Chapter.19 不変
もう気付けば初秋だった。毎日受験勉強に勤しんでいた。母は相変わらずだったし私の病状も落ち着くことはなかったけど夢を見つけた私はとても強くなれた様ながする。
ある夜遅くまで受験勉強中、一階に紅茶を淹れに行き再び自室で勉強をしていたら暫くしていきなり2階に上がってきた母親に引っ叩かれた。
『私とお父さんのセックスが見たかったのか?!この売女!!』
もう今では笑ってしまう出来事だが当時は色々ショックだった(笑)
こんなのは日常茶飯事だったし今思えばもう心が死んでいた様な気がする。何にも思わないのだ。何も考えないのだ。振り返って思ったことも沢山あり当時はそうする事で自分を保っていたんだろうな、と考えている。
父は塾にも通わせてくれて偏差値は決して高い学校ではなかったけど志望校もA判定になる位には成績も順調に取り戻せ始めた。
そんな最中だった。
ある日父に突然言われた。
『会社に保険証使っているからお前が精神科に
通っているのがバレたからもう行かせられない。』
通院を始めて半年も経ってない時だったと思う。
少しずつだけど投薬やカウンセリングで気持ちが落ち着き始めていた頃。
『え…じゃあ私どうしたらいいの?』
『お前はもう頑張れるだろう。行く必要なんてない。
精神病ってやっぱり甘えだと俺は思う。頑張れよ!!彩花。』
でも抗うでもなく私はいつも通り言うのだ。
『わかった』
と。
本当は叫びたくて必死だった。
何で何だよ、って。
私自身の事よりも世間体を優先された事が本当に哀しかった。
思い直せばあれは嘘でただ単に私が精神科に通っている事実が嫌だったんじゃないかとも思う。
中小企業だったり会社によってはそういうシステムな会社も本当にあるのかも分からないけど私自身が社会に出たときにあり得ないと思ったのだ。父自身大手の会社に勤めていたし会社が従業員の、そして従業員の家族が何の病院に行ってるかなんて把握していた会社なんてなかったからだ。
父は精神病が甘えって考えと共に風邪みたいな感覚なんじゃないかとも感じる。精神疾患は1、2回の通院で傾向は分かったとしても病名がつく事もあり得ないのに。だからこそ『お前はもう大丈夫』だなんて言うんだろう。
一気に気持ちが堕ちて形容のし難い不安感、幻聴が酷くなる。
自傷行為がまた悪化した。残っていた処方箋も1日で飲みほした。
あの臨床心理士さんにももう会えなくなってしまった。
最後にお礼が言いたかった。私は貴女のお陰で立ち直れました、と。
でも、もう立つ意味なんかあるんだろうか。
何で。どうして。
富田先生にもその話をしたら約束と違う、またケースワーカーを呼ぶと言ってくれたけどもういい、と言った。うちは変わらない。何しても。
富田先生は最後まで私の為に、と私を説得しようとしてくれた。
『先生、ありがとう。本当にありがとう。』
心の底からそう思っていたしだからこそもう迷惑をかけたくなかった。
クラスメートも受験を控えてる。先生だって忙しいだろう。
先生はただ俯いていた。
いつものボイラー室。先生のタバコの匂い。うるさいボイラーの稼働音。
私の為に時間を割いてもらうのはこれを最後にしよう、そう思った。
私はこの時間が大好きだった。
富田先生は父親のような存在だったから。
こんな時間を実の父親とも築けたら。
それを埋めてくれた先生だった。
今も変わらない私の人生を大きく変えて下さった恩師。
きっと彼が担任でなかったら今の私はいないだろう。
この場を借りて礼を言いたい。
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