ターゲットは姫のへそ

「どうしたんだよ?全然別人じゃないか?昨日までは目立たない様に、息を殺す様に気配を消していたくせに」

「そうだよ、琢磨。"王子"の幼馴染ってところ以外の特徴がないのが特徴だったくせにさ」


 休み時間、次の体育の着替えに女子が教室を出て行くと、クラスメイトの金沢颯太、新田竜也が話しかけて来た。普段から一緒に馬鹿話をしているメンバーだ。


「外見は別として――まあ、外見も目立ってるけどな。すっかり陽キャラ感が眩しいよ」


 目を手で覆い眩しいアピールをする颯太。


「お前のことだから、そのまま体操着に着替えるつもりだろ?これ使えよ。うちの姉貴の借りてきた」

「何?お前も?俺も妹の借りてきたぞ」


 ドン!と達也と颯太の二人が机の上に赤色で縁取られた体操着袋をのせた。


「うちの学校の体操着はユニセックスだから男女で色が違うだけじゃないか。わざわざ借りてまで着ないよ」

「甘いな、琢磨」

「そうだ、大甘すぎるぞ、琢磨」


 身を乗り出して語り出す二人の発言を遮る様に響の声が聞こえてきた。


「今日の体育は校庭ではなくて体育館でやるそうだよ、琢磨。それと、この体操服を使ってくれたまえ。今日のボクは見物なんだ。それじゃあ」

 教室に顔を出した響はそのまま体操着袋を置いて立ち去った。

 達也と颯太は顔を見合わせるとお互いにうなづく。


「じゃあ、そういう事で」


 そう言うとそれぞれ体操着を回収して僕の前から立ち去った。

 一体、何がしたかったのだろう?




「姫!頼んだぞ!」


 向かってくるバスケットボールを受け取りそのままシュートする。


「「「きゃー!」」」

「「「うぉーー!!」」」


 女生徒達の黄色い声と野郎どもの野太い歓声が聞こえてくる。

 再び攻守が入れ替わりパスが来た。


「頼む、姫!」


 受け取ったボールをシュートする。


「「「きゃー!」」」

「「「うぉーー!!」」」


 歓声が上がるタイミングがおかしい?

 シュートの成否に関わらず、シュートを打った瞬間に歓声が上がっている。

『"王子"のパートナーなんだから"姫"』誰言うとなく決まった呼称に関しては異論はない。

 そもそも『姫は攻守に動かなくていいから敵ゴール前で待機!』という指示がおかしかった。

『パスを受け取ったらすぐさまシュートしろ。こぼれ球は俺たちが処理するからその場から動くな』

 僕はパスカットも妨害もなく、フリーでシュートを連発する。

 いや、最初は確かに僕の前に立ちコースを塞ぐ敵チーム選手がいたのだが

『見えないだろうが!』

『どけ!』

『ギルティー!』

 との野次を被弾して姿を消した。結果、フリーでシュートが打てる環境になった。

 何これ?

 響を含めコート向こうの女生徒達の声まで聞こえて来た。

「いつ見ても最高だよ、琢磨!」

「きゃー、姫!!」

「眼福、眼福」

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