四度童貞を捨て損なった身で五度目に期待するもそもそも女に生まれ変わってしまったようで。

@namatyu

第1話:生きたまま死にました。

 僕の名前は信楽明人しがらきあきと

 人生ってなんでこんなに退屈何だろう。

 お金があれば、生活には困らないけど。

 世の中がモノクロ映画みたく味気ない。

 かっこいいor可愛くてちやほやされる極一部の勝ち組。

 嫉妬心。そんな生き方してみたいってね。

 ま、関わりたくない有象無象も相手にしないとって踏まえるとそれなりに苦労があるんだろうけど。

 腹黒い狸爺や、金にモノを言わせて横柄な態度を取る成金社長。

 なんだかんだ犯罪者、暴力団やマフィアなんかと共生している社会には闇がはびこっているように見えて仕方ない。

 だからって何かできる立場にはない。

 はぁ。悪には天誅を。

 じゃあサラリーマンを辞めて警察官に転職するしかないかな。

 好きな人?

 お付き合いなんて無理。そんな暇ないのだ。と強がっておこう。

 暇があったとしても、今更、人に合わせて生きていくのがどれだけ負担か。

 社会人って大変。学生時代も日陰者としては大変だったけど。

 社会人には社会人の楽しみが…うん。僕には分からなかったよ。

 唯一楽しいのは料理と読書。どっちも集中できて好き。

 妹に手料理を振舞うのは好きだ。

 本は異世界モノだったり、近未来のラノベ。

 世界観がどれもいい。読んでいて楽しい。自分もこんな世界にいけたらな。

 ああ、異世界に行きたい。

 できれば戦いがいい。

 魔法も欲しい。

 悪党は殺しても罪に問われないような、そんなところがいいな。

 自分が殺すんだから、殺されても仕方あるまい。

 秩序はある程度欲しいけど。

 チートはあっても使いこなせる自信がない。

 あるに越したことはないんだろうけど…主人公になりたいとかじゃないし。勇者よ、魔王を討伐してこい。みたいなスタートは嫌だ。

 世界を楽しみたいんだよ。地球とは異なる文明文化の中で。

 ステータスがみれるならみたい。

 努力した証が可視化できて反映される世界ならやる気出るだろうし、将来どうしようか迷った時の選択の一つ、指標になると思うから。

 勉強したら知力が一上がるとかね。

 今のステータスでできる事、できない事が分かるっていいと思うんだよね。

 こんな妄想を高校生の頃から考えている。

 僕はイタイ子ならぬイタイ大人かもしれない。

 黙々と仕事をしては夕食作りをし、発売日には本を買い漁る。


 そんな日々は唐突に終わりを迎える。

 異世界に行きたいと願い過ぎて、神様に届いたらしい。

 祈りが?違います。

 魂が、昇天してしまって神界?に来たという訳です。


「とんだおまぬけさんだよね、きみは。」

 申し訳ありません。

 肉体がないので、声は出ません。でも思いは通じるようです。

 思念みたいなものかな?よくわからんけども。

「人生そんなに楽しくなかった?」

 まあ、そこそこ楽しいこともありましたが。

 料理に読書に。

 まさか自分もこんな形で死ぬことになるとは。

「まあね。ぼくもびっくりだよ」

 ぼくということは神様は男神なのでしょうか。

 いかんせん目もありませんので、御姿が見えないもので。

 中性的な声でしか判断できないものですみません。

「どうなんだろうね?」

 いやいや疑問に疑問で答えられても。

「ぼくは男なのかな?」

 中性的な声だったのが、明らかに男性的な声に変わる。

「わたしは女なのかな?」

 そして女性的な声に変わる。

 神様は悪戯っこなのかもしれない。

「からかってごめんよ。性別なんて問われたのはじめてでさ」

 はじめて?

