第45話 エピローグ③

「アヅキー!どこにおるんじゃ?」


「あ、ここです!メルリダさん!」


 魔王城の中を歩き回るメルリダは、中庭から聞こえてくる亜月の声に気づいて小走りにそちらに向かう。


「こら!どうしてこんなところにおるんじゃ!体に触る!」


「大丈夫ですよー!ちょっと散歩してただけですし、今日は調子がいいんです!それにロースキンさんも少しは運動した方がいいって!」


「ロースキンの言うことなど信用できるか!早く部屋に戻ろう。もう夕方じゃ。冷えてくるぞ?」


「もう!メルリダさん、ライヤードと同じくらい過保護になってます!」


 中庭のベンチに座って夕陽を眺めていた亜月は、メルリダに手を引かれて立ち上がる。


「ほら、ゆっくり歩くんじゃ。転んだりしたらお腹の子が大変じゃ!」


「転びませんよ。」


 心配そうに眉を寄せるメルリダと違って、亜月はニコニコと笑っている。






 亜月がこの世界にやってきてから5年。すっかりこちらの世界に馴染んだ亜月は、楽しい聖獣ライフを満喫している。

 反女神の事件が終わってから、すぐにミィとともに新しい女神と聖獣として、神殿や各国の王を回った。世界中から認知された亜月とミィは、その後各国からの招待を受けて忙しく過ごした。


 それに怒ったのがライヤードだった。無理やり亜月の休みをもぎとり、結婚式を挙げた。その後は一年かけて世界中を回る新婚旅行を敢行したのだ。


 そして今年、亜月はライヤードの子供を妊娠した。ロースキンに見てもらったところ、どうやら双子のようだ。

 安定期に入ったものの、双子のせいかお腹はすでに大きい。メルリダやライヤードは心配性のようで亜月が出歩くことにいい顔をしない。一方、少し運動したい亜月は2人の隙を狙って城の中を歩き回っている。


「ライヤードがいない時を狙って部屋を出たな!あやつが帰ってきたら報告してやる!」


「あー!ごめんなさい!」


 ライヤードはミィとともに、人間の国々との和平交渉に出向いている。反女神のことで関係が最悪になってしまった人間と魔族だったが、亜月やミィが橋渡しをして、何とか和平条約を締結するまでに至ったのだ。

 本当は亜月も同行する予定だったのだが、ライヤードとメルリダの強い反対がありお留守番となったのだ。


「ほら、これを着るんじゃ。あったかいお茶も用意してくるからのぉ。」


 メルリダが部屋から出ていく。


「…ライヤード。」


 ライヤードが魔王城を留守にして2週間。こんなにも彼と離れるのは初めてだ。メルリダの前では元気に振る舞ってみたものの、亜月は寂しさに襲われてしまっていた。


「会いたいよ…。」


 そう呟いてみるものの、ライヤードが帰ってくるのはあと1週間後。条約締結は終わったが、各国の王族を招いたパーティーなどの後片付けが残っているらしい。


「…君たちも寂しい?」


 亜月が尋ねると返事をするようにお腹を蹴るような胎動があった。









「ん…。」


 夕食を食べてぐっすりと寝ていた亜月は何かを感じて目を覚ます。外は真っ暗で大きな月が浮かんでいた。


「あれ?窓、開いてる。」


 閉めたはずの窓が開いて、カーテンがヒラヒラと揺れている。亜月は閉めるためにとベッドから抜け出そうとする。



「ただいま。」


「あっ。」


 そんな亜月を後ろから抱きしめる影。低くて艶のある声の主は会いたくてしかたなかった人。


「どうして…?」


「僕を呼んだでしょ?僕が一番大事なのは君だよ、僕の奥さん。」


「条約は?」


「ミィに任せてきた。さぁ、ベッドに戻ろう。」


 後ろを振り返ると、大好きな笑顔。






「愛してるよ、アヅキ。」


「私も愛してる。大好きな旦那様。」


 亜月はライヤードの唇に自分のそれを重ねたのだった。

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大好きな彼氏に裏切られたと思ったら魔王に溺愛されました。 めろめろす @meronmeron96

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