第44話 町で


 レヴァ! 町が燃えてるんだから、当然、中は見えるよな。

 何が起きてるか知りたいんだ。前みたいに中継してくれ!


【呼び出されたかと思えば、そんな事か】


 一度はぼやいたけど、こっちが小さな火を灯すと、レヴァはすぐに町の中の光景を見せてくれる。

 映像を覗き込んでリアムが感心すると、ローラが混ぜっ返してきた。

 そんなローラをメリッサちゃんが諫めて、声だけ考えると潜んでいても潜んでいない状態になりそうだ。


「まあ、御主人様の魔法はやはり素晴らしいですわね!」

「ふん! お父さんだって、これくらい出来るわ!」

「どっちも凄いのです! ローラお姉ちゃん、そんな言い方は良くないと思うです!」


『女三人よればかしましい』とはよく言ったものだと思う。

 町から距離が有って良かった。


 それはともかく、火の中に映る光景は予想通りまともなものとは言えなかった。


「メリッサ、見ちゃ駄目!」

 ローラはそう言ってメリッサちゃんの目を塞ぐが、既に遅かった様だ。

 一瞬の光景だったが、その中に死体を見たことでメリッサちゃんはローラの胸に顔を埋めて震え出す。


「酷い……」

 リアムの言葉は、路上に転がる幾つかの死体を見てのものだ。

 俺だって本物の死体なんか洞窟のミイラぐらいしか見たこと無いから、いまいちピンと来ないけど、やっぱり心臓に良くない。

 どうやら今、レヴァの炎は町の奥の小さな街路を写している様だ。


 映像を表通りに切り替えるように頼むと、すぐに広場が見えてくる。

 大勢の人々が一箇所に集められ、周りを武器を持った男達が取り囲んでいた。

 服装も鎧も統一されて無く、ヒゲも伸び放題で粗野な感じがする集団だ。

 いかにも“賊”って感じがするね。


「山賊かな?」

 ごく自然に出た俺の言葉を、リアムは首を横に振って否定する。

 それに続いて出てきた言葉に、俺は仰天した。

「いえ、あれは……、男爵家の兵士です。

 山賊に偽装していますけど、見覚えのある顔が幾つか見えますので間違いありません」

「はぁ!? 何で自分の領地を襲うんだよ!?」

「いえ、それは分かりませんが……」

「どこまでクソなんだ。あのガキ!」


「もしかして……」

 ローラが呟くように、会話に加わって来る。

「一昨日の事と関係してるのかもしれない」

「って言うと?」

「リアム、よ」

「?」

「あいつらは、虎の子の竜甲兵をひとり失った。

 竜甲は無理すれば手に入るわ。でも、装着者はそうは行かない。

 奴隷狩りに行くにしても、森までの距離はありすぎるし、侯爵の軍は近くまで迫ってて時間も無い。

 だから……」


 成る程、わかった。

「つまり、あの町から奴隷を集めようとしてるんだな。

 でも、何で町の一般人まで殺す必要が在るんだ? 奴隷なら普通に譲り受ければ良いんじゃないのか?」

「あのね、竜甲兵って滅多に生まれないのよ!

 あの町の人間を全員奴隷にして、ひとり生まれたなら大成功の部類ね」

 ローラの言葉にリアムも頷く。

「はい、一説には三千人に一人とも言われています。

 本当はそこまでじゃないんでしょうけど、最低でも千人は必要か、と……」

「つまり、あそこにいる人たちはみんな『竜の肉』を食べさせられる訳か?」

「はい。ローラさんの言葉が正しければ、そうなります」

 そう言ってリアムは目を閉じる。

「あの光景は本物の地獄です。食べなければ焼けた剣で指を一本ずつ落とされていきます。

 食べたなら食べたで、それもまた……」


 その後は、つまってしまって言葉にならない。

 それでも、今は情報が欲しい。

 リアムには悪いと思うけど、聞かなくっちゃならないんだ。


「つまり、あの人たちはこれから奴隷化されるんだね」

「はい」

「あの、盟約って奴?」

「そうです。死か奴隷か、どちらかを本人に選ばせます。

 一度奴隷を選んでしまえば自殺もできません。ですから若い女の子なら……。

 実は私は幸運だったのかも知れませんね」


 本当に胸くそが悪くなる。

 こうなるともう理屈じゃない。


「助けよう!」

 無意識にその言葉が出ていた。



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