 結構聞かれそうだけどなぁ

「だって普通は神とおしゃべりなんてしないからね。」

 あ、なるほど。いや、でも僕の世界じゃ男神とか女神とか性別判明してる神様いましたよ。

「そりゃ地球の話さ。僕は地球で信仰されてる神の話をされても困るよ。ふつうは輪廻に帰るのさ。そして生まれ変わる。悪いことしたら魂が穢れ、善行を積み重ねれば魂は輝く。神はそれを見て浄化したり、神格を与えたり――天使みたいなものかな?ま、色々するわけなんだけど僕は一々こうしてお喋りしたりしないかな。」

 輪廻転生は本当にあったんですね。異世界に行きたいなって思ってはいましたけどもそもそも地球の神さまじゃなかったんですか。

「うん。僕は君からしたら異界の神だね。本来は君みたいな子は大きな洗濯機にぐるぐる洗浄されて乾かされてって感じで即行次の人生に飛ばすんだけど異世界の子が魂だけで飛んできたから珍しくお話してるんだよ?ちゃんとありがたがってほしいわ。」

 感謝してます。ありがとうございます。

 それで洗浄される際に記憶やら、経験が消えてなくなるのですか?

「そんなところかな。そっちの人間の中には汚れが落ちなくて前世の記憶だったり、経験値があってちょっといい状態でリスタートしてる人間もいるっぽいけど。僕の所でもそういう子たまーに出てきちゃうね。」

 なんと。それはずるいのでは。

「そりゃ洗濯機だって完璧じゃないから文句はなしよ。それに引き継がれるのが才能ならズルだけどもね。殺されたときや死んだときの記憶だけがぼんやりと悪夢となって襲ってくる場合もずるいなんて言えるかな?天才とか言われてるやつの正体には、不公平さを感じずにはいられないだろうけどね。どうしようもない。」

 新事実が過ぎる。

 こんなことが知れれば、世の中大パニックですね。

「まあね。だから内緒だよ」

 まあ、死んでますから。

 構いませんよ。

「きみは今世も、呪われてたみたいだね。」

うそでしょう?そんな不運な感じはしませんでしたが。それなりに社会人として生活も出来てましたし、現実逃避が厨二なだけで生きれてましたが。

「そりゃ女難の呪いだもん。」

 気づきませんでしたね。女難とは、えっと?女っ気うんぬんの話でしょうか?

「ある女の子に一方的に好かれてるね。彼女とかできなかったろう?」

 うっ。でも僕って陽キャだったわけでもないですし。作る努力もしてきませんでしたから。正直呪われてたかと言われると体感ないですね。

「それそれ。そういう感じの呪いだね。因みにきみ、その子に三度殺されてるね。前前前世も前前世も前世も童貞のまま死んでるね。あ、今世も童貞だったね。」

 …とんでもない暴露しないでください。なんだか悲しくなってきました。

「でもよかったじゃないか。呪ってた子に殺されなくてさ。」

 いやまあ。でもなんか理不尽な人生を四度もあってきたって知らされるときついです。僕が童貞だったのってその子のせいなんですよね?

「十中八九魂に刻まれてる呪いのせいだね。まあ、きつい―――うん、そうだろうね。因みにまだ呪われてるみたい。…ぼくのチカラをもってしても解除しきれないけどだいぶマシにはしといたよ。」

あったかい光に包まれて肉体はないのにぽかぽかする感じ。

ありがとうございます。五度目の人生の目標は童貞を捨ててみせます。みまも…りはしないでください。恥ずかしいので。

「ふむふむ。なるほど…わかった。転生させたげるよ。そのままの精神をもったままでさ。そうでもしないと生き物の種の保存欲求に逆らってまた生きちゃうかもしれないしね。」

つまり記憶を残したままという事ですか?

