何でも切れる壊れた刀~最強のスキルを授かった村人が世界を周る~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

 脇差を抜く。

 そして、両手で握り、スキルを発動させる。

 目の前には、魔物……、体長は3メートルくらいかな。

 距離は、15メートルはある。完全な安全圏だ。

 防御系のスキルのない俺には、この距離が重要となる。


 魔物……、大猪だな。あの硬そうな頭で攻撃されると、俺は一瞬でミンチになると思う。

 避けても、爪が鋭そうだ。喰らったら真っ二つだろうな……。

 大猪が立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。


「……五月蠅いな」


 俺は、冷静さを保っている。

 スキル発動前の俺では、一目散に逃げる以外の選択肢はなかった。

 いや、危険な森に入ることすらなかったと思う。


 ここで、大猪が痺れを切らしたのか、距離を詰めて来た。

 四足歩行か。


「……所詮は獣だな」


 そして、素早い動きだけど、直線的だ。

 師匠に習った相手の動きを観察する。


『片足が地面から離れた瞬間は、方向転換できないんだったよな』


 当たり前のことだけど、武術を習わないと覚えることもなかった。

 そして、今目の前の大猪は四足歩行だ。

 後一秒もすれば、間合いを潰されてしまう……。


 大猪を観察し続ける。

 四足歩行だけど、走るとなると、一瞬地面から離れる瞬間があるんだな。

 俺には、その一瞬で十分だった。


「……ふぅ~。目の前の全てを断ち切る!」


 俺は、脇差を振り下した。

 脇差の切っ先は、大猪には触れていない。だけど、大猪から鮮血が飛び散った。



 スキル:絶対切断



 俺の技能スキルだ。俺が先日、神様から貰った祝福。

 これにより、生活が一変した。

 初めは、飛ぶ斬撃だと思い込んでいた。だけど、経験を積み理解が深まったので、本質が見えて来た。


「空間を切断する……。俺の射程距離内であれば、どんな物質でも壊せる。正直チートだよな」


 ここで、大猪の突進が止まった。

 二つに分かれた大猪の体は、俺の左右を通り過ぎて行き、その突進力だけで転がり回っていた。

 その突進力が失われて、止まったんだ。

 大猪の左半身は、樹にぶつかり止まっている。大猪の右半身は……、10メートル以上先まで進んでいた。


「あんな突進喰らったら、終わりだよな」


 以前、村にいた時に、大猪と戦った冒険者の遺体を見たことがあった。

 鎧と盾が潰されており、生き残った冒険者は片腕を失っていた。

 今の俺であれば、そんな魔物も一掃できる。


「まあ、奇襲を受けないことが、大前提なんだけどね。やっぱり一人じゃ危ないよな」


 驕る気はない。

 スキル発現前と同じく、謙虚に生きて行きたいと思ってもいる。

 だけど、有用過ぎるスキルを授かり、また、村に貢献できるとなると、害獣駆除くらいならと思ってしまう。

 村は、高い金額を提示して、冒険者を雇う必要もなくなった。

 そして、素材を売却できる。これが、美味しい。


「さて、素材の回収と行くか。まず、内臓を取り出して軽くしないとな。血抜きは……、不要かな」



 その後、重過ぎて運べなかったので、一部分だけを持ち帰ることにした。

 本当であれば、毛皮も良い値段で買い取って貰える。

 だけど、俺のスキルを用いると毛皮の価値がなくなる。これも考えないとな。


 村に着き、村長宅へと向かう。

 村人の視線が痛いな。見せびらかせる意図はなかったんだけど、こんな小さな村の中央通りだと目立ってしまう。


「ルーク。それは、大猪か?」


 横を向く。

 声をかけて来たのは、この村の自警団の人だな。


「山菜採りの邪魔をしていた魔物の一体だと思います。なんか……、倒せちゃいました。魔物同士で縄張り争いをしていたので、今ならば森の一部になら入れるんじゃないかと思います」


 ここで、足を止めたのがいけなかった。

 わらわらと村人が集まって来る。それと、村に滞在している冒険者もだ。

 状況を説明しなければならなくなった。


 一通り説明し終わる頃には、村長が来て、再度説明を求められる。

 同じ話を繰り返した。


「ふむ~。ルークがいれば、また山菜採りが再開できるかもしれんのう~」


 村人が、ザワザワし出した。


「とりあえず、肉は一部分しか持って来られませんでした。村長、人手を借りれませんか?」


「ふむ~。良かろう~。荷車をかしてやれぇ~」


「ありがとうございます」


 こうなると、村人が騒ぎ出す。

 誰が行くのとか、山菜採りも同時に行えるのかとか……。

 村長に村人が、詰め寄って行く。


 俺は、村長の判断を仰ぐ前に荷車を引いて、元来た道を戻って行った。まあ、誰か来てくれるだろう。


「害獣駆除となる魔物狩りも、数匹討伐できた。村も潤っているし、今はいい事しかないな」


 有用な技能スキルを得て、有頂天になる気はない。

 運搬が終わったら、また素振りの稽古をしよう。


「ルーク。手伝うぞ?」


 自警団の人が、着いて来てくれた。


「ありがとうございます。一緒に行きましょう」



 結局、三人で荷車を引いて、森に帰って来た。

 車輪が、地面に埋まる。とても一人では運べなかったな。

 この村は、協力し合って生きている。

 それは、孤児だった俺に、誰でも手を貸してくれると言うことだ。もちろん俺も、村のためになにかしらの貢献と言うか、慈善活動は行っている。

 ドブ攫いとかだったけど……、今は違う。


 そんなことを考えながら、村に帰って来た時に、俺を待ち受けている人物がいた。

 一瞬、息が止まる。


「ハンナ?」


「ルーク……。二ヵ月振りだね? 元気だった?」


 二ヵ月前に分かれた、俺の義姉弟。その一人が村にいた。

 見た目と言うか、装備が目に付く。



 分かれたと思った道が、交差した瞬間だった。

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