第3話 助手「いきなりピンチっす!」
博士が目を覚ますとそこは夜空が広がっていた。周りには博士のカバンと小さな部品がちらほらと散乱している。ぼーっとしばらく夜空を眺めていた博士はある物を見つけて目を輝かせる。
「月が……2つ。はっ……はははっ!博士やったぞ!助手!助手ぅー!」
「うるさいっす博士……っ痛」
頭を押さえながら立ち上がった助手に、褒めて貰おうと博士がひょこひょこと助手に近づく。あ、ビンタされた。
「うう……ひどいよ助手」
「ああ、博士っすか。寝ている私にいやらしい顔で近づいてくる男がいたっすから、つい」
「ビンタされて博士にかける言葉が『つい』!?」
「ほら、私か弱い女の子じゃないっすか」
「博士の投薬でゴリラを片手で投げ飛ばせる182歳が『か弱いだだだだだだ!?ちょっ、止め、腕はそっちに曲がらなっ……!」
博士アンドロイドだから曲がるっすよね、と博士の手首を掴んでミシミシと言わせながらひねり上げる助手。異世界に来たというのにこの2人、驚くぐらい平常運転である。
「で、ここが異世界っすか?」
「うん、月が2つあるから少なくとも地球ではないだろうね。でもね助手、せめて逆エビ固めを解いてぐああああ!」
「え?何か言ったすか博士ー?」
「背中、背中が!ギブ!ギブううううう!」
「あ、ほんとに月が2つあるっすね。ちゃんと私たちが生きられる環境で良かったっすよ……」
「こうなりゃ自力で脱出してやる!ふんぬぬぬぬ……」
助手が腕をひねり上げられてうつ伏せに倒れた博士にプロレス技を仕掛けながら空を見上げここは異世界であると認識していると、博士の我慢が限界に来たのか自力で脱出を試みる。自ら
しかし当たり前であるが地面との距離が近いので博士の頭は地面を抉る。
「……なにやってんすか博士」
「ふぃふぁいふぇふふぇふぉふ……ふぃふぁふぁふぁふぇはふぃふぃんふぉふぉうていのふぁふぁさふぉふぁんふぇいしてふぃるのだ(見ないでくれ助手……今博士は自身の想定の甘さを反省しているのだ)」
「何言ってるかわかんないっすよっと」
助手が逆エビ固めを解いて立ち上がる。博士は勢いが強すぎたのか頭が全部地面に埋まっていた。
「あと私スカート履いてるっすから股下くぐらないでくれるっすか?」
スカートを押さえつつ頭が埋まってうつ伏せに倒れている博士の背中をぐりぐりと踏みつける。顔をヌポンッと地面から引き抜いた博士は背中を押さえられてジタバタもがいていた。
「さて、これからどうしようか助手?」
「そんな土まみれの顔で決め顔しても取れるのは人気じゃなくて笑いっすよ。そうっすねー、取りあえず手分けして周囲の探索じゃないっすか?」
「いや、今は夜中だから、むやみに動き回らない方が良いんじゃない?」
「と言っても、私も博士もサバイバル技術ゼロじゃないっすか」
「じゃあ火を付けて夜を開けるのをじっと待つ?」
「今から枯れ木を集めるのは周囲を探索するのと何もかわらないっすよ」
あーだこーだと二人が今後の行動に議論し合っていると突然近くの草むらがガサッと音を鳴らした。
「っ!助手、話は一旦中断。何か来るよ」
「動物じゃないっすか?」
「助手よ、異世界ファンタジー系小説にはまった博士がテンプレを教えてあげよう。この場合大抵は……」
のそっと複数の影が立ち上がる。それは真っ黒の毛色の狼の群れであった。みんな一様によだれを垂らし、獲物を狙う目で二人を見ている。
「魔物に襲われるんだよ!」
「逃げるっすよ博士!」
「アオオオオオオン!」
狼が吠えた瞬間に2人は弾かれたようにカバンをひっつかんで逃走を開始する。力が強くても、アンドロイドでも「未知」の物には恐怖を覚えるのか二人は一目散に逃げだした。
「「「「ぐるるるうぅ……バウッ!バウッ!」」」」
