かわいい我が家のシスターは魔導少女~「大好きなお兄ちゃんを管理するのは妹の大事な務めなんだからね!」と言って兄離れしてくれません~

龍威ユウ

第0話:ブラコン気質な四人の妹は今日も元気

Xパート:ナレーション?「これは、とあるお兄ちゃんと四人の妹の、ラブなお話なんだな……」

 本日の天候は雲一つない快晴。

 吹き抜ける微風は優しく、燦燦と輝く太陽の下を小鳥達が優雅に泳ぐ。


 正しく平穏の二字がもっとも的確であろう、ここ城郭都市オルトリンデは毎日が祭のように活気で満ち溢れている。


 争いとは無縁で、誰しもがきっと楽園と口を揃えて言うだろう。

 そうと言えるだけの光景は、この都市には確かにある。

 ハルカが、いつもの通い慣れた道を歩いていると何人もの町人が声を掛ける。



「おぉハルカ! 今日も元気そうだな」

「おはようございますハンクスさん。俺の方は、まぁボチボチと言ったところですよ」

「おはようハルカちゃん! 今日もちゃんと教会の方へ行くのね」

「リンダおばさん。ちゃん付けだけはいい加減やめてほしいっていつも言ってるのに……」

「アタシからすればハルカちゃんもまだまだ子供と同じよ!」

「ポプラおばさんまで……」



 いつもとなんら変わらない、暖かな日常だ。

 一頻り会話を楽しんだ後、ハルカは副市内にある教会へと足を運ぶ。


 聖母の姿を象ったステンドグラスに陽光が差し込めば、床に美しい模様をそこに描く。


 広々とした空間の奥、黄金で象られた大きな十字架と祭壇の前、四人の修道女シスターの姿があった。


 しんとした時間の中、吐息すら奏でることなく一心に神への祈りを捧げる姿は、どこか雄々しくも美しくある。


 とりあえず、今日も四人は相変わらず元気そうで何よりだ。

 人目だけ見届けて、ハルカの用事はもうここにはない。

 シスターの安否を確認する。それが終了した今長居は無用である。

 さっさと帰ろう。ゆっくりと、だがしかし迅速にくるっと踵を返す。

 後はこのまままっすぐと教会から離れればそれで終了だ。

 立ち去ろうとするハルカだが、背後より強烈な寒気が疾風の如く吹き抜けていく。

 凍てつく寒さを帯びていながら、さながら鋭利な刃物の如く鋭い。



(くっ……こいつら、相変わらずなんて殺気を放つんだ!)



