ずっと
宵待昴
第1話
仕事帰りの午後。
喫茶店「隠れ家」
小波と付き合っていた頃から利用している店。入れば、既に小波が来ていて、手をぶんぶん振ってアピールしてくる。
「待たせたな」
「気合入れたら早く着きすぎちゃったの」
にっこり笑う小波は、夫の贔屓目を引いても可愛らしい人だ。
早速、コーヒーと紅茶、ケーキを頼んで落ち着く。
「出張お疲れ様」
「うん。ありがとう。早速だけど、お土産があるんだ」
「あら!何かしら」
いつも目をキラキラさせてお土産を喜ぶ妻は、真宙には眩しく見える。
真宙は、小さな小瓶を小波の前に置く。小波の顔が、更にパッと明るくなった。
「これ!さくら貝の小瓶ね!」
よく、土産物屋に置いてあるような、さくら貝の貝がらを詰めた小瓶。学生の頃から見かける土産物の一つ。小波に初めて渡した土産物も、さくら貝の小瓶だった。
「いつも海辺に行くと、同じお土産になるな……すまん」
「私、真宙さんのさくら貝買ってきてくれるとこ、好きよ。思い出のお土産だし。いつも嬉しいわ、ありがとう」
手に小瓶を乗せてにこにこと笑う小波に、学生時代の面影が重なる。
いつも変わらず、愛しい存在。これからも。真宙は、幸福感に包まれる。
「ありがとう」
「私もね!真宙さんが出張に行ってる間に、新しい美味しいケーキの作り方を覚えたの!今度のお休みに焼くから、食べてくれる?」
身を乗り出して聞く小波に、真宙の答えは一つだ。
「もちろん。楽しみにしてる」
「美味しいわよ!楽しみにしてて」
パッと花が咲くように笑う小波を見る度、真宙は何度も恋に落ちているのだ。
真宙とさくら貝だけが知っている、密やかな秘密である。
ずっと 宵待昴 @subaru59
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