無音
ある日、世界から音が消えた。街には談笑する高校生、仕事帰りのスーツ、公園で遊ぶ小学生。それらの声も靴の音も、見えるのに聞こえない。時が止まったのかと思うほどに、街は静寂に包まれている。
(雪だ)
振り向いた私の目に飛び込んだのは小さな白。雪が音を奪っていた。車も鳥も息を止め、冷たい結晶が異境を映す。別世界が現実に花開く。
ふ、と通り過ぎた人の気配に目を凝らした。懐かしさに泣きそうになるのをこらえてぽつりとその背中を呼ぶ。
しかし、振り向いた先は見知らぬ人が遠ざかるばかり。もう会うことは叶わないのだ。
息を吐いた時にはがやがやと音の戻ったいつもの世界に戻っていた。雑踏の中立ちつくす私を怪訝な目で避ける人々。ちょっと妄想が過ぎたかな、なんて笑って溶け込もうとする。
聖夜、雪景色。私は何かから逃げるように走り出した。愛し君よ、君を知らなければよかったのに。
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