第79話 タタンの村①
東に向かって数日進む。
緑は段々と少なくなって、岩山と荒れ地ばかりになってきた。
四日目。
結構大きな川を越える事になったけど、橋が落とされている。
「今、カサンカ家の支配が及ぶ範囲は、この川までです。
と言っても、時々は侯爵軍がやってくることもあるそうですから、勢力地としてはあやふやですね」
「じゃあ、この川を超えたら本格的に敵地ってわけだ。」
「はい」
そんな深刻なリアムの声を流すようにローラが先へ進もうと声を上げた。
「とにかく、こんな所にいつまでいてもしょうがないでしょ。
さっさと渡りましょうよ」
「でも、どうやって渡るの?」
悩む俺に、リアムが「任せて下さい」と南への道を指す。
南下すると少し川幅が広くなるけど、崖ではなく緩やかな川岸に辿り着くという。
そこでボートでも捜そうって訳だ。
ところが、ローラは直ぐさまに反論してくる。
「はぁ? リアム。あんた、ホントに道、知ってんの?」
「ど、どういう事でしょう?」
「ここから北に少し行けばスーザと付き合いのあるタタンの村があるでしょ!
あそこなら崖も低いし、例え橋が途切れててもボートぐらいなら、すぐ用意してもらえるわよ!
なんで、当てもない南に向かうの!」
「あれ、そうなの?」
向き直ってリアムに尋ねると、リアムは慌てて両手で口を押さえる。
「あっ……。あ~、そうでした、ね。 す、すいません。うっかりしてて……」
「道案内を買って出ておいて、それは無いでしょ?」
久々にリアムをへこませたことでローラは上機嫌だけど、また喧嘩になりゃしないかって、こっちは気が気じゃない。
「その辺で勘弁してやれよ、ローラ」
「誰にでも間違いはあるのです」
メリッサちゃんも助け船を出す。
「気にすんな、リアム」
「は、はい……。ありがとうございます」
「ちぇ! もう、リョウヘイは甘いんだからぁ」
こうして北のタタンの村に向かう事になったんだけど、リアムは相変わらず元気がないままだった。
道を間違えるのは確かに危険だけど、そこまで落ち込まなくてもなぁ。
ようやく村が見えてきた。その時だ。
【おい、亮平】
急にレヴァに呼び掛けられてビックリする。
でも、こいつが出てきたって事は何かヤバイ事に違いない。
おい、脅かすなよ! 周りに敵でもいるのか?
【いや、これから村に入るようだが、リアムには気を配っておけ】
どういう事だよ?
まさか、ここで何かあってリアムが俺たちを裏切る、とか言い出すんじゃないだろうな?
【何を言っておる。欠片を持った上に、お主に気のある娘が今更裏切りなどあり得んわ】
じゃあ、何に気を付けろって言うんだ?
【先程からだが、娘の精神波動が“あの時”に近くなってきた。
いや、今では完全に同じ、と言っても良いものだな。実に危険だぞ】
あの時?
【貴様と闘った時の意識よ】
……?
レヴァが何を言っているのか、俺にはさっぱり分からない。
でも、大事なことらしい。
リアムと闘った時の事を必死で思い出す。
あっ!
お、思い出した!
あれ、確か、あの時のリアムって……。
“捨て鉢で死を望んでいる”って……。
【そうよ。まあ、何故なのかは我にも分からん。
だが、この娘、今ならふとした隙にも不意に死にかねん。
良いか、決して目を離すなよ】
わ、分かった……。
出てきた時と同じに、一瞬でレヴァは消えた。
けど、俺はそれに腹を立てる気にもならない。
今は何が何だか分からなくなっちゃって、それどころじゃないよ。
何で、何でリアムが死ななくっちゃならないんだ?
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