「そうだね。精神は記憶と経験だね。なんてったって解除しようとしたのにそれでも呪われてるからね。僕の力不足って事分の補填?的な感じかな。そのまま送り出したらマイナススタートで可哀想だもの。」

 神様。僕は異世界での転生を希望します。僕を呪った子がいないところ…転生先は異世界でお願いします。何卒、何卒よろしくお願い申し上げます。

「知ってるよ。僕は異界の神だってのに、地球にぽーいなんて出来るわけないだろう。そもそも地球に帰す方法は神である僕ですら分からないよ。」

 え?そうなんですか。神様にも分からない事が在るんですね。安心しました。それとありがとうございます。異世界転生に感謝します。

「地球の輪廻の輪から外れて勝手にこっちまできたのがきみなの。生きた肉体を捨てて魂だけでこちらに来るもんだから驚いたよ。精神をそのまま―――地球という異世界の記憶がこちらで役に立つのか分からないし、果たして補填になるのかな?地球の方が平和で良かったな、なんて思う殺伐とした世界にこようだなんて君はドのつくマゾヒストなのかな?」

 ふむ。大体異世界転生した時の前世の知識ってチート級なんですけどね。 

 僕的には記憶を消されないって物凄いアドバンテージだと思いますけど。 

 因みに殺伐とした世界とはどんな感じですか?

「剣に魔法に、血生臭い世界さ。魔物はそこら中にいるし。辺境の村とか滅ぶことも日常茶飯事さ。地球…特にきみがいたのは日本だろう?可哀想に。温室育ちのきみが生き抜けるとは思えない程過酷だよ。」

 村が滅ぶとか紛争地帯とかですかね。…確かに前世は何もしてきませんでした。環境に甘え、のほほんと生きてたので武術の心得なんかはありませんし。チート能力は然程欲しいとは思わないけど、空手とか剣道とかしておけばよかったかな。頑張りが分かるのでステータスは見たいなって常々思ってましたが。

「ステータス?そんなの誰でも見れますわ。……ちょっと求めてくる次元が低いそんなきみに【再生】スキルをあげよう」

 え?ディスりながらスキルプレゼントって、え?

 まあありがたく貰っておきます。再生って自己再生みたいな?ポケモンみたいな能力ですか?

「いや、どっちかっていうとドラゴンボールのナメック星人みたいな能力だね」

 ふぬぬぬぬって感じで手足が生えてくると?それ以前に異世界の神様がドラゴンボールやポケモンの例え――知識を有していたとは。

「激痛には変わりないけど、人間にしちゃしぶとく生き残れるんじゃないかな。漫画とか小説とか君たちの作る話は最高さ。異世界だろうと何だろうと関心のない神はいないさ。娯楽は共有して然るべき神々の暇つぶしアイテムさ。」

 ありがとうございます。

 気前よく頂けるなら頂いて損はないかな。まさか神々も楽しんでおられたとは…。全世界の漫画家や作家が驚倒しかねないな。

「あとは【獲得経験値五倍】くらいかな。たしかチート能力はそんなに要らないんだもんね?」

まあ、はい。こんな機会が得られるとなんだかんだ欲しくはなりますが。正直十分なチート能力を二つもいただいた身なので我儘は言いません。

「きみは成り上がり系主人公でも目指してるかな?面白いなぁ。危険だって言ってるのに攻撃系スキルを求めてこないなんて。」

そういえばそうでした。

でも普通の人はもらえないんですよね?【再生】も【獲得経験値五倍】も。

「そりゃそうだよ。異世界って言っても義肢にするとかだよ。一応取り外し可能にしとくよ。チートスキルでこの世界を楽しめないんじゃ困るからね。」

 任意で付け替えたりする日がくるかもしれないと?果たしてそんな時はくるのだろうか……。

 冷静に考えて五倍の速度で育ったら二十年の修行で百年分だもんなぁ。

 ちょっとばかし罪悪感があるので、僕はこのくらいで大丈夫です。

 すみません、いろいろと。

「いや、ほんとにいいのかなぁ。うーん、ここまで言って自衛手段を求めないなら…しょうがない【幸運】スキルもつけちゃう。これはどうしてもやばい局面になった時しか発動しないから安心して。」

