第111話 ワンワンワン

君の飼い犬はよく吠える。俺は何度吠えられたかわからない。


でも家族にはべったりだそうで家族に対してはそんな態度は取らないそうだ。だがかなりの老犬で先は長くなさそうだというのは何となくわかった。


そのときは突然やってきた。何でもない日にぽっくりと逝ったそうだ。


元気のない君をどうにか慰めようと俺は色んな場所へ遊びへ連れていった。でも心ここにあらずで、何かにつけてあの子はアレが好きだったとかアレとか遊び道具によさそうだとか。


新しい犬を飼う気はないのかと俺は問うた。君はそんな気はないと答える。


誰彼構わず吠えかかる強面の犬に比べたら、大抵の犬ならべらぼうにかわいいだろうに。そう割り切れないのはきっと家族だからに違いない。


でも後日、君の家に新しい犬がいた。聞けば隣のクラスの男子から生まれた子犬を引き取ったそうだ。


乗り気じゃない君だったが一緒に暮らすうちにすぐにデレていた。ついでに子犬を譲渡した彼といい感じになって昨日ついに付き合ったらしい。


君を責める気はない。だけど、なんというか……彼のそれは卑怯じゃないか。


ワンワンワン。君の家の前を通りかかると例の子犬にまで吠えられた。


俺も大声で鳴いてやろうか。アスファルトに落ちた雫が滲んでいた。

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