七十二歳新米冒険者~仙人になれないと言われリストラされたけど、下界では結構無敵です~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

「ヘーキチ……。実は、お主は仙人にはなれんのじゃ……」


「なんだと~う?」


 私こと、平吉ヘーキチは困惑していた。

 だめだ、怒ってはいけない、落ち着こう。理由があるはずだ。

 目の前の師匠を睨み付ける。


「師匠……。一応、理由をお聞かせください。内容によっては、その首を貰います」


「うむ……。首!? ごほん……50年前、そなたを見た時は、間違いなく"仙人骨"があると思ったのじゃが、実はなかったのじゃ。天然道士だと確信したものじゃがな。ただのフィジカル馬鹿だったようじゃ。じゃが、お主は余りにも才能がある。もしかしたらと思い、修行を続けさせたのじゃが……」


 おいおい。理由になってないぞ?

 単純に勘違いと言っていやがる。

 仙人骨とは、骨髄の少ない骨だ。100万人に1人の確率で生まれ、仙人になれる。それがなかった? 始めに確認しろよ。


「……50年も修行を積ませて、才能がなかっただと? どうにかして、仙人骨を与えるのが、師匠の役目ではないのか? とりあえず、天界に問い合わせて来い!」


 目の前の師匠は、冷汗が止まらないらしい。

 それでも、三大仙人と呼ばれる人物なのか? 威厳がないぞ?


「いや、この50年には、意味があるのじゃ。良いか、ヘーキチ。下界に降りてとある人物を助けるのじゃ。そして、悪政を強いている国を倒し、新国家を樹立させるのじゃ」


「断る! 私は仙人になれるまで修行を続ける。宝貝パオペイと騎獣を貰えるまで、修行を続けさせて貰う!」


 宝貝パオペイとは、仙人が扱う秘密道具だ。それと私の欲する騎獣は、幻想の生き物だ。


「はえ?」


 師匠が、間抜けな声を出す。


「どうせまた、命数とか言い出すのだろう? その命数に従った結果がこれだ。初志貫徹させて貰う!」


「なんじゃと~う?」


 その後、無意味な口論を行ったが、下界に降りるのだけは覆らなかった。

 もう、この洞府に私の居場所はないのだそうだ。

 ついでに、腹いせを行う……。





 私は、自分の部屋に戻り、荷物を纏めた。


「ふう~。本当に無駄な50年になってしまったな……。これからどうするか」


「そうでもないよ」


 後ろを振り返る。

 友人二人が、見送りに来てくれたらしい。


「南極と白鶴か……。良く分らないが、クビになってしまった。結局、宝貝パオペイも騎獣も貰えず仕舞いだ。はは……、頭に血が上り、洞府を半壊させたのがいけなかったな」


 三大仙人との格闘は、かなり激しかった。後少しで、私が勝てそうだったのだが、周囲に止められてしまった。流石の私も、あの数の仙人には勝てない。

 ちっ。十二仙と燃燈め……。個別になら、ボコれるものを。集団で来やがった。

 14対1はないだろうに。仙人が一般人をいじめるな!


「それは残念だったけど、もうヘーキチは、仙人にも負けない強さを持っているじゃないか」


「そうじゃ。フィジカルだけで、宝貝パオペイと戦えるのは、ヘーキチだけじゃぞ? 肉体の年齢も20代で止まっているのだし、数百年生きられる寿命も得られたのじゃろう?」


 この二人は、師匠に頼まれて来たのか……。


「東の国には行かんよ。下界の悪政など、私の知ったことではない」


 二人がため息を吐いた。


「それだけの力を持ちながら、なにをしようというの?」


「50年もかけて鍛え上げたその肉体……。下界では使い道がないぞ?」


 そう言われてもな。功夫クンフーの使い道か……。


「とにかく、ここにはいられない。下山はするが、その後の人生は、自分で決めさせて貰う」


「命数に逆らっても、いいことないよ?」


 そんなことは、知っている。

 だが、腹が立っているのも事実だ。

 そして、従わなくても生きてはいけることを知っている。私なら、運命を破壊しながら、突き進んでいけることも。


「命数か……。運命が導くのであれば、その人物とも出会うのではないのか? まあ、私は、力ずくで道を切り開いて行くが」


 私の決意は、覆らない。

 そう……、私は修行がしたい。強さを求めたいのだ。そして、宝貝パオペイが欲しい。

 今、宝貝パオペイに触れると、全てを吸い取られてミイラになってしまう。

 だが……、他に方法がないとも限らない。

 それと、術だ。私は数種類の術が使える。それが、仙人とも対峙できる理由でもある。術を思う存分使ってみたいのもある。ここは、狭すぎた。

 最後に騎獣だな~。憧れがある。下界で、妖怪でも捕まえて騎獣にするか? それくらいは、許されるはずだ。仙人でもない一般人が乗っているのだし。





 友人二人の見送りを受けて、下山する。

 方向は、師匠に指示された方向だ。一応、東の国だな。


「元気でね」「また、会おう」


 二人と、熱い抱擁を行う。

 師匠に命令されているとはいえ、彼等は50年来の友人であることに変わりはない。


「もう人ではないが、君達も体に気を付けるんだぞ。死なないわけじゃないんだ。積み上げて来た功夫クンフーを失うなよ」


 こうして、私の50年に渡る修行が終了した。


「そういえば、弟弟子は見送りにも来てくれないのだな」



 山を降りて、下界に辿り着いく。

 本当は、このまま進まなければならない。


「師匠は、〈千里眼〉で監視していそうだな。そして、仙人や道士を使って私に指示を出して来そうだ……。もっと痛めつけておけば、良かったかもしれない。それこそ、再起不能まで追い込むべきだったか……。そうすれば、私が崑崙山の主になれたかもしれない」


 もう師匠に従う理由はなかった。

 私は、術の〈隠密〉を発動した。これで、誰も私を認識することはできない。

 それが、三大仙人であってもだ。


「さて……、何処に行くか」





 昔々……神話の時代のあるところに、一人の青年がいた。熊や虎を素手で倒し、仙人を圧倒するフィジカルを持つ、ちょっと変わった青年だった。

 そして、未来の記憶を持つ転生者でもある。

 私達の世界の『封神演義』とはかなり違う、かなり変わった物語の始まりです。



 主人公のモデル……太公望、呂望、呂尚、姜子牙

 本当は、仙人骨を持たない道士になれなかったおじいちゃん。

 ヘーキチは、フィジカルカンストで術を極めた20代の青年にしました。

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