第39話 栄光

俺は全てを試合に捧げてきた。誰よりも練習して、誰よりもストイックに。


だけどあの日、初めて恋を知った。リングの外で声援を飛ばす君に目を奪われる。


危うく目の前の勝利を逃しかけた。だから、その場で捨てた。


恋心も。熱い衝動も。


俺にはこれだけ。他には何もいらない。


それに、君が見ているのはそういう俺。だから、これでいい。


リングで倒れた相手に君が駆け寄っていく。嘘だろ、君が見ていたのは。


チャンピオンベルトの重みを感じる。ずっと求めてきたものだ。


よかったじゃないか。これで負けていたら笑えなかった。


顔を押さえた俺をレフェリーが漢泣きだと騒ぐ。とんだ見当違いだ。


おかしくて笑ってしまう。少しだけ、そのおかしさに助けられていた。


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