2.初めてのドイツ来日

 荷物を詰める作業をしながら、他に入れておくものが他にないかと辺りを見渡す。オレンジ色の旅行バックにできるだけ詰めれるものは詰めたい。


「え―……他にも何かあったかなぁ」


 かなり時間が迫ってきている。

 そう、まだ自分用の荷物がまとめられていないのだ、ドイツへ行く当日に。自分の家から東京駅で駅に乗って成田まで行くのに59分……飛行機に乗らなきゃいけない時間は午後3時だから、まだ間に合う。搭乗とうじょう手続きも含めると1時間くらいかかると父さんが言っていたから急がねば。さっきまで7時くらいだったが、もう30分くらい経っただろうか。


「うーん、時間的に東京駅に行かなきゃいけない時間が迫ってきてる……」


 そんな状況でこんなに荷物を迷ってる俺は優柔不断なんだろうな。部屋の中は純白に近い白い壁と埃一つない磨き上げられたフローリング。普通ならそこまで綺麗にしてる人はあまりいないと思うが、父が怠け者な所があるため身に付いた習慣である。もう少し掃除好きな父親であって欲しかったが文句を言ったところで口が達者な父親にいつもうまく言いくるめられてしまうのでもう等に諦めた。

 海外に行くと言うチェックが入ったカレンダーの近くにはこの前見た写真が飾られたコルクボードがある。


「……この写真は持っていきたくないかな」


 知り合いの恋愛関係が異様に重くて陰口とかも言うヤツもいたけれど、「みんながみんなどこか欠けてる部分を補っていくのが友達だ」なんて、いいこと言う奴もいたな。ああ、そういえば航空券や携帯は忘れずにちゃんと持って行かなくてはいけないし、気をつけないと。

 机に置かれた携帯と航空券を忘れずに持っていくにはまだ準備が整っていない。

 なんて自分の部屋が名残惜しいからって視線をずらしていたらもう40分だ。少し溢れてしまわないか心配していたが何とかに収まりそうな荷物を無理やり押し込む。

 翔太は自分の部屋を見回しながら、他に詰めるものがないか探す。


「……大丈夫なのかな? 俺、海外なんていったことないし……」


 というか、初海外なわけだけど。外国の人とちゃんと話せるかな。

 英語は少しくらいならわかるけど……うーん、不安。

 好きなアメコミや少年漫画が置かれた本棚。学生時代の青春が詰まった使い古したスパイク。好きな歌手などのジャッケットCDなどなど、持っていけるものなら持っていきたいものばかりだ。

 だが着替えとある程度の持ち物しか持っていけないのに、どうしたものか……詰めたい分が異様に増えてしまう。


「うーん、困ったなぁ」


 ドイツについては、住んだことも行ってみた事もない自分からすれば未知の領域に足を踏み入れるような気持ちだ。ネットの情報とパンフレットくらいの知識しかないから、緊張している。