どうしてもやばい局面とは…。

想像出来ませんが、頑張ります。

「それじゃいってらっしゃい。」


「これで良かったのかい?」

 神様が虚空に向かって話し掛ける。

 一度目、二度目、三度目の家族、四度目の曾祖父達が姿を現した。実は、明人が異世界に飛ばされたのは自身の願いだけではなかった。見守ってきた其々の家族が明人の守護霊となっていて、未だに呪われている彼を不憫に思い、彼の魂を元凶から逃がしたのであった。

 この事実は、本人は知らない。





 鉛のように重い。

 全然身動きが取れない。

 どうなってるんだ。

 目を開けると、視界がぼやけている。

 殆どモザイク状態だ。

 普通にパニックに陥りそう。

 僕は赤子か?ふむ…。

 赤ちゃんの泣きたい気持ちがちょっとだけわかる。

 こんな視界じゃ、頼れる存在がいないと不安で仕方ないだろうな。

「あら、シルフィアちゃん起きたの?お腹すいちゃったかな?」

 人だ。女人だ。これは母親なのだろうか。なんとなくすら分かりません。

 シルフィアとは僕のことか。ずいぶん可愛い名前だな。感性の違いかな?

 抱き上げられたが、そうか。

 産まれたてなわけか。うーん、これは厄介だ。

 単刀直入に言おう、恥ずかしいです。

 強いて言うなら、目が殆ど見えないのが救いか。

 ただ、乳房の感触が。お母様胸がデカすぎないか。ちょっと重いんだが。

 生殖機能がまだ未発達だから、エロいとは思わない。

 母親(仮)に欲情しなくてよかった。

 裕福な家庭だったら母親代わりの乳母がいてもおかしくない。

 だから、(仮)なのだ。

 そうこうしているうちに母乳でお腹はたぷたぷだ。

 もういいと言わんばかりに、口を開け、頭を左右に頑張って振ってみる。振れているとは言ってない。それでも気づいてくれたようだ。

「お腹いっぱいでちゅね。よしよし。おせなかとんとん。」

う、あんまりとんとんされるとでちゃう。下品なのに。すまない!

「けっぷ。あぅ」

 ああ、やってしまった。

 食事中の人がいたらすまない。

 げっぷをしてしまうとは。恥ずかしい。

「よくできたねぇ。おりこうさんだこと。ルイ聞いて!シルちゃん、ゲップがすぐできちゃったわ。天才よ!!」

 背後からルイと呼ばれた人と思しきモノがのっそのっそとこちらに近寄ってきているのが気配で感じ取れる。母親と同じ方向に反転、抱えられるとそこにはやはりモザイクでも分かる。なんとなく人のシルエットであることが。

「なに?!マリア、それは本当か?うちのシルフィアは天才だな。家庭教師でもつけようか。いや、ここは僕が直々に剣を教えよう。」

「ダメよ、剣は危ないわ。だから私が魔法を教えるわ。」

「それじゃ、接近戦闘が心許ないだろう。街へいけば心無い人間…盗賊だっているんだぞ。剣も教える。魔法も教える、それでいいじゃないか。」

「そうね、ルイ。私の頭が固かったみたい。剣も魔法も両方教えましょう。なんたってこのこは天才なんだから!」

 …。親であることは確定したな。

 でもゲップしただけで天才とは。間違いない。親馬鹿だ。

 そもそもどうしてそれだけで魔法や剣をという話になるのか。飛躍し過ぎてるような気がする。いや飛躍してるだろう。

 褒められた内容は微妙だけど…。うれしい。この環境が既に恵まれているよね。

 生活水準は分からないけど、別に特別裕福な家庭に生まれたかったわけでもないし。虐待はなさそうだ。ご飯が食べれて、寝床があれば、いいじゃないか。

 早期教育でチカラが付けば儲けものだ。

 父母よ、僕を鍛えておくれ。


 一年後。

 なんとなくは現状把握できていると思いたい。

 僕はユウラ大陸と呼ばれるシア王国の南東山間部に位置する集落レベルのタルク村という開拓村で父と母には子育てしてもらっている真っ最中なわけである。因みにまだぼやけてみえるが、自分の顔は日本にいた時より比べようもないくらいになったきがする。外国人風といえばいいか。茶色の髪でくりっとした目。鏡の性能上、ぼやけてるがそれでも鏡に映った赤ちゃんに度肝を抜かれたからな。

