返済液体で成敗

1gami

注射器

 俺は今奇妙な部屋で貧弱なパイプ椅子に座っている。対面には取調室にありそうな鉄の武骨な机、黒いスーツを着た胡散臭い男と座りそれを守るように二人スーツを着た男がいる。白っぽい灯りが照らす部屋は狭くどこかの地下室やシェルターというイメージが湧いてくる。俺が部屋を探っていると「ここに連れてこられた理由は分かるか?」と真ん中の男が尋ねる。俺はその問いに頷いた。俺は借金をしている。しかも多額の。「なら話は早いな。」と男が俺に催促するように机をトントンと叩く。が俺は情けなく「金はありません」と言いながら相手の顔を見ないように視線を下げる。「じゃどうすんだ」金を返す気はなかった。闇金にまで手を出したからには死をも覚悟していたしいつかこうなるだろうと思っていた。俺は今から自身の中身が取り出されるのだろうと半ば諦めに近い状態でぼーっとしていた。目の前の男が溜息をつき俺に向かって「お前には二つ選択肢がある」と言った。俺は顔を少し上げ男の顔を見る。すると男は読んでいたかのように目を合わせ、少しにやりと笑い「ああ、二つだ。」と自信満々に言う。それが少し悔しくまた顔を下げ「教えてくれ」と問う。「一つはお前の予想通り、臓器を取ってそれを金にする。もちろんお前は死ぬ。」俺は顔を動かさず、「ああ」と少し返事する。「もう一つは、これだ」そういうと男はジェラルミンケースを鈍い音を出して机に置き、中から液体の入った注射器を取り出す。「これで俺たちを楽しませろ。」俺は顔をあげて注射器を見る。少し察しが付く。「これの他に5本注射器がある。それらはそこのやつと全く同じ見た目をしている。」そう男は言うとケースを回転させ中身を見せ確認させる。俺は完全に察する。「ロシアンルーレット」男を睨みつけるながら喋る。「ああ、その通り。」男は頷き左横の男に合図を出す。横の男は後ろの廊下へ出ていき見えなくなる。男はそれを気にせず説明する「先に出した方には毒が入っている。強力だ。それをもう一度ケースに戻し場所を入れ替える。」男はケースを回転させ見えないようにし、注射器をケースに戻した後ケースの内側で手を動かす。一通り終わったのか男はもう一度回転させ「一本で500万くれてやる。」500万という大金に目を大きく開けた後「つまり4本打てば俺は死ななくて済むということか」と聞くと、男は小さく笑う。「ちなみにこの毒だが少し特殊でな。苦しみは一瞬で後遺症もない。どうだやるか」こんな甘い話があるのかと多少不安にはなるがやらないよりかはましだろう。「やります」そう俺が言い放つと同時に、出ていった男が人を乗せた車いすを運んで帰ってくる。それを見た瞬間嫌な汗が流れた。車いすに拘束されている人はボロい布で頭を覆われている。その中から何かを必死に伝えるようにしゃべっているのだろうが、口がふさがれていて、聞き取れない。「毒の効力を見せてやろう」男はそういうと、右横の男がどこからか取り出した注射器を車いすに器具で拘束された男の腕に構える。「この毒が体を蝕むのに3秒かかる」右の男が注射器を打ったあと。男がカウントダウンする。「3」それと同時にボロ布が左右に振られ、泣き叫ぶ。「2」何かを抵抗するように喉をんーんー鳴らす。「1」体を揺らし、叫ぶ。「0」それと同時に、男が先ほどよりも大きく叫び始める。その姿はまるで獣だった。手は震えに震え、足腰がどんどんと振れ、車いすや拘束器具がガタガタと大きく響いている。体を揺らしすぎたせいか、車いすが横転するもまだ叫んでいる。まるでこけたのに気づいてないように。しばらくしたあと、男は動かなくなった。それを見届けた後、左右の男はそいつを回収し後ろの廊下へ帰っていく。俺はあっけに取られ、恐怖で手も揺れ呼吸が上手くできなかった。「さあ、選べ」男は俺が震えているのを喜ぶように指示する。俺は立ち上がり、上からケースを見て何か違いはないかとやや焦り気味で探すも、「無駄だ」と笑われる。分かっていたが、実際に言われると無性に腹が立ち、ドンッと座る。最初連れてこられた時は死んでもいいと思っていたが、痛みを死を回避できると思うと急に目の前が怖くなる。生きたいと願うようになっていた。「早くしないと臓器売り飛ばすぞ」と男が冗談交じりのように言う。俺はケースの左から2番目の注射器を振るえる手で取り出し、「これにする」と男に伝え、注射器を左腕に持っていく。「打てば500万、打てば500万。」そう言い聞かせ、左腕にゆっくりと細い針を刺す。くっと針の痛みで少し声が漏れてしまう。「さあ、見せてくれ」男が純粋な子供のように言う。俺は振るえる右手を落ち着かせながらゆっくりとピストンを押す。液体は完全に体へと入る。死への恐怖からか、先ほどの男がやっていたカウントダウンする。3。大丈夫だ落ち着け。上がりに上がった心臓を落ち着かせる。2。ふぅっと長い息を吐き、右手で左肩を抑える。1。これが毒だったら俺もあの男のように…そう考えると少し落ち着いた感情が爆発する。嫌だ!0…俺は肩で息を吸い、はぁはぁと呼吸をする。「おめでとう。残るは3回だ。」男は冷静に俺に告げる。俺はまた注射器を選ぼうとするも、心臓が揺れ手が震えまともに動けないのことが目の前の男を楽しませているというのにイラつき、背もたれにガッと倒れる。「勇気が出ないなら手助けしてやろう。」男は俺をまっすぐ向いて「お前から向いて左から4番目のものにしろ」俺は男を睨みつけた後、奪うように左から1番目の物を取る。男は俺を見て笑う。俺はこの流れのまま左腕に打つ。そして目を閉じた後、恒例のカウントダウンをする。3。この借金を返せたらやり直せる。2。奪われるだけの人生を変えてやる。1。だから「死にたくない…ッ!」0…俺は安堵の溜息をつき目を開ける。あと二回…そう考えた後すぐさま左から5番目のものを選び、左腕に打ち付ける。「そんなに急がなくても金は逃げないぞ」男はククッと悪人面丸出しで笑う。打つまでの恐怖心が俺を蝕むなら、それを与えられる前に打つ。3。この時間が苦しい。死にたくない。2。落ち着け…。毒じゃない。1。ただ心臓の音が鳴り響く。冷汗がぽたぽたと落ち続ける。0…ふぅと息を漏らした瞬間。心臓が一瞬ズキンと止まり猛烈で鋭い痛みが胸部を走ったあと全身が熱くなっていく、脳が千切れるように痛い。痛みをかき消すように叫ぶ体は、震えが止まらない。熱くなってきた体は全身が熱された鉄板に包まれてるように熱い。痛い。心臓が動くごとに血液が遅れるごとに血管が破裂しそうで痛い。体がちぎれてバラバラになりそうだった。

