インパクト·チェーン~鎖を巻いた女
コラム
01
少女が母に手を引かれて庭園へとやって来た。
そこには東洋と西洋を感じさせる様々なオブジェが並べられ、さらにはこれまたヨーロッパとアジアが入り混じった花や敷石が見える。
この光景は、一体自分がどの国にいるのかを忘れさせる光景だったが、少女にとっては自分の住む家の庭だ。
「いたぞ、クレオ·パンクハーストだッ!」
少女にとって違和感があるものといえば、その様々な文化が重なる庭園よりも、そこに立っていた男たちだった。
全員が手に拳銃を握っており、今にも発砲しそうな顔で身構えている。
震える少女が母の手をギュッと握ると、母は静かに言う。
「よく見ていろ。これの使い方をな」
少女の母――クレオ·パンクハーストはそう言うと、娘の手を離して右手首に巻いていた金のチェーンブレスレットを見せるように動かした。
その飾り気のないチェーンブレスレットと同じ物は、少女の右手首にも巻かれている。
するとチェーンが形を変え、まるで鞭のような長さへとなり、クレオは銃を持った男たちのほうへと歩き出す。
男たちは向かって来るクレオに向かって一斉に発砲。
だがクレオがチェーンを振るうと、放たれた弾丸は光の障壁に阻まれたかのように彼女に当たる前に弾かれていく。
男たちは弾が尽きるまで撃ち続けると、銃を捨てクレオへと掴みかかった。
瞬時に彼女を囲み、前後左右から同時に襲う。
それでもクレオが動揺することはなかった。
彼女はまるで虫でも払うかのように、一斉に襲いかかってきた男たちを同時に吹き飛ばす。
チェーンはいつの間にかクレオの右腕に巻き付いていた。
その腕から放たれた光によって男たちは吹き飛ばされ、クレオは一人ひとり丁寧に息の根を止めていく。
異文化が混ざり合う庭園に次々に悲鳴があがり、鮮血が飛び散る。
少女はただその光景を眺めていた。
怖くて目を背けたかったが、言われるがまま、震えながらも男たちを始末していく母の姿を見ている。
「ガハッ!?」
そして、最後の一人が少女の目の前に飛んできた。
クレオがチェーンを男に巻き付け、娘の前に放り出したのだ。
男の姿は、全身から顔にまである鎖で縛られた痕――
すでに虫の息だった男は、その場から逃げることもせずにただ呻いているだけだった。
「ちゃんと見ていたか?」
クレオが少女に声をかけた。
娘がコクッと震えながら頷くと彼女は満足そうな笑みを浮かべていたが、着ていたジャケットについた血に気がついて怪訝な顔をした。
「汚れてしまったか。まあいい、お前の前で実演できたからな」
クレオはそう言うと、鎖の巻き付いた腕を倒れている男へと向けた。
そして拳をグッと握り込むと、そこから光の波動が放たれて男の顔面を吹き飛ばした。
少女は飛び散った血を浴びたが、恐怖で声をあげることもできなかった。
そんな娘を見たクレオは、ジャケットからハンカチを取り出し、少女の顔についた血を優しく拭ってやる。
「怖かったか?」
少女は頷く。
「そうか。でも、偉いぞ。声一つあげずに目をそらさずに見ていたな。やはりお前は私の子だ」
クレオは血を拭ってやると、少女の頭を撫でた。
どこにでもある光景――母が子を褒める様子がそこにはあった。
ただおかしいところといえば、母が娘の目の前で人を殺したことだろう。
それも、現実にはあり得ない超常的な力を使って。
「安心しろ。お前にもすぐにできるようになる。簡単さ」
クレオは娘がどう感じているかなど考えもせずに、微笑みながらそう言った。
――それから十数年後の日本。
神奈川県横浜市にあるアパートで女が目を覚ました。
布団から体を起こし、あくびを掻きながら洗面所へと向かう。
「やっと起きたの? レミ」
ユリは玄関で編み上げブーツの紐を結び終え、起きてきた同居人――レミを見て呆れながら立ち上がる。
寝ぐせだらけの根元だけ明るい金髪――逆プリン頭を掻きながらレミが返事をする。
「おはよう~ユリ。今日もカッコイイねぇ。そのボーダーニットが特にクール」
「はいはい、ありがと。それじゃあたし、ちょっと出かけるから留守番よろしく。夜も外で食べて来るから」
「はいは~い~、いってらっしゃい。飲み過ぎには気を付けてね~」
二人がルームシェアをしているこのアパートは、他に隣人もいない築百年を超える2Kの安アパートだ。
エアコン、バストイレ別、ガスコンロ対応、クローゼットは二ヶ所あるが、インターネット回線はなく、最寄り駅までは徒歩で三十分かかり、当然セキュリティー対策などされていない。
とても二十代前半の女性二人で住むようなところではないが、家賃はなんと破格の値段――二万四千円。
二人で住んでいるので月に支払う金額は一万円台というのもあり、さらに彼女たちは住むところにこだわりがないのもあってここで生活している。
レミはユリを見送ると洗面所へと行って顔を洗い、自分の部屋へと戻った。
それから彼女はパジャマを脱いでスポーツブラとショーツ姿になると、急に腕立て伏せを始めた。
その後、腹筋にスクワットなど器具が必要のない筋肉トレーニングを、一人で淡々と続ける。
たっぷりと汗を流した後、ぬるめのシャワーを浴びたレミは、バスタオルで体を拭きながら右手首に視線を移す。
そこにある飾り気のない金のブレスレットを見たレミは、一瞬だけ寂しそうな表情へと変わったが、すぐに笑みを取り戻してキッチンの棚に入れてあったスナック菓子――ポップコーンを手に取って冷蔵庫からコーラを出した。
「よーし! 今日は見たかったアニメのイッキ見だ!」
レミは大きな声で独り言を叫ぶと、ブラもショーツも付けずに短パンを穿き、シャツを羽織ってノートパソコンの電源を入れた。
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