第26話 レニアーリス姫の華麗なる奴隷生活⑤

「ひぃ!ぎゃ!ゆ、ゆるじで!!!」


「ん…。」


 コックの少年にスープを食べさせてもらったレニアーリスは、優しく頭を撫でられてそのままウトウトしてしまっていた。夢見心地でいると、耳に汚い声が入ってくる。この気持ちいい気分を邪魔されたくなくて、レニアーリスは自分のそばにある温もりに自分の顔をグリグリと押し付ける。


「あぁ、うるさいですよね。ごめんなさい、大丈夫です。もうすぐ終わりますよ。」



「あぁ!カッツ!ちょっとズルくない!?それ僕のペットなんだけど!」


「はいはい、分かってますよ。そのペットの世話をアホな女に頼んだりするならこんなことになるんですよ。飼い主失格ですね。ペットを飼う資格なんてありませんね。最悪ですね。最低ですね。」


「そんなに言わなくても…。」


「おーい、ベル。カッツ怒らせるんじゃねーよ!今日飯抜きになったらどうするつもりだ!」


「ルウィスにも責任あるんですよ、何自分は関係ないみたいな顔してるんですか?基本的にベルを甘やかせすぎなんですよ、貴方。ベルがペットなんて飼える訳ないでしょ?自分の世話もできないのに。2人とも今日は晩御飯抜きです。」


「チクショウ!」


「あぐぅあ!!!」


 ルウィスの苛立たしげな声とともに、ドゴっと何かを強く蹴り付ける音。そしてまた汚い声が聞こえてきた。


「んんぅ…。」


 だんだんと意識がハッキリしてくる。レニアーリスは閉じていた目を開けた。


「あ、起きました?うわぁ、すっごく綺麗で可愛いね。」


「っ!」


 細めの少年が真底愛らしいという表情で自分を見つめてくる。その瞳にあるのへ愛玩の気持ちだけで、今まで何度も向けられたことのある情欲のそれは全く感じられない。


「ふわぁ。」


「え、なに、その声。可愛い!」


 体に今まで感じたことのない多幸感が走り抜ける。そのせいで思わず口から間抜けな声が出てしまった。そんな自分さえも目の前の少年は可愛いといって撫で回してくる。


 こんなただただ可愛いと愛でられるのは物心ついて初めてのことだった。小さい頃から女として完成していたレニアーリス。幼い少女に、大人たちは汚い欲をぶつけようとしてきた。レニアーリスが王族という立場だったから今まで無事だったというだけで、出会ってきた男たちの瞳には男の欲が見えた。

 


 それがこの少年にはない。本当にただのペットのように愛玩し、可愛がってくれる。


「あ…あっ!」


「ん?どうしました?」


「っ!!」


 胸に芽生えたのは「ぎゅっと抱きしめてほしい」という子供じみた願い。王族としていつでも気高く生きてきた自分ではとうてい口に出せない願い。そのはずだった。


「大丈夫ですよ。何かお願いがあるんでしょ?言ってみて。」


「で、でも…。」


「なんでも叶えてあげるよ。可愛い小鳥ちゃん。」


「っーーーー!」


 少年が蠱惑的な笑みを浮かべる。その笑みは美しいと言われてきた自分のそれよりもはるかに魅力的に見える。


「だ、抱っこ!抱っこ!」


 言葉を忘れたかのように単語で話す自分が恥ずかしい。でも少年、カッツは満面の笑みで応えてくれた。


「もちろん!」


「はぅ!」


 ぎゅぅっと力強く抱きしめられて、あまりの嬉しさに目の前にチカチカと星が飛ぶ。



「だからずるいってば!!ちょっと、カッツがこいつの始末かわってよ!」


「イヤ。」


「くそーーー!」


「ゆるじでぇ!ゆるじでぐだざぃ、ルウィスさまぁ、ベルさまぁ!」



「勝手に名前呼んでんじゃねーよ。」


「気持ち悪りぃ女。」


「んん?」


 ポヤポヤとしながら顔を上げる。すると、ルウィスとベルが自分の世話係だった女の顔を何度も殴りつけていたのだった。

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