 高校の頃の修学旅行で、京都や大阪などの日本の観光名所を回ったくらいしかない俺だ……飛行機で行った場所なんて国内くらいしかない。

 あまりの不安から吐いても吐ききれない溜息が出る。


「シャキっとしろ俺! ドイツにはコーラとかお肉とか美味しい物があるって父さんが教えてくれたし、言ってどんなのか味わってみなきゃダメだろ!!」


 自分を律するために両頬を数回叩く。

 そろそろ急がなくては父に怒られてしまうと考えていたら開いている窓から父の大声が聞こえてきた。


「翔太―!! 時間が間に合わなくなるだろうがー!!」


 思わずびっくりして、窓越しに外にいる父の姿が見えた。

 昇太は、焦らすように口元に右手を当てて叫んでいる。


「ちょっと待っててー!!」


 父に急かされ慌ててケースを持ち上げる。

 出窓を閉めて机の上に置いてあった携帯端末を服のポケットに入れて忘れずにリュックに航空券とパスポートを入れ、部屋から出た。


「うわぁわ、わわ、わわわ、わわわわわ!! とっ!」


 大きな足音を鳴らしながら駆け足で階段から下りる翔太。

 足を階段から踏み外してしまいそうになりながらも何とか玄関へ辿り着いた。


「早くしろー! お前待ちだぞー!?」

「ごめんって!」


 外にいる父の催促の声が掛かると、俺は大急ぎでスニーカーを履く。

 靴紐に悪戦苦闘をしながらもなんとか靴を履き替えることができ、靴を履き終えるとすぐに外へと飛び出した。

 車に乗り込むと、父さんから苦言を言われる。


「少しでも搭乗時間に遅れたら駄目なんだからな」

「ご、ごめん」


 父さんは車を発進すると、俺の気を紛らわせるためかお金の話を始めた。


「お前あんまりゲームで課金しまくるから金銭感覚無いだろ? 父さんがいる間は金銭感覚正されてもらうぞー」

「えぇ!? 嘘!?」

「当たり前だろ、爺ちゃんたちに金は集らせないからな」

「あ、あはは……そうだねー」


 翔太は目線を横へと逸らす。

 親に金的な意味で逆らえない息子とかホント情けないなぁ……なんて、父さんに言えるわけないけど。


「ちゃんと航空券持ったのか、忘れてないだろうな?」

「あ、うん大丈夫! パーカーのポケットに入れたから!」

「そっか、骨になったお前を拾いに帰るのは嫌だったから良かったぜ」

「父さん医者でしょ!? 骨じゃなくて生きてる俺の身体拾ってください!」

「はっはっは、じゃあ行くぞー」


 父の笑い飛ばす声に笑いながら歩いて東京駅に乗った、我が家を最後に空港へ。手続きとか、荷物の重さとか、色々な検査も乗り越えて飛行機に乗る。久しぶりの飛行機に翔太はずっと窓越しの外を見ている。

 立って眺めた空は、雲の上を飛んでいる今だとだいぶ違う。

 修学旅行で見上げた空よりも、どこか違う感動があった。


「父さん、やっぱ外国に行くって時の感覚と修学旅行で行く時の感覚って違うんだね」

「当たり前だろ? お父さんとしてはもう気分がルンルンだわ」

「……アメリカよりもいいとこあること、ドイツに着いたらレクチャーしてくれる?」

「おう、そして俺と母さんの思い出話もしよう」

「また今度聞くよ」

「なんだとぉ!? 今聞く流れだろー!」


 自分の意見を言いながら父さんの言葉を流す俺は窓に映る雲や空の青さの美しさに浸る。うねるようにゆっくり蠢く大雲たちは、皆一定のラインを引かれたかのように飛行機の下で泳いでいる。

 青空の中で円を描くように巡回する太陽が眩しくて、機内モードにしてあるスマホで写真が撮りたくなってしまった。飛行機の成田で一二時間飛んで午後の八時にドイツに着く予定だから少し眠るのも悪くないだろう。

 父さんも「お前の体力じゃ寝なきゃ持たん」と言って父さんが買ってきた黒のアイマスクを俺に渡す。父さんがオレンジジュースを飲んでいるのを見ながら、俺はのアイマスクをかけて就寝した。

 数時間寝てしまったのか、あくびをしながらアイマスクを取って夜空に姿を変えた空をチラ見すると、日本の空よりも綺麗なのに驚く。 


「……綺麗」


 ……これから、本当にドイツに行くんだ。

 翔太は席の手すりにそっと手を置いて目を閉じる。

 視界がアイマスクに作られた黒の世界に包まれる。

 翔太は目を閉じて、飛行機がドイツに到着するまで睡眠をとることにした。


「おー、翔太。起きろー」

「……もう、朝?」


 飛行機が空港に着陸して、もう昼になったのか父さんに隣から声をかけられて起こされる。

 目を擦りながら、翔太はアイマスクを外した。


「おう、後もう少しで着くぞ」

「そっか」


 翔太たちは空港を下りて本場のドイツの街並みを見る。アーテムシュタット直便だったのもあるおかげか、家も近くにあると聞いて早くドイツの新たな我が家が見たくてしかたなくなる翔太だった。


「本当に俺たちドイツに来たんだね。父さん」

「ああそうだぞ――――ここが、ドイツだ」


 翔太はドイツの空を眺めてあることに気づき、慌てて父に訴える。


「父さん、日本の空よりもドイツの空って綺麗じゃない!?」

「そりゃ大地震以降からでもドイツは先進国の中で一番環境汚染を気にしてる国だからな、車はないわけじゃないが排気ガスの規制にやたら厳しいんだ、ゴミのリサイクルに関してもすごいんだぞ。お前ちょっとはドイツに関して調べたんじゃないのか?」

「えっと、最近復建されたって噂のノイシュヴァンシュタイン城とか? 後、食べ物だったらブルストってソーセージとビールで有名だとか……大体、ネットに出てくることならってくらい」