「ハルカお兄ちゃん、どうして来てくださったのに私達に一言も言わずにどこかへ行こうとするんですか?」



 と、ウェアウルフ族の少女――カレンは穏やかな口調ながらも、赤き瞳はらんらんと不気味に輝いて怒りを明確にしている。



「お兄様……マキ達を置いてどこかに行っちゃうの……?」



 と、背中に生えた身の丈と同等かあるいはそれ以上はあろう、群青色の双翼を生やしたハーピー族の少女――マキは今にも泣きだしそうだ。



「兄上様……このアタシの策から逃げられると思ってる? 既に兄上様は逃げられないよう百八式の策がそこらじゅうに張り巡らされているのよ!」



 と、虎耳と尻尾をぴこぴこと忙しなく揺らして眼鏡をくいと上げるワータイガーの少女――アイカ。



「兄君……我らとお話しするのは、やはり嫌なのか?」



 と、鹿のような角を生やした少女――シェンファは表情かおを曇らせてあからさまに落胆の感情いろを示す。

 ざっくり言うと既にちょっとだけ泣いている。


 どうも、四人にこんな顔をされると無碍にできない。


 それが自分の甘さだと言われればそれまでだが、かと言って簡単に振り払えるほど冷酷でもない。


 逃げるのは諦めて、仕方なくこの義妹達の面倒を見てやることにした。



「……はぁ、わかったよ。降参だ降参。礼拝中の邪魔をしちゃ悪いと思ったんだよ」

「もうっ! ハルカお兄ちゃんならいつだって大丈夫だって言ってるじゃないですか」

「そうは言ってもだな……」

「お兄様……マキと今日はずっと一緒にいてくれるよね? お仕事ももうないよね?」

「いや、仕事はまだ終わってはないんだ」



 ハルカがそう言うと、マキが「ふぇ……」と大粒の涙を目に浮かべてしまった。



「お、おい泣かないでくれよマキ。気持ちはわからないでもないけど、俺だって仕事をしないとここに寄付することもできないんだ」

「でも、それで兄上様との時間が減ってしまうのは本末転倒というもの。ここはやはり、兄上様も一緒にここでアタシ達と一緒に暮らすのが吉と見たわ!」

「修道院や教会に男の俺がいるのはおかしいだろ。後司祭になるるもりも毛頭ない。俺は……生憎、神様って奴を信じてないんだ」



 神様がもし、本当に存在するなら今頃もっと世界は平和なはずだ。

 祈りを捧げたところで結局願いを叶えるのは自身の力のみ。


 祈るよりも如何に行動するかが一番大切なことだと、ハルカは信じて疑わなかった。



「兄君、今日のところはどうか我らと一緒にすごしてくれないだろうか……?」

「そうしてやりたいのは山々なんだがな……この後、少し手伝いがあるんだよ」

「またハンズさんのところですか?」

「いや、今日は――」



 次の瞬間、教会の床の一部が大きく陥没した。

 シェンファの右足がすっぽりと床下に埋まっている。


 床を踏み抜くほどの震脚は見事と言う他なく、だが仮にも教会と言う神聖な場所ですべきではない。


 後で弁償代を支払うのは、この娘らの兄であるハルカなのだから。



(今月で何回目だと思ってるんだこいつ……!?)



 基本、この四人のシスターは一様に馬鹿力だ。

 元が人間ではない、モンスター娘であるから人間と同じ姿形こそしているけれど、根本的な部分はまるで異なる。


 即ち、ただの地団駄でも人の命を奪うことは羽虫を潰すが如く容易い。



「兄君……まさかとは思うが、女ではないだろうな!?」



 と、怒りを露わにしたシェンファに詰め寄られた。


 ここが教会と言う場所であることを忘れていないか? 他の三人もシェンファほどでないにせよ、その顔にはハルカに対する怒りと嫉妬の感情いろがはっきりと見て取れる。



「ハルカお兄ちゃん……私達をおいて、女の人のところに行っちゃうんですか……?」

「いや、別に置いていくとかいかないとか……。そもそも同じ町の人間だぞ?」

「やだぁ……お兄様マキを置いてかないでよぉ……!」

「お、おいだから落ち着けって……!」

「これはその卑しいメスを殺さないことには、兄上様とアタシとのラブラブ生活に支障が来してしまいかねないわね……!」

「お前、仮にもシスターだろ。軽々しく殺すとか言うなよな……――誤解を解かせてもらうが、手伝うのはマリーさんの家だよ。あの人は既婚者なのは知ってるだろ?」

「な、なぁんだ。それならそうと早く言って下されればいいのに……」



 と、ホッと胸を撫で下ろすカレン。

 他の三人も口々に同様に安堵の息をもらしていた。



「お前ら聞く耳持とうとしなかっただろ……とにかく! お前らを置いてどこかに行くことは絶対にない。だからまぁ、なんだ。安心しろ」



 頭をそっと撫でてやれば、それだけですんなりとこの娘らは大人しくなる。


 目をきゅっと細めて愛撫を受け入れるばかりか、もっとしてほしいと強請る様は、本当に小動物のようでどこか愛くるしい。


 しばらく撫でてようやく、満足したらしく解放を許可した四人に見送られながら、ハルカは今度こそその場を後にした。


 頭をそっと撫でてやれば、それだけですんなりとこの娘らは大人しくなる。


 目をきゅっと細めて愛撫を受け入れるばかりか、もっとしてほしいと強請る様は、本当に小動物のようでどこか愛くるしい。


 しばらく撫でてようやく、満足したらしく解放を許可した四人に見送られながら、ハルカは今度こそその場を後にした。



「――、お兄ちゃん……か」



(俺はいつまで、こんな生活をすればいいんだ……?)



 カレン、マキ、アイカ、シェンファ……種族も出身も異なる妹らの存在は、ハルカにとって異分子極まりない。


 何故ならば血の繋がりはともかくとして、彼女らの精神保持のためにどこの誰かも知らない、赤の他人のフリ・・・・・・・を強要させられているのだから。




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