第98話 偽りの家族
君が事故にあったと連絡を受けて、慌てて駆けつけた。君は記憶を無くしているようだった。
君は天涯孤独だ。夫を亡くし、独り身で過ごす強い人だった。
それが今や人が変わったように臆病になってしまっている。俺は嘘をついて君を引き取ることにした。
俺には死んだ妹がいる。容姿も君とよく似ていた。
だから君を自分の妹だと偽って共に暮らした。記憶が戻るまで手助けするつもりだった。
もう一年が経つ。次第に元気になっていく君、嘘をついていることで増していく罪悪感。
今の君は幸せそうだ。記憶を取り戻して欲しいという思いのほかに、このままでいて欲しいと思う自分がいる。
君が記憶を取り戻したとき、怒るのだろうか。それとも、ありがとうというのだろうか。
今や記憶を無くした君と共に過ごした時間は記憶の中の君よりも長い。だんだんわからなくなってきた。
兄さんは結婚しないのと君が問う。お前がいるからな、と返すと君は腕を組んで笑った。
兄さんと血が繋がってなかったらよかったのに。肩に寄りかかる君に、俺は兄妹が結婚できるわけないだろと嘯いていた。
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