか話しづらくなっちゃって……」
「こころちゃんに、黒澤先輩を譲ってあげるつもりはない?」
「ないです! っていうか、それは黒澤先輩が決めることなので、うちがどうこう言うことじゃないでしょ。うちだって年の差あるのに頑張ってアタックして、三回振られて付き合えるようになったんですよ。こころもそれくらいしないと不公平ですよ。でもあの子は自分から黒澤先輩に近づこうとは思ってないみたいですよ」
「うーん。まあ、そういうことに精を出すタイプじゃなさそうだよね」
「確かに男っ気はないですね。メイクもしてないし、服もいつも制服ですし」
「メイクしなくても外歩けるのって羨ましいなあ……」
「はい?」
「あ、いやなんでもない」
ついアラサーの本音が出てしまった由紀恵は、慌てて仕切り直す。
「もう一つ、来週の水曜日に、結花ちゃんかこころちゃんが予定してる事ってない?」
「来週の水曜ですか? 特にないです。普通に平日だと思ってました」
「そっか。ならいいや」
「あの、その日に何かあるんですか?」
「わかんないから調べてるんだよね。とりあえず、今はフツーに過ごしてもらえるかな」
「は、はあ、わかりました。ところでこころが魔法士さんに相談している悩みって何なんですか?」
「それはプライバシーがあるので答えられないの。ごめんね」
「そうですかー。もしうちに手伝えることがあったら、何でも手伝いますよ! うち、今は仲悪くなっちゃったけど、こころのこと好きなんで!」
「うん、ありがとう。もし何かあったら連絡するね。ところで黒澤先輩にも会ってみたいんだけど、連絡先とか教えてもらえる?」
「あー、いいですけど、先輩知らない番号からの電話基本取らないし、LINEとかも一週間くらい平気でスルーするので、魔法士さんから連絡取れるかどうかわかりませんよ」
「そっか。じゃあ大学名も教えて。そっちからアプローチするよ」
こうして由紀恵は黒澤大地の連絡先と大学名を入手した。
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