災害竜のお姫様

月桜 兎

第1話 災害竜と生贄の少女


 今日は、朝から良い天気だ。散歩に向いている晴れの日だ。そう思っているのに、なぜ、我の住処の前に箱がおいてある?



『また、人間共の下らん生贄ごっこか……。これで、何回目だ』



 こう呟いてしまったが、我は悪くない。このような生贄は月に一度は送られてくる。特に、冷害の年や、豊穣の年には、頻繁に送られてくる。


 毎回毎回同じような手口だったため、いい加減に飽き飽きしていた。我がお触れを出せば、辞めるだろうが、そう簡単にはいかないだろう。理由がないからだ。



『そろそろ、可哀想だから、開けてやるか』



 そこで、我はようやく箱を開けた。そこに入っていた人間は、少女と言っても刺し違えなかった。我は箱を住処に入れ、中身を出した。


 いつも我は生贄をこの国ではない場所に逃がしている。もちろん、準備と言いつつ、我の小遣いを渡して去ってもらっている。


 少女が目覚めるまで待つ事にしよう。そう思った時だった。



「うぅん……。ここどこ?」



 少女が起きた。随分と早い起床だった。我は、いつもなら恐れられ、悲鳴があがる所が約束だった。所が、その少女は違った。



「ここは……。そっか!ドラゴンさんの住処だったね!ドラゴンさんどこにいるのかな?」


『我ならここにいるが』


「後ろかな?……!かっこいい!かっこいいよ、ドラゴンさん!」



 はじめてそんな事を言われた。今までの生贄は、我を見て怯えていたのに。それが、少女と同じ年齢であっても、だ。



『我が怖くないのか?』


「強そうだなって、思うけれど怖くないよ」



 少女のそのまっすぐな瞳に偽りはなかった。怯えている姿勢は、全く見えない。心の底から我を慕っているのだろう。



「所で、ドラゴンさんは名前はないの?私は、フルール・フィアータだよ」


『我は昔に、ルジェ・ジャスターと呼ばれていた。今ではその名を覚えている者などいない』


「じゃあ、ジャスター様。私が覚えてあげますよ。そして、私が後世に伝えます。いい案でしょ?」


『フルール……。なぜ我のためにそこまで?我には、さっぱり見当がつかないのだが』


「そんなの、私がジャスター様を好きになっているからですよ」



 この娘……フルールは、なかなかの変わり者のようだ。でも、不思議と悪い気はしないが、いくら何でも、我に求婚は求めた者はいなかった。

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