 その時に、『あら、鏡に映った自分にびっくりしちゃったかな?かわいい~。』などと母親のマリアのテンションが爆上がりしていたし。

 話がそれた。

 どうやら男の精神で、女の身体に転生したらしい。

 —――――神よ、どうしてこうなった。

 ここタルク村は恐らく十世帯もない。こうして聞くと山間部を切り拓いてできたタルク村に住処を追われた獣や魔物の襲撃が集まってすぐ滅びそうと思いたくもなるのだが安心してほしい。東西には半日程歩いた先にタルク村と同じような村が一つずつある。東がサルク村、西がナルク村だ。ことが起きた場合にはこの三つの村で対処するように取り決めがあるので連携すればどうにでもなる。というのが国が調査した結果だし、五年かけて発展させた開拓村が健在であることが何よりの証左。

 国によってまちまちだが、シア国からの助成金は三年で尽きる。それまでに自給自足生活が成立しない場合、開拓地を放棄し、別の土地で生計を立てざる負えなくなるのだが、タルク村周辺は上手くいった典型例だ。

家々の周りは畑が常設。家畜も飼っており、自給自足の生活を送っている。

森には大型犬程の犬の魔物ウルフや、人型の緑の肌を持つゴブリンと呼ばれる魔物が生息しており、男衆は定期的に狩りに出る。父親のルイも勿論加わっている。間引きをすることで数を減らし、集落の安全を保つのが優先順位第一位。魔石や皮、牙を素材にして商人に売ったり、武器や防具を作ったりする。因みにウルフの肉は食べることが出来る。ゴブリンは美味しくないのに肥料にはなる。ぶつ切りにしたりして土や糞などと一緒に混ぜ込んで三日放置しておくと瘦せこけた土地も元気になる特製肥料の完成だ。食用にならない部分は武器や防具、肥料になったりするのでこの世界の魔物の存在は全てに無駄がない気がしている。魔石はとても便利だ。どれだけ小さかろうと有用だ。武器や防具を作る際は、接着剤代わりになるし、単純に魔力増幅器として杖に取り付けられたり、火や光、雷魔法を付与すれば一時的な灯りになる。ウルフやゴブリンの魔石でも一回の付与で六時間は光りっぱなしだそうだ。時計がないし、そもそもまだ六時間も起きれない。だから知識としてしか知らない。魔石は大きさと純度が高い程魔力を取り込める量が増え魔力消費量を抑えることが出来る。そして魔石同士を押し付け合う様にすると融合することで純度しつを上げることが可能だ。

 ではそういった知識はどうやって手に入れたかって?

 剣術・魔術書などは三冊ほど。薬草などの知識書が一冊。

 読み聞かせの類としてどうなのかとも思ったが、おかげでこうやってちょっとした説明が出来る程度には知識が身についている。

 おっと、百個ほど身に付いたらしい。頭の中にアナウンスが流れる。

【鑑定】スキルが手に入ったと。三つ子の魂百までともいうし。さっそく使ってみる。母親のマリアに抱っこされた状態で家のモノを鑑定すると、椅子やら樽、果実チルベリーなど注視したモノに名称が表示される。欲を言えば毒の有無とか使用用途とか解説付きならよかったけど名前が分かるだけでも十分だ。分からないなら調べればいいだけだしね。百個記念にいいもの貰えたかも。


 僕は魔法の発動について少々躊躇われる所があった。

 前知識では丹田やら心臓に集まるマナだとか血脈と同じように独自のだとかはまだいい。だが、発動する際は暴発・暴走するから初めての魔法は危険だとかいうのもあったからだ。

