ヨサクの異世界研究日誌(自重はするが、出来てるとは言ってない)

夏歌 沙流

第1話 助手「なにも変わらない日常っす」

「あーあ、だから言ったのに」


 とある森の奥に、半径5キロに渡って不自然に森が更地となっている場所があった。その中心で一人の青年が独り言をこぼす。


 白衣を着て、ボサボサの黒髪と少しくぼんだ目をしているその青年は、少しやつれているようにも見えた。彼はその目を必死にすぼめながら、を探している。


 まあ、言ってしまえばこの状況を作り出した「原因のもの」を、彼は探そうとしているのだが。いつまで探しても出てこない「それ」に苛立ったのか、舌打ちをしながら探すために中腰になっていた身体を伸ばして懐からタバコを出した。


「ふっ、こうなることは予想していたが……まさか一週間以内にやらかすとはな。つくづく人間とは愚かだ」


 タバコを吸って一息入れようとタバコに火を付ける……瞬間に青年は顔面に水をぶっかけられる。側にはバケツを持った白衣の少女が。


「……あー、助手?今折角カッコつけてる所だから博士に水かけないで?」


 ずぶ濡れになった青年が胡乱うろんげな目で彼女を見る。しかし少女の方も青い目をじとーっと博士を向けたまま動かない。彼女は太陽の光できらめく金髪をポニーテールにして動きやすくし、白衣の下には何故か体操服を着ていた。


「タバコ嫌いなんすよ。それより博士、さっさと終わらせて帰るっすよ。私パフェ食べたいっすパフェ」

「それよりって、助手……博士泣くよ?」

「うるさいっす。折角今日は久々の休暇だったっすのにいきなり博士が『なぁんかぁ、爆発したっぽいしぃ、あーしらで回収いかね?ね?』ってダルがらみしてくるから……」

「博士そんなギャルっぽかったかな誘い方!?」


 バケツを横の地面に置いてスコップで地面を掘り進める助手。片手のスコップだというのにものすごい勢いで掘り進め、30秒で人一人が埋まるぐらいの穴を事もなにげに作り上げる。


「助手?流石にそんな掘らなくても地表探したらあるって絶対」

「何勘違いしてるっすか?」

「ひょ?」

「これは博士が埋まる用の穴っす」

「なんで!?」

「タバコ吸おうとしてたからっすね」

「タバコ吸うだけで埋められるの博士!?そろそろマジで泣くよ!?助手にずぶ濡れにされて埋められる博士が世界中の何処に居るって言うのさ!」

「うっわめんどくさ(小声)……はいはい。博士は水もしたたる良い男っすねー」


 助手と呼ばれたその少女が投げやりに褒めると博士は分かりやすく機嫌を直す。何ならスキップして鼻歌を歌ってるレベル。助手が内心チョロいっすねーうちの博士、と思いつつ目的の物を博士とともに探す。


「ふんふふんふふー痛ぁ!?」

「博士ー、何もない所でこけるとかいよいよ年っすかー?」

「うるさい、博士まだ246歳だもん!」

「年どころか普通なら死んでるっすね。っと……あったっすよ博士ー」


 違うもん、肉体年齢的には若いもん……とうつ伏せに倒れたまま地面に「の」の字を書いていじけている博士に助手は声をかける。博士はのっそり立ち上がった。


「ほら、博士の足下にあるっすよ」

「ん?おーこれだこれだ。助手よ、博士はこれでつまづいたのだ。決して年のせいではないのだ!」

「必死に否定すると余計そうだと思われるっすよー。さて、パフェ食べに行くっすよ博士」

「この曲がりようを見るに発明品自体は正しく起動したっぽいねー。となると……やはり博士の想定通りか。全く、どいつもこいつも博士の助言を無視して……あ!待って助手!博士置いてかないで!?」


 焼け焦げた金属の筒を持って考察をしている博士を置いて助手がパフェを食べに森を去ろうとする。博士は慌てて白衣のポケットに筒を突っ込んで助手を追いかけた。もはやどっちが博士かわからない。


「あ、博士あれ食べたい。チョコクリームパフェ」

「じゃあ、私はエクストリームジャンボパフェで。ゴチになるっす」

「あれ?これ博士がおごる流れ!?」


 博士って何か分かる?助手の上司なんだよ?とくどくど言ってくる博士をウザいの一言でバッサリ切り捨てる助手。そんな軽快なやりとりをしながら二人は森を後にする。


 残ったのは森の中に丸く切り取られたような更地の空間が存在するだけだった……


――――

【後書き】

 お読みいただきありがとうございます。

 こちらは「現実でダンジョンを攻略するのはハードモード過ぎないか?」の書き溜めの合間に書いた気ままな小説です。

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