「助手ぅ!なんとかしてええええ!」
「無理っすよ!博士こそ何か無いんすか!?」
「無い!」
「無いなら大人しく噛まれて私の逃げる時間稼いでくださいっす!」
「それ博士死んじゃうから!?」
「アンドロイドなんすから大丈夫っすよ多分!」
助手の無茶ぶりに博士は思わずつっこむが、助手は構わず根拠のない理由で博士をなんとかして囮にしようとする。
「多分!?いや痛いものは痛いし!体のパーツの予備もないの!」
「私に至ってはまんま人間っすよ!別に博士の体を貫通させるようなものはそうそう無いんすから噛まれてきてくださいっす!その間に私は逃げるっすからああ!」
「それを言うなら助手もあの狼ぐらい押さえ込めるじゃない!押さえ込んでてよ、その間に博士逃げるからああ!」
「「「「バウッ!バウッ!」」」」
「「ひいいいいいいい!」」
逃げる逃げる、とにかく逃げる!狼がどれぐらい危険なのか分からない以上、2人が取れる選択肢は確実に生き残るために逃げるのみである。幸い博士はアンドロイド、助手は体を魔改造されてスタミナに関しては無尽蔵。しばらくの間はこの鬼ごっこが続くだろう。
「博士!このままだと森に入っちゃうっす!」
「好都合だ!手頃な木に登ろう!」
「あ、私スカートっすからその案は却下で」
「パンツ見えるとか今気にしてる場合!?」
やいのやいの言いながら2人は木にも登らず森の中を駆け抜ける。狼達は若干息が上がっているものの、まだまだ博士たちの事を諦めていないようで全速力で追いかけてくる。
「くっ、埒があかないすね……あ、博士!あっち見てくださいっす!」
「何かあったの!?」
「えい」
「ちょまっ!」
助手が指を向けた方向を博士が見た瞬間に助手は博士の足を引っかける。完全に予測してなかった博士はたたらを踏んで倒れてしまった。人の
狼たちはコケた博士にチャンスとばかりに飛びかかる。博士が脳内で生存確率の高い回避行動を計算しようとするも間に合わない。狼は一斉に博士の体に噛みついた!
「うわあああああああああぁぁぁ……あ?」
「よし今の間に……って、あれ?」
博士がもう駄目だ、とぎゅっと目をつむり来るであろう痛みを身をこわばらせて待つ……がいつまで経っても予想していた痛みは来なかった。恐る恐る目を開けるとそこには。
「「きゃいぃん……」」
狼たちが口から大量の血を流して倒れている光景があった。どうやら博士の腕に噛みついたようだがあまりにも硬すぎた為に牙の方が逆に折れてしまったようだ。
「ど、どうやらこの狼の牙は博士の硬度を越えれなかったようだな!」
「どうやらそのようっすね……あ、博士。大丈夫っすか?」
「助手ぅ……なんで博士に足かけたの!?博士ぞ?我博士ぞ!?」
「まあ、そんなこと良いじゃないっすか」
「良くないよ!?」
危機を脱したことがわかった二人は胸をなで下ろし、軽口を交えつつお互いの安全を確認する。
……まあ、博士は本気で足を掛けられたことを根に持っているようだが。
「そんなことよりこの狼、どうするっすか?」
「そんなこと!?博士の生命の危機をそんなことよりで流す普通!?……もういいや、いつものことだし。で、どうするとは?」
「牙の抜けた狼は最早生きることも出来無いっす。私たちの手で
博士と助手は狼たちを見下ろす。狼たちはおびえた目で二人を見上げた。
「そうだ……折角だしあの薬を実験してみよう……!」
博士がニヤリと笑う。狼たちは震え上がって後ずさりするが、ダメージが大きかったのかフラフラとよろけるだけだった。
「博士を食べようとしたこと……後悔するといい!」
「きゃいーーーーーーーーん!」
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