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――その後、スキヤキの言葉通りに盛大なパーティーが行われた。


この戦いで命を落とした者たちのため、そして大袈裟ではなく世界を救ったことを互いに労うために、スキヤキが側の地域にいた協力者に頼んで食事などを用意させたのだ。


その宴は、キリスト教圏ではいう死者の日に近いもので、様々な文化が入り混じった花と料理、アルコールが置かれていた。


身体が無事だった死者は棺桶で眠り、死体の粉々になっている者はその遺品が棺に入れられている。


その者らの棺には、マリーゴールドをたくさん飾り、真っ赤なケイトウ、キク類など、たくさんのカラフルな花で彩られた墓へと埋葬された。


調査隊もディスケ·ガウデーレの面々も、誰もが泣きながらも笑顔で、亡くなった仲間たちを送り出す。


中には墓石に酒をかけてやる者や、火を付けたタバコや葉巻を線香代わりに添える者もいた。


当然その中には、崩壊した遺跡から見つけ出されたクレオ·パンクハーストの遺体もある。


埋葬する前にレミは自分がやると、干からびた母の体を綺麗にし、ソドとシルド――ディスケ·ガウデーレの面々はそれを見守っていた。


葬式にしては派手すぎるし、日本の常識でいえば不謹慎と思われるような弔う方だったが、この場には白人、黒人、東洋人と人種関係なく集まっているのもあって、皆がそれぞれのやり方で悼み、他人の愁傷しゅうしょうに誰も文句など言わなかった。


「レミ、大丈夫?」


「うん。もう大丈夫」


埋葬を終え、一人ポツンとアルコールを飲んでいたレミに、ユリが声をかけた。


思いっきり泣いて落ち着いたのだろう。


その顔は、ユリが知っている彼女よりも晴れやかに見えた。


本人は口にこそしていなかったが、ユリはレミを見て、長い間あった母とのわだかまりが解消したのだろうと察した。


辺りはすっかり暗くなっていた。


死者を弔う無数のキャンドルポットやカラフルな花がそこら中にあるせいか、実に幻想的な光景だ。


ユリはレミの隣に腰を下ろすと、何も言うことなく彼女に寄り添い、その光景をただ眺めていた。


そして、この葬式の最後の仕上げだろうか。


皆が灯りを付けたランタンを空へと飛ばし始めている。


ランタンは、タイや中国のお祭りで打ち上げられる熱気球の一種で、コムロイや天灯てんとうとも呼ばれていた。


その柔らかく温かい灯りは知恵を象徴し、正道へ導かれるためのお布施として行う伝統がある。


ランタンの発祥は今から何百年前までさかのぼり、当時は通信手段として使われたと言われている。


現在は無病息災を祈る民俗習慣として定着しており、夫婦や恋人同士が打ち上げる特別なイベントとして、メッセージを書き添えて天に祈りを届ける。


誰かの自国の死者を送り出す文化であったのだろう。


これも日本ではあまり見かけない弔い方だ。


空へと浮かんでいくランタンを見て、ユリが呟くように言う。


「綺麗だね……」


「うん……」


少ない言葉を交わし合い、レミとユリは互いに支え合うように顔をくっつけていた。


トルコの夜が冷えるというのもあったが、二人は寒いという以上に離れたくなかった。


これまでに何度死ぬかと思ったか。


暗殺組織に追われ、日本からインド、トルコからギリシャと逃げ続け、ここサゴール遺跡では想像もしていなかった魔物が現れて、今も生きているのが不思議なくらいの体験もした。


それが、こうしてまた相手の体温を感じられる。


そのことがただ嬉しい――その気持ちが、レミとユリの態度や表情に出ていた。


そんな安堵に浸っている二人のところへ、黒人の男女――ソドとシルドがやって来る。


「ゆっくりしているところを悪いが、ちょっといいか?」


ソドはそうレミに声をかけると、シルドと共に彼女に跪いた。


片膝を地面につけ、レミが戸惑っているのを無視し、頭を下げながら言葉を続ける。


「ボスは殺された。これからはお嬢がディスケ·ガウデーレを率いてくれ」


「ちょっと待ってッ!? なんで僕がボスにならないといけないんだよ!? どう見たってあなたのほうが向いてるでしょ!?」


大声で拒否したレミに、シルドがソドの言葉の補足を始めた。


生き残ったディスケ·ガウデーレの面々で話し合った結果。


亡きボスであるクレオ·パンクハーストの代わりは、その娘であるレミでなければならない。


それが恩人であるクレオに対する彼ら彼女らなりの忠誠心だと。


「お嬢は皆の上に立ってくれればいい。あとはアタシとソドがフォローするから」


「だから僕はやるだなんて一言も言ってないでしょ!」


レミは声を張り上げながら立ち上がった。


先ほどまでの安堵に満ちた表情から一変、用意した料理を猫に食い散らかされたシェフのように喚き返す。


それは、さらにヒートアップしていき、今にも食ってかからんばかりの勢いだ。


「 大体暗殺組織にいたくないから逃げたのに、ボスになんてなったら本末転倒じゃないかッ!」


「もう決まったことだ。オレたちディスケ·ガウデーレは全員、ボスの忘れ形見レミ·パンクハーストについていく」


「だからなんで本人がいないところで決めてるんだよッ!」


断固として嫌がるレミ。


それでも食い下がるソドとシルド。


そんな言い合いを見ていたユリもいつの間にか立ち上がり、あわわとどうしたらいいかと困惑していた。


せっかくレミが母クレオとのことを吹っ切れ、サゴール遺跡の魔物――アルバスティを倒したというのに、このまま再び逃亡生活が始まるのか。


そんな状況で、ユリは歯を剥き出しているレミと、そんな彼女と向かい合っているソドとシルドに何も言えずにいると――。


「わしから一つ、提案があるんだが」


スキヤキがゆらりと現れた。

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