「そうか、まあ後は住んでから色々と分かるだろうから、頑張って覚えてくんだぞ」

「うん、頑張る」


 翔太は軽く頭の後ろを撫でる。

 ……ここがドイツ、そうか、俺はついに来たのか。

 飛行機の窓で見えたオレンジ色の屋根たちが見え中世をイメージさせる雰囲気でファンタジーの世界に来たような気持ちになったが、ネットで見たベルリンなどの都市よりも高層ビル群などの都市化は進んでいるようだ。

 空から見た景色ではそれぐらいしかわからないがぜひ行ってみたいのは完全に修復されたという噂のノイシュヴァンシュタイン城だ。

 ネットの情報ではドイツ南部にある城らしいため現代の技術の結晶であるスマホで位置を調べてから父さんに連れて行ってもらうという寸法だ。最初は嫌がっていた翔太だったが、ドイツの風景に感動してはしゃいでいるのに父は失笑する。


「わかってるから落ち着けって。最初はあんなに嫌がってたくせによぉ」

「まだ20歳だけど、こういうの見たら興奮は誰だってするでしょ!? ゲームの世界に来れた気分を味わえるのは外国に来る方がより感じたりするもんじゃんか!!」

「ま、それは言えてるわな」


 ドイツの空気は新鮮で、何もかも煌びやかに見えた。一人でスマホをいじりながら歩いている青年、二人で恋人つなぎしながら語り合う恋人、一人で買い物袋を持って隣に立っている娘に笑顔で笑い合う老人。とにかくいろんな人たちがこの場所、ここドイツにはいた。

 翔太は深く息を吸って思いっきり息を吐く。


「……よし」


 ここからが正念場だ、今までの気持ちを新たに俺の新たな人生ロールが、今ここから始まるんだ。

 もう来てしまったんだから、来たからにはいっぱい観光したい。


「あ、でも海外転勤が終わったら、いつかは日本に戻るんでしょ?」

「まあ、それまでの間は思いっきりドイツを楽しめ」

「うん!」

「それと、翔太……これ、どっちの道行けばいいんだ?」

「え? ドイツ来たばっかりの俺にそれを言う?」


 父さんが久しぶりのドイツだったせいか、色々建物が変わっていたという理由で何度も迷い迷って新しい俺たちの家へとやっとこれた。

 4階建ての白と黒で統一されたオレンジ色の屋根が特徴の新しい我が家は、父さんが言うには中古物件だったので安く手に入ったとのこと。新しい家に訪れた興奮で、道に迷って数時間歩いた疲れが吹き飛んだ。


「ここが、新しい我が家……!!」

「おう、なんとかこれたな」

「やっとだよぉおおおおおお! 俺いなかったら絶対来れなかったよ!?」

「いいだろ別に、怠けてるお前にいい運動になっただろ」

「ちゃんと朝と夜はジョギングしてるよ! 地味に知ってるくせしてその反応は何!?」

「とにかく荷物置くぞー、わかってるなー?」

「……もう!」


 翔太は部屋に入ると玄関が日本とは違うことに気が付く。玄関口にはマットが敷かれており日本にある段差がない、その違いに翔太は感心していた。外国って靴履いて家に入るのが普通だけど、やっぱり日本との違いをより感じられる。

 はっきり言ってしまえば、ドイツに旅行に来た感じのノリできた俺だ。

 そんな俺がここの生活をどう乗り越えていくのか、果てしなく長い外国の小説を読んでる時と同じ気分になった。正直、まだ慣れない環境に馴染めるかどうか不安を感じつつ、家の中に一歩足を踏み入れた。


「ドイツの家の部屋ってこんな感じなのかー……」


 基本的にフローリングで壁も白く、日本のよくある一軒家にもありそうな感じだった。父が好きな観葉植物が置かれているあたり、引越し屋にそれは頼んでおいたのだろう。

 くそぅ、俺の漫画とかゲームはダメって言ったのに……電子書籍に手を出さなくてはいけない日が来たのだろうか。

 そうだ、ここは海外……外国の文化に触れる機会が増えるんだ、いいことだと捉えて明日に備えよう。やっぱり三日後に荷物が届くからか、家具が一切ない殺風景な風景が広がっている。

