第28話 レニアーリス姫の華麗なる奴隷生活⑦
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!駄目だよ、その子は僕のなんだから!」
レニアーリスを抱えてスタスタと部屋を出ようとするカッツをベルが呼び止めるも、カッツは止まろうとしない。
「っ!いい加減にしなよ。副頭領の僕に逆らうなら容赦しないよ!」
ベルの雰囲気が一瞬で不穏なものに変わる。それが恐ろしくて、ブルっとレニアーリスが震えると、カッツが安心させるようににっこり笑う。
「大丈夫だよ、小鳥ちゃん。僕に任せて。」
「…殺されたくなければその女を置いていけ。」
ベルがさらに脅しをかけてくる。カッツはくるりと振り返ってベルを見る。
「っ、だから僕の言うことを!」
「今日は鳥の丸焼きのつもりだっただが、ベルは食べないんだな。」
「え?」
「王都で流行っているっていうクリームとフルーツたっぷりのケーキと木の実が入ったタルトに、デザートワインも用意してたんだが残念だ。」
「っえ!ちょ!あっ!」
「…おい、カッツ。いい加減にしとけよ、いくらお前と言えども。」
「うまい酒もいっぱい仕入れてきたんだけどな。なんか酒のつまみにいいって最近人気の干物ってやつも買ってきたんだが、ルウィスはいらねーんだな。仕方ねーから下っ端のやつらに渡すわ。」
「え!待て!待て待て待て!落ち着け!」
「…ふざけてんのはお前らだろ?暴力に訴えれば僕がなんでも言うこと聞くと思ったか?残念だったな、当てが外れて。しばらくお前らの飯は作らねーよ。お前らのこと慕ってる女どもがたくさんいるんだろうから、そいつらに作ってもらえよ。ほら、そこに転がってる汚ねぇ女が作ってくれるさ。なんでも『ルウィスとベルのお気に入りの女』らしいからな。…お前らがいない間、ずいぶんとデカい顔してたみたいだぞ?僕にもあれを作れ、これはマズイだのうるさくてな。誰が尻拭いしてたと思ってる、馬鹿兄弟!」
「…。」
ルウィスとベルはしおらしく正座をしてカッツの目の前で項垂れている。
「えっと…。」
どうしてただのコックが傍若無人な2人を制御することができるのか。レニアーリスが疑問に思っていると、カッツが気付いたのかニコリと笑う。
「あー。年は近いんだけど、一応こいつらの息子なの。俺は捨て子でこいつらに拾われたんだよね。んで、こいつら食事に全く無頓着だから僕が作ってたら、上手になっちゃって。今ではこの義賊団の厨房を仕切らせてもらってるんだ。」
「義賊団…?」
「そうそう。あれ、聞いたなかった?」
「…うん。」
この兄弟が率いる集団の正体がやっと分かった。そういえば貴族たちとの何気ない会話で出てきたことがある。金さえ出せばどんな依頼でもこなす義賊集団がいると。殺しでも何でも請け負うらしいが、彼らの信条から外れる依頼は、どんなに金を積まれても引き受けないと。
「双翼の御旗…?」
確かそんな名前だったような気がする
「そうそう、それそれ。名前、結構ダサいよね?」
舌を出すカッツ。
「こらぁ!聞こえてるぞ!」
ルウィスが怒鳴るが、カッツは全く気にしている様子はない。
「君のことは2人から聞いてるよ。妖精国のお姫様。やらかしてもう国には帰れないんでしょ?貴族の変態に売り飛ばす予定が、ベルが気に入って連れ帰ってきた。どんなわがまま女かと思ったら、僕の好みのドンピシャだよ。大丈夫、僕が守ってあげるから一生僕の小鳥ちゃんでいてね。」
ベルに言われたこととほぼ同じ内容なのに、なぜだが今回は全く悪い気がしない。それどころか、嬉しいとさえ思ってしまう。それはカッツがレニアーリスを可愛らしい娘を見るような目で見てくれるからだろう。
「…うん。カッツの小鳥になる。」
頬を赤らめてレニアーリスが頷くと、カッツも満面の笑みで応えてくれた。
「ちょ!待って!息子に女を寝取られた!」
「その表現はやめろ、ベル!」
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