第7話 ユーミ、勇者について述べる
7.ユーミ、勇者について述べる
「お見合いはいつ頃になるでしょうか?」
しびれを切らした公爵家は、遂にエンケラドゥス家に直接申し入れた。
「あ、忘れてたw」
「あー、そういえば」
ユーミとロドリゲスは、それでやっと思い出したようだった。
「どーする? 一応、やっとくか?」
ロドリゲスは恐る恐る聞いた。
今更感があるが、公爵家を無碍にするワケにはいかない。
「んー、面倒くさいけど、断らない方がいいんでしょ?」
ユーミが言うと、
「そうだな」
ロドリゲスはうなずく。
というやり取りがあり、お見合いが進められることになった。
*
公爵家の家名はフォボスである。
当主は、ゴンザレス・フォボスという。
ゴンザレスはロドリゲスの幼なじみで、昔からケンカばかりしてきた。
ロドリゲスが魔王に就任した後、ゴンザレスは心中穏やかではなかったようで、何かにつけて反発するようになったワケだ。
魔王とその周辺貴族で、このような振る舞いがあると政治的な分裂を引き起こしてしまう。
「そこで公爵家より結婚相手を迎え入れれば、少しは落ち着くのではないかとロドリゲス様のアイディアなのです」
使用人のアントラスが説明口調で言った。
「なんども聞いたってばよ」
ユーミは耳にタコ状態である。
アントラスが何度も何度も聞かせてくるので、覚えてしまったのだった。
「それに、最近人間どもがまた勇者を祭り上げてると聞きます」
アントラスは顔をしかめる。
「えー、また勇者?」
それを聞いて、ユーミも「うへー」という顔をする。
人間たちは魔族に対抗できる存在を「勇者」と呼ぶ。
勇者が魔王をピンポイントで打ち倒し、魔族を退ける。
人間たちが考える都合の良いストーリーだ。
だがこれは魔族にしてみれば、ただの暗殺でしかない。
「都合良すぎるよねー」
ユーミは言った。
人間だった前世では救世主だと思っていた勇者が、魔族に転生してみたらギッチョンチョン。
人間は同胞達の間で、明に、暗に、いがみ合ってばかりいる。
小競り合いは当たり前、しょっちゅう戦が起きる。
その理由がまた呆れる。
権力者の私利私欲で戦が起き、その犠牲になるのは民衆だ。
そんな状態で国力が保てる訳もなく、魔族と戦う力は自分たち自身がなくしていっているのである。
そのズレみたいなものを埋めるために、ムリヤリ生み出されたのが勇者システムなのだった。
(自分たちのせいで出来た不都合を、魔族のせいにしてるだけじゃん)
ユーミは生まれてからこれまで魔族として育ち、人間を外から見てきた。
魔族のユーミは寿命が長い。
成熟するのもそれだけ時間がかかるが。
人間の所業は控えめに言っても反吐がでる。
上は私利私欲のために民衆を犠牲にし、搾取し、利益を貪る。
下は私利私欲のために権力者に取り入り、権力を利用し、利益を貪る。
どちらも利益を貪る。
実際、魔族となんら違わない。
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