 本当に何もないな、板張りになった床を眺めながら、靴音を鳴らしながら歩く。携帯で確認する時間が午後の10時でもう夜に近かった。

 あ、でもこれ日本での時間だ。

 そう思い設定の所を開いて試してみるが、上手くいかず5分くらいで諦めた。2階に上がれる階段が手前の左端にある。

 思い切って4階まで上がってみるか、そう思ったら行動ははやい。


「あ、危ない危ない」


 忘れてた、今靴脱ぐところだった。まあ、ゆっくり慣れていけばいいか。

 俺は建物の4階の一角の窓から、外を眺めた。窓からの眺めは格別でとにかく絶景だ。


「うわぁ……すごい!」


 空はもう夕方で、日が暮れ赤く沈んでいく風景が見える。

 この建物は絶好の位置に建てられていたようで、絶景スポットだった。

 沈んでいく日が、だんだんと赤くなっていく。しばらくすればこの空は青く染まっていきやがて漆黒の暗闇がやってくるだろう。

 夕日がどことなく眩しくて左手で遮りながらも空を見つめる。

 太陽を見ていると目に悪いと父に言われたことがあるが、空だけ眺めていてもつまらないしやはりメインになる太陽が無くては意味がない。


「ドイツ一日目の記念写真、っと」


 写真を撮るのには絶好の位置と思い、携帯で写真を撮る。

 夕焼けの時の色ってドイツの国旗の色みたいだなってすごく思う。

 優しいだけど、力強いと感じるところがいい。眩く映えるそれは、鮮明に焼き付く。国旗の色の意味は、それぞれ、黒が勤勉、赤が情熱、黄色は名誉を意味しているらしい。ドイツの豆知識だ、覚えておいて損はないだろう。父さんからの情報玄でなくネットで調べ上げた知識だ、パソコンの力って素晴らしい……!

 だが本当に空が美しい……見惚れてしまうのは仕方ないくらいの光景だ。

 やはり環境汚染を気にしている国なだけ日本の空よりもドイツの空の方がずっと澄んでいる。


「ねえ、父さん」

「なんだ、愚かで馬鹿な息子よ」


 1階から上がってきた父に何気なく尋ねる、さりげなく愚かで馬鹿といわれたがそこはスルーで。


「迷ったせいでさっきよりも暗くなっちゃったよね。父さんってホント方向音痴だから」

「しょうがないだろ、人の弱点に揚げ足を取るな」

「だってしょうがないじゃん! 父さんが方向音痴のせいで保育園の頃ずっと夜になるまで待ってた時あったんだから」

「それはしかたないだろ、仕事もあるんだ」

「だけどさぁ、もう少しくらいはやく来てくれたっていいじゃん」

「お前だっていつかわかる、仕事の大変さがな」


 父と他愛ない話で盛り上がったのを良しとして、いったん休憩だ。

 俺は一度、自分の部屋に戻った。


「――――んー、身体動かしたいなぁ」


 ずっと飛行機に乗っていたのだ、体を動かしたくてたまらない。

 ドイツの聞いた話のイメージじゃ、中世みたいな感じの建物だらけだと思っていたら現代的なビルがあったりするイメージはなかったが、ベルリンはどうなのかは気になる。

 パンフレットで事前に見たけど、随分といろんなところがあるようだ。

 翔太はスマホのマップでノイシュヴァンシュタイン城の位置と紹介の画面を見る。再建されたというノイシュヴァンシュタイン城は間違いなく俺の中で行って見たいランキング一位だ。ロマンティック街道に生で見られるからおすすめの場所ってパンフレットには書かれてるのを見たら、絶対行ってみたい。

 二位は世界大震災で無事だったケルン大聖堂。

 三位はアーテムシュタット美術館だ。

 まあ、まだまだ巡りたい場所は尽きないけど、こんなのはまだ序の口だ。


「んー、行ってみたいところ本当にたくさんあるんだよなぁ」


 他にもまだまだ行ってみたいところはあるが巡るのが大変そうだ。ここに来たからにはドイツ語は自然に覚えていかないと駄目だな。

 会話となるとまだまだ初心者である。なんせ、俺は海外経験も初心者救難だから。ドイツの生活も上手く過ごせているかどうかも心配だが、これから覚えられればいいんだし……いいということにしよう。

