第39話 聖獣①

「あは!あはは!女神の力ってこの程度なの?弱いわねぇ!本当に弱すぎる!まだまだ赤ちゃんの女神ちゃぁん!」


「くっ!黙りなさい!」


 ミィと反女神の力がぶつかり合い、大きな川が蒸発する。


(これ以上長引かせると、地形に大きなダメージが残ってしまいますわ…。)


 反女神の攻撃は、その威力だけが問題ではない。反女神の穢れを受けた土地は数百年の間、瘴気により生き物が住めない土地になってしまうのだ。

 反女神と距離を取り、ミィが周辺を見渡す。反女神の攻撃が当たった場所は黒く澱んでいて、悪臭を放ち始めていた。


「…そろそろ勝負を決さないといけませんわね。」


 勝負が決まるということは、ミィと反女神が同士討ちによって共に消滅するということだ。


「…もう少しモルガーンと過ごしたかったですわ。」


 モルガーン。彼のことだけが気がかりだ。女神の番いを持ってしまった可哀想で愛しい男。女神として、過酷な運命を担う自分を優しく愛してくれた。

 この戦いで自分が死ぬことを分かっているだろうに、見守ってくれている。


 女神としてこの世界に生まれ、数年は前の聖獣の力で反女神から隠されていた。まだ反女神に敵う力は持っていなかったので、魔族であるモルガーンがいる魔界に身を置き、力を養っていたのだ。女神であることがバレれば、反女神にすぐ殺されてしまうので、自分で女神の力を封印した。

 そのせいで、愚かな人間に捕まってしまった。逃げ出すために女神の力を少し解放した時、運悪く反女神に見つかってしまったのだ。

 そこからは、地下牢から逃げられないよう厳重な呪いをかけられて、ずっと監禁されていた。

 だからモルガーンと過ごせた日々はほんの数年だけ。



「ごめんなさい、モルガーン。」


 女神の力を全て解放し、手のひらの中に収束させる。全身全霊の攻撃であることに気付いたのか、反女神も舌打ちをして同じような攻撃を準備している。


 アヅキのことは心配ない。ライヤードもメルリダもモルガーンもいる。ミィの大事な片割れである聖獣をきっと守ってくれるだろう。




「さようなら。」




 手のひらの力を反女神に放とうとした時。






「だめぇーーーーーーー!」



 白銀の美しい獣がミィの前に降り立った。


「どうして…。」


「だって私はあなたの聖獣でしょ?あなたが世界を守るなら、私があなたを守るの。」


 だから死なないで。


 うぉんと高らかに鳴くアヅキを見て、ミィはその瞳からぽろっと涙をこぼす。


「助けに…きてくださったの?」


「もちろん。まだ覚醒したばっかりで役立たずだけど!一緒にいるよ!」


 涙を拭いたミィはアヅキを強く抱きしめたのだった。

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