第77話 敵地へ②
出発するのはいいんだけど、その前に一つ確かめなくっちゃならない事があった。
一緒に馬車の準備をしながらローラに問い掛ける。
「なあ、ローラ。ダニクスとか云う侯爵はなんで反乱なんか起こしたんだろうね?」
俺の質問にローラは、「当時は自分も子供だったから良く知ってる訳じゃ無いけど、」と
前置きして答える。
「う~ん。一応、話に聞いてるとこだと、飢饉が原因らしいわ」
「飢饉?」
「そう。五年前に侯爵領で飢饉が起きて王都やこの伯爵領に援助を求めたんだけど、ちょ
うどその頃から国中あちこちに魔獣が現れる様になっちゃったらしいの。
あと、それに合わせたみたいに土地の力が落ちて農作物も減ったんで、どっちも援助は
無理だったようね。
だから結局、『自力で何とかしろ』って返事になったらしいわ」
「それで?」
「え? だから、それが不満で反乱を起こしたって事なんじゃないの? 何か変かしら?」
「いや、変じゃない。と言えば変じゃないけど……。でも、なんか引っ掛かるね」
「何が?」
「いや、なんか分からないけど……。どうも、ね」
「ま、気になるなら、そこも一緒に調べたら良いじゃない」
「だな」
そこにリアムとメリッサちゃんが戻ってきた。
リアムはドラム缶サイズの袋をふたつ、それぞれ片手で持ち上げて運んでいけど、特に
辛そうにも見えない。
「凄いね」
塩を運んでる時もそうだったけど、この力は凄い。
素直に感心すると、リアムは少しだけ
「いやですわ。御主人様。
力を振るってる姿って結構恥ずかしいんですから、あんまり見ないで下さいな」
内股になっていやいやをするリアムの姿は肩に担いだ麻袋のサイズのせいで、どう
にもバランスが悪い。
何というか、ちょっと見るとまるで熊が照れているような……。
と、思っていると、厄介な事にローラがそれをまともに口に出してしまった。
「な~に可愛い子ぶってのよ。ブラウンベアの親戚みたいな格好してるくせに」
その言葉にリアムの目付きが変わる。
「あ~ら、ローラさん。知ってます? ブラウンベアの毛皮って高級品なんですよ。
変な青い髪よりずっと値が張るんじゃないかしら?」
そう言ってリアムが頭を軽く振ると見事な金髪が風になびいた。
「変? 今、“青い髪”を“変”って言った?」
「流石! 年寄りは耳が遠いんですわね」
ケラケラと笑うリアムに向けて、ローラの目が一瞬だけど細くなる。
「狩りも久々だから、一発で射抜けるかどうかは自信無いけど、獲物としちゃ悪くないわね」
言いながらも、ローラは愛用の弓を既に馬車から取り出し終えている。
矢をつがえて狙いを定めるのに一秒と掛かっていない。
凄まじい早業だ。
けど、そんな事に怯むリアムじゃない。
ふん、と鼻を鳴らして荷物を放ると、双刀をすらりと抜きはなった。
「またかよ! もう、お前等、いい加減にしろ!!」
「ですぅ~!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
東に向かうと、途中でキャラバンに出会う。
東回りのコースで北上する珍しいグループだ。
これから代官領に塩や、その他の品を売りに行くのだそうだ。
「でも、今のスーザでなら塩は馬鹿みたいに余ってるよ」
と言うと、中年のリーダーは首を横に振る。
「いいえ、何でも男爵のお膝元であるノーザでは、まだまだ不足してるそうですよ。
ただ、噂では男爵はその内に大きな岩塩鉱脈を開発する予定だそうですから、その前に
売れるだけ売っちゃおうと思ってるんですよ」
その他にも少しばかり情報を交換して彼らと別れた。
「岩塩鉱脈の開発ねぇ?」
馬車の御者台で俺が首をひねると、荷台からローラの溜息が響いて来る。
「あの強欲男爵め!」
「なに?」
「要はスーザを包囲して侯爵軍を撃破したら、その後はドサクサに紛れてお父さんの丘も自分のものにしちゃおうって事でしょ?」
イライラと爪を噛んで、その怒りを隠し切れていない。
「多分そうだろうけど、でも、俺たちが居る以上は簡単にはいかないさ」
「どうせ、あたし達と侯爵がぶつかって共倒れになる事も狙ってるに違いないわ!」
「なぁるほど、邪魔者がふたつとも消えたら、塩の利権は丸儲けって訳かぁ。
な~んか、出来れば男爵か、その親玉の伯爵の方をスパイしたくなっちゃうね」
「ちょっとぉ、あんた! 本気で王国を敵に回すつもりじゃないでしょうね?」
「まさか、単に気分の問題だよ! ローラだってホントはあっちを先に潰したいんだろ?」
「馬鹿にしないで!
いくら頭に来たって、出来る事と出来ない事の区別ぐらいは付くわよ……」
口論気味になってきたけど、ふと隣で手綱を引くリアムが黙って頷いているのに気付く。
その目には怒りと、それから、何とも言えない冷たい何かが渦巻いている様に見える。
声を掛けようとして、止めた。
今、馬をあつかってるリアムの気を逸らしたく無かったし、何より彼女にとって男爵の話は、あんまり話題にしたい事でも無いだろうと思ったからだ。
ローラも雰囲気に気付いたのか、口を閉じてしまう。
急に静かになった馬車はゴトゴトと車輪の音だけを立てて、ゆっくりと進んで行った。
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