 段々と痛みが引いていき、まだ生きているという現実から安堵の涙と絶望の涙が流れる。いつまにか床に寝転んでいた俺は少しふらつきながら立ち上がり、こけた椅子を元に戻して座る。毒がまわってから何時間経ったのだろうか。あの時間はもう二度と味わいたくない。すると男が「あと一本打てば完済だが、毒がないのじゃ面白くない。」と言いだし、もう一本注射器を取り出しケースを隠しながら入れる。「入ってた一つと交換した。」男はそう言って口角を上げながら俺にケースを渡す。が、俺はそれを見ることも出来ず、ただ下を向いて「打てません」と情けなく、震えた声で告げた。「500万は真っ当に働いて必ず返します…だから。」男はそれを聞くと眉をひそめ、うーんと首を傾げたあと俺に告げる。「それは出来ないな。なぜならお前の臓器をうっぱらったほうが確実だからだ。」俺は机に両肘をついて机につけた頭を抱え込む。深呼吸する。当たらない確率の方が大きい。大丈夫そう信じ込ませ、顔をあげて一番左の注射器を取る。だがそれと同時に男が「最初にも言ったがこの毒は特殊だ。」それを聞き打とうとした右腕を止める。「体には限界があるだろ?だから許容量を超えて毒が体に入ったら、死んじまうんだ。つまり2回目は死ぬかもしれないということだ。」それを聞と同時に俺は注射器を机に落とし、「無理だ…」と小声で言った後、立ち上がり机をドンッと叩いて「無理に決まってるだろ!」と叫び男を睨みつける。すると段々意識がボーっとし体に力が入らなくなり、地面に倒れ込んでしまった。ハッと意識が戻ると同時に一瞬で違和感に気づく。目が見えないのだ。目を開けているのに暗闇で妙な心地になる。どうなっているんだ…?するとたちまち振動して揺れていることに気づく。再度恐怖がこみ上げる。恐怖で声を出そうとすると口に布が回されて上手くしゃべれないことに気づいた。そして振動は止まり、体が一瞬前へ動くも、何かに止められて動けない。恐怖で振るえる体を落ち着かせようと深呼吸をしようにも大きく吸えない。…まさか。そう思った直後。「3」やめろ!体を大きく揺らし頭を振る。「2」声をだそうにも上手く出せず、みっともなく喉を鳴らす。「1」やめてくれ!まだ…!まだ死にたくない!「0」

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