7・時には現実逃避も必要だ
翌日の会社帰り、蓮は悠の運転する車で映画館に向かっていた。
『一八五番目の殺人~男たちの賛歌~』のパンフレットを購入するためである。
──ほんとにいるのか?
映画館の前につき、車の中で待っていると言えば、
「蓮の分も買ってきてあげる」
と言うので、
「一緒に住んでることだし、悠のを見ればいいと思うんだ」
と上手いこと回避した。
だが彼女は、
「布教用も必要かな?」
と言い始めた。
あんなクレイジーな映画を誰に勧める気なのか?
そういえば……と過去を振り返る。
『戦場のアナルリスト』と言う映画も嬉々として観ていたなと。
ジャーナリストが戦う野郎どものアナルリストを作るというトチ狂ったコメディである。
写真ではなく模写。
お尻が風邪ひきそうである。
だが、この映画の笑うとことはそこではない。
模写中にミサイルなどが飛んできて、邪魔をされるとジャーナリストがブチ切れ。ガチムチの彼、実は世界最強と言っても良いほど戦闘に長けた元軍人。
模写されている野郎どもなんか足元にも及ばない戦闘力を持っている。
突然戦闘機に乗って、仕返しに出向いたりするのだ。
なにがなんだかわけのわからない、カオスなアクションコメディである。
──あの時も布教用にパンフレット買っていたが、誰に配ったのだろうか?
「誰に布教する気なの?」
蓮はそれとなく悠に聞いてみることに。
「三多くんと蒼姫くんに」
蓮は思わず額に手をやった。
あんな痛そうな映画を勧めると?
悠もなかなかクレイジーだなと思いながら、
「ああ、うん。いいんじゃない?」
と適当な返事をする。
引きつった笑いを浮かべながら、ひらひらと手を振ると彼女は映画館へ向かっていった。
一人になってしまった蓮は胸ポケットからスマホを取り出すと、映画のレビューサイトへアクセスする。
「パニックホラーとか観たかったな」
そんなことを呟きスクロールしていくと、これまた悠が好きそうなトチ狂ったコメディが。
『麻薬密売犯は二度隠す』というタイトルの様だ。
隠す場所が……定番だ。実際にそういうところに隠すらしいが。
物語の概要はこうだ。
ある空港に麻薬密売犯が降り立ったが本人が特定できない。
そこで、気づかれないように空港にいる全員の股間を調べるというコメディである。
「全員って……クレイジーすぎる」
この日、空港にいたのは約三千人。気が遠くなりそうだ。手でモミモミして調べるらしい。
「警察犬とか使わないで、素手で?!」
蓮は腕組みをし、その様子を想像する。いくら警察の協力とは言え……モミモミ。ちょっと面白そうだなと思う蓮であった。
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