 二階に下りて、父さんがドイツの番組を見ている時、俺はスマホで検索をかけたある記事が目に留まった。

 ニュース記事の画像と一緒に、内容の言葉が綴られている。


「ドイツのペルガモン遺跡で発生した謎の巨大な繭が孵ったと言う情報が入りました。現在ドイツの調査本部が調査中です……? なんだろう、まさか本当に怪物とかいたりするのかな……?」


 まず、最初に感じたのは繭のほうだった。

 巨大な繭って虫か何かが突然変異でも起こしたのだろうか? そんな報道されるほどの物って言ったらかなりでかいということなのだろう。だが、どうして繭? そんな巨大なものが出たってことは大発見だが、その虫を駆除するとき大変だろう。


「繭……か」


 画像をタップしてそのペルガモン遺跡を見る。ほとんど崩壊していてある一角に柱がたってるくらいの遺跡だった。

 一瞬、白っぽい何かが映ったのは記事に書かれてある繭だと思う。

 その繭から何かが孵ったというより、何かが出て行ったように見えた。


「なんなんだ、これ……?」


 翔太はテレビの内容に少し怖くなり、その繭にはあまり近づきたくないと感じる。翔太は無意識に携帯端末を持っている手に力が入る。背筋が段々冷えてきて、本当に寒くなってきた。

 ホラーゲームやる時って、こんな感じで背筋が寒くなったりしなかったっけ? 孤独感っていうかなんていうか、背筋が強風の吹雪が吹いてるみたいに寒い。

 体がかじかむところの中で、ある一言で俺の寒気が消えた。


「もどかしい」

「――――っえ? なに、が?」


 俺はは心臓がビクッと跳ねたのを感じた。そしてテレビにやっていた視線を親父のほうへと向く。そこには頭を抱えて蹲っている父の姿だった。

 俺は台所で頭を抱えている親父に問いかける。ただでさえ、びびりにな俺には心臓に悪かったのは事実だけど。このタイミングで……っと思ったけど嫌なタイミングだか良いタイミングだかわからないよ、本当もう。


「いや晩御飯のヤツ何にするか決まんなくてなぁ」


 それだけなのになんで蹲ってたのかは、あえてスルーの方向にした。父さんいつも大げさなんだよ、反応オーバー、オーバー。

 俺はちょっと冷静になりながらも上ずった声で買い物に行くと宣言した。


「じ、じゃあ、父さんの好きなビールも一緒に買ってくるよ、ドドドイツのなら何がいいの?」

「ドドドイツってどこだよ。お前、まだドイツに来たばかりなのにそんなお使いできるのかー?」

「ほ、ほら! 俺体で場所とか覚えるタイプだから!」

「まあ、お前土地勘は強いもんなー……そうだなぁ、ドイツに来たならやっぱ黒ビールだろ、ブルストも食いたい」


 テレビにビビッていた俺は親父の言葉になんとなく安心し、ほっ……と胸を撫で下ろす。ビビった、主にホラーゲームプレイしてて後ろから呼びかけられたみたいな感じで……うん、すっごく怖かった。

 海外にせっかく来たのにホラーゲームはおさらばしたい。なんかハートフルストーリーみたいな感じのほのぼのライフを過ごしたいんだよ、俺は。

 翔太は心の中で小さな葛藤しながらも、翔太は支度の準備を始める。

 早く行かないと店もしまってしまうかもしれない時間だろうし、急がないと。


「まー頼んだわー……って、ちょっと待て、お前ドイツ語出来たっけ?」

「うーん、英語で何とか乗り切る」

「いやいや、俺がメモ書くからそれ読め……あ、読みも書いとかなきゃいけねぇか」


 そう言って、父はメモ用紙を取り出し書き出す。

 助かったー! ほんと、父さんはこういう時に頼りになる。

 感謝感激している俺に、父はメモ用紙を渡す。俺はそれを受け取り、すぐに玄関まで向かう途中で父は手をひらひらと振りながら翔太に財布を差し出す。


「買えなかったら、一応事前に日本のインスタントラーメン買っておいたからそれ食え」

「あ、ありがとう。父さん」


 父さん、こういう時手際いいんだよな……普段はのんびりしててそんな様子見せないのに。


「後、しばらく俺は家にいるから合い鍵持ってけよ?」

「ん」


 今は店へと向かおうと自分が好きないつものオレンジのパーカーを羽織る。

 翔太はパーカーを肩からずれないように整えながら玄関のドアに手をかけた。


「行ってきまーす!」

「いってらー」


 翔太は家のドアを閉めて店へと走り出した。

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