黄金遊戯
しげぞう
第1話
(*本作では、これまでのタルスの冒険譚「約束の日」及び「アルカニルの鏡」の結末に触れています。ご了承ください。)
1、
東西に山脈を切り裂いた巨大な峡谷の全域が、王国の版図だった。北側は眼も眩むような切り立った絶壁、南側の崖は
その谷底に造られた王宮前の
山岳の小国であるティリケの民びとは血縁によって固く結びついており、
広場の真ん中に据えられた方形の石畳の壇で、宮殿に
王宮は、北側の切り立った岩壁を掘り貫いた内部が
いま黄金宮前の広場は、冬至を祝う
「首を切り落とせ」
王命は仮借のないものであった。黄金宮の最上段の
がーー。
あにはからんや、ティリケびとの
そのとき、タルスが動いた。
タルスが、刑吏に腕をとられたままその場で蜻蛉を切った。
悪夢のような光景だった。ぐりん、と肩が一回転したにも拘らず、タルスは平然とそこに立ったのである。あまりの不気味さに、刑吏の方がぎゃっと悲鳴を挙げ、押さえつけていた手を離した。タルスの攻撃は神速であった。関節が外れた状態の、奇っ怪な伸長の突きが左右同時に見舞われた。刑吏が弾き跳ばされた。
さてこの間、首斬り人はただ
首斬り人は、怒り狂った牡牛のようにタルスに殺到した。
地に伏したタルスが、
筋肉を駆使して
タルスが、足元の死角から首斬り人の脚に自らの両足を絡ませ、引き倒した。
すっくと立ち上がったとき、すでにタルスの両腕は肩に嵌まり、次なる態勢に入っていた。
ヨタヨタと起き上がろうとした首斬り人はしかし、一歩も前に進むことができなかった。鼻先から壇に倒れ、顔面を石畳に強かに打ち付けた。地面に転がすと同時にタルスが、首斬り人の足首を捻っていたのだった。首斬り人の足首は明後日の方に向いていたが、なまじ痛みに強いと自負する本人が気づいていなかったのは皮肉である。
素早く肉薄したタルスは、転がっていた三日月斧を拾い上げると、雄叫びとともに土壇斬りに振り下ろした。
首斬り人の
その会衆を掻き分け、短槍を構えた兵士たちが壇に押し寄せた。
タルスは三日月斧を高々と振りかぶり、歯を剥き出しにして威嚇した。槍兵たちはその剣幕に
位置に着いた弓兵は、軽くて丈夫な半弓に矢をつがえ弦を引き絞る。タルスに狙いを定めた。
2、
「ティリケびとよ!
追い詰められた末の狂態に会衆の目には映った。不敵にもタルスは呵呵大笑したのだった。
そのとき弓兵の一人が、誤って矢を放した。まだ練度の低い新兵で、緊張で力が抜けてしまったのだった。大して鋭くもない勢いの矢はしかし、タルスの太い腕に刺さった。いかな鍛練をしていても、無意識の
「
会衆から上がった悲鳴や呻き声が、周囲を
タルスの言がティリケびとの間に巻き起こした動揺は、ひとかたならぬものがあった。それはここ何年かのあいだに、路地裏や寝室でこそこそと囁かれていた
不意に最前列で短槍を握っていた
形ばかりに痛ましげな目を向けると、タルスは続けた。
「ティリケを覆う
今や会衆は、
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