 だが、読み聞かせられた話には魔法の話もあり、その時マリアは実演もして見せてくれた。

 その時の感動たるや。

 そこで僕は一つの仮説を作った。

 自分が魔法を初めて使うという試みに打って出るため。

 勇気を振り絞りやすくするための僕なりの行動原理の論理化だ。

 まずこの世界ではステータスが見える。赤ちゃんであったでもだ。魔力を数値化しているということはそれはRPGなどで言うと所の魔力切れなるものがあったり、足りなければ不発に終わったりするのではないだろうか、と考えた。

 もう一つ、魔力初期値は0だったのだ。つまり、どれだけ努力しても発動すらしない可能性もあるわけだ。だから、考えるより感じろ。物は試しだ。というわけで

 魔法に必要なのは「想像力よ」とマリアに散々言われていたので、実演してくれた水魔法を指の先っちょから滴でもいいから出るように、と想像する。

 すると、強烈な眠気に襲われ、その日の試みは終わる。

 起きると、ステータスは魔力欄が1となっていた。

 成功したのだと分かった瞬間である。

 僕は成功体験を基に魔法をこっそり練習していたので、【水属性魔法】と【風属性魔法】もつかえるようになっている。火や雷、氷など属性毎に魔法は他にも色々あるようなのだが、屋内練習しても気づかれず、安全なのはこの二つくらいだった。

 

 主な練習方法は、ビーズ程の極小の水滴を作り、風で包んで上空で維持する。

 乱れれば水滴が顔に落ちる。よだれにも涙にも見えなくない。口に入れば飲用水にもなる。実に隠ぺいしやすく実用的な魔法だ。因みに風魔法で包まなくても水魔法だけでも浮かせられるが、こっちは魔法消費量が結構きついのでな。

 想像を具現化・事象化するのが魔法だ。具体的に想像できればより少ない魔力で無から有のモノを生み出し、より大きな魔法を使う事が出来るそうだ。絶対に厨二病のような呪文や祝詞が必要という訳ではない。呪文・祝詞などを呟くことで想像しやすくなったりすることもあるので使い手次第だ。魔法の成功率を上げるために魔法補助具とされる杖などを用いて魔力効率を上げてもいい。媒体となる魔法陣や生贄、供物を捧げて魔法力を高めることもできる。


ステータス

シルフィア

Lv.1

力:I 10 耐久:I 0 器用:E 450 敏捷:I 1 魔力:D 500 幸運:I 1

《魔法》

【水属性魔法】【風魔法魔法】【光属性魔法】

《スキル》

【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】

《呪い》

【男性に話し掛けることができない】



 ステータスは頭の中に表示される。

 勿論、他者に見せることも可能だ。【幸運】スキルも貰ったはずだが、表示されていない。恐らく本当にヤバイ時にしか発動しないんだろうね。ドロップアイテムとかには作用しない感じの言い方だった。身の危険が迫った時とかなんだろうけど、発動しないに越したことはない。器用と魔力だけすごい伸びだが、一年間暇を見つけては魔法操作をしていたからね。ご飯を食べて寝てるだけじゃない。偉いだろう?

 ただ他はゴミだけどね。お座りやハイハイでずるんと転んだことがないのは過保護なせい。だから耐久が上がらないのだ。致し方あるまい。

 そして呪いが。…男に話せないのでは無理ゲーでは。まじでどんなけ呪ってんだ。 童貞という名の処女かもしれない、ごめんよ息子という名の娘よ。異世界ハーレムまでは望まなかったけど、ほんとごめんよ。

 めちゃくちゃ駆け足で喋ったのには理由がある。

 そろそろ活動限界タイムリミットが迫っていたからね。

 ほらきたぞ。

「さ、ママとお昼寝しましょうね」

「まぁー、…」

 揺りかごの中に入れられ、撫で繰り回される。

 これが思いの外気持ちよく眠気を誘ってくる。

 有無を言わせない睡眠誘導。抗う術はまだない。

 くっ、ここまでか…おやすぴー…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る