レベル6 スライ村
俺のふるさとスライ村。
修行のためとは言え、一度は出たふるさとなのだからもう帰るまい……と思っていた。
ふるさとは遠くにありて思うもの。
どーせ帰っても、知ってるヤツはみんなとっくの昔に経験値になってるだろうし……
きっと、よけいにさびしさがつのるだけにちがいないのだ。
でも……妹、か。
そう。
マチコちゃんには帰りを待っている妹がいるらしいのである。
すると、どーしても『
さて、そんなワケでスライ村へ向かう俺たちだったが、その道中でも何回か敵にエンカウントした。
そのうち3回はゴブリンの集団である。
これはさっきの経験があるぶん、自信をもって戦いにのぞめた。
ぼよよーん、ヒュン!
「な、なんだこのスライムは!」
「速え!!」
つーか、こうやって見るとゴブリンってすげー弱えんだなぁ。
「く、くそ!覚えてやがれ!」
そして、彼らの捨てゼリフはみんな同じなのだろうか?
さらに行き行きて、ゴブリンよりも
こうもりバット。
化けキノコ。
ガイコツ戦士。
みんなスライムからすれば雲の上のような存在のモンスターたちだ。
とくにガイコツ戦士なんて(サビているけど)
「うわ!剣が折れた!!なんて
「く、手が……しびれる」
「1対1になるな!囲むんだ。そっちへ回れ!」
「なに!? スライムが二匹になったぞ!?」
びよーん! びよよーん!!
「ダメだ……逃げろ!撤退だ!!」
みんなこちらがスライムだから油断しているのか、やけに動きがダラダラしていた。
それから分身なんて修行150年目あたりで自然にやっていたことだったけれど、このへんではめずらしい能力らしくビックリさせることができたのも大きかったのだろう。
俺はなるべく周辺の自然環境を破壊しないように心がけながらそぉーっと攻撃を繰り出し、次々と敵を倒していった。
「おじさん! 村が見えてきましたよ!」
こうしてスライ村へ到着したときには、もうあたりはすっかり夕暮れにさしかかっていた。
「……」
村のスライムたちの青がそれぞれ夕日の赤に染まってゆくのがとても情緒があって、胸がキュンとするのを感じる。
ふるさとの香り。
もう忘れていると思っていたけれど、数百年たっても記憶の奥底に残っているものなのだなぁ。
「あ!お姉ちゃん」
そのとき。
一匹の少女スライムがぽよん♪ぽよん♪とこちらへ駆け寄ってきた。
「チカコ!」
マチコちゃんはその少女スライムと身体をすりつけ合い、ニコニコする。
「おそいから心配したんだよ!お姉ちゃん、初級冒険者の経験値になっちゃったんじゃないかって……グスン」
「フフ。だいじょうぶよ。こうしてちゃんと帰ってきたでしょ」
とても仲がよさそうだ。
「この子がマチコちゃんの妹かい?」
俺は後ろからそう尋ねたのだけれど、
「お姉ちゃん。このおにいさん誰?」
と、反応したのは妹の方だった。
……しかし諸君!
お聞きになっただろうか?
この子は『おにいさん』と言ったぞ?
これはこの子の方がプニプニの
「このおじさんはね。私を助けてくれて、ここまでおくってくれたのよ?恩人なの」
「ふんっ」
しかし、妹のチカコちゃんは、すごく敵を見る感じで俺を見ている。
「どうせこのおにいちゃん、お姉ちゃんとプニプニしたいから助けたのに決まってるわ!」
ギクッ!
「キ、キキ……キミね。女性を助けるのにプニプニするとかしないとか、そんなことはだね……」
「そうよ! おじさんはそんなことを考えたりはしないわ」
さらりと釘を刺すマチコちゃん。
「そんなのウソよ!オスはみんな
と言って、お姉さんの後ろに隠れて『べー』っとするチカコちゃん。
……まあ、いいか。
こうして姉妹がちゃんと会えただけでよしとしよう。
「やれやれ。じゃあ、俺はもう行くよ」
「え、おじさん。村に泊まっていかないんですか?もう遅いですけど……」
「だいじょうぶだよ。俺はさすらいのスライム。すげー強えんだから、夜のモンスターにも負けたりはしないさ」
「おじさん……」
それに、これ以上このふるさとの景色を見ていると泣いてしまうかもしれない。
女の子に涙を見せるワケにもいかねーしな。
「あばよ」
こうしてカッコつけて振り返ったのだけど、そのとき、
「待ちなされ」
と、知らない声で呼び止められた。
ちっ、なんだよ。
せっかくカッコいい立ち去り方だったのに……
仕方なく振り返ると、そこには白ヒゲをたくわえた変なスライムが杖を突いて立っていたのであった。
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