止まったままの時間

3sunches

第1話 はじまりの時間

「止まったままの時間」

序章

 喜んだ記憶、怒った記憶、悲しかった記憶、楽しかった記憶。

全部その人の思い出で、かけがえのない宝物。けれど、人の記憶は儚いもので、思い出は泡のように少しずつ消えていってしまう。その思い出をいつまでも覚えていたいと、ファインダー越しにその思い出を切り取る。写真はいつも人生の重要な場面の隣にいた。大事な思い出はいつまでも覚えていたいもの。写真は、まるでその時の時間が切り取られていて、いつまでも変わらない姿を見せてくれる。

 人は、等しく歳を重ねて老いていく。そんな中、ふと写真を見るとまるであの頃に戻ったかのようなノスタルジーを覚える。[あいつは今何しているだろうか。][同じクラスだったあの子はどんな大人になっているのだろう。]

 そんな中、人はある思いが頭をよぎる。


「会いたいな。」


社会に出てからというもの、学生時代とは大きく異なる時間軸に翻弄されて、目まぐるしく過ぎていく時の流れに目の前のことだけに必死になってしまう。

 そういう環境でこそ力を発揮することのできる人がいることもまた事実ですが、大多数の人は疲弊して、走る速度を緩めたり、走ること自体をやめる人もいる。そんなときこそ、写真を見てください。ノスタルジーは、人が動きたいと思うことの大きな原動力になります。そう言った気力が出そうな写真をお持ちであれば、是非当店へその写真をお持ちください。きっと、力になることができるでしょう。

 では、お聞きします。

「あなたは、いま会いたい人がいますか。」











【今日の最下位は、しし座のあなた。どこに行っても気苦労の絶えない日、いろんな災難が降りかかるかも、こんな日はおうちでひきこもるのが一番。でも、どうしても外に出ないといけないあなた、今日のラッキーアイテムは『カメラ』一緒に出掛けたらいいことあるかも?】

 せっかくの休日に出かけようと気分よく支度をしていたのに台無しにされた気分だ。

「たまの休日くらい好きにさせてくれよな・・・。こちとら5連勤に加え、繁忙期よろしくな残業をこなしたっていうのに。」

 休日はもっぱら外に出かけるスーパーアウトドアな俺だが、これといった趣味はない。サイクリングしたり、本屋さんでいい本はないか物色したり、バッティングセンターに行ったり、ゲームセンターで音ゲーに勤しんだり。そう、まごうことなきストレス発散である。サラリーマンが唯一羽を伸ばしていいのが休日なのに、引きこもりなさいだなんて、なんて無慈悲な星座占い。

 「いや、待てよ。」

ふと、あることに思い当たり、越してきて2年経った押入れの段ボール達を開封し始めた

段ボールの中身を書いていればいいものを、まったく手掛かりなしの状態で開封していくものだから、部屋があっという間に段ボールで埋め尽くされた。

押入れのなかがほとんど空になるころにようやく目当てのものが見つかった。

「おぉ、あったあった。」

そういって、段ボールから年季の入った一眼レフのカメラが出てきた。

親父が就職祝いだって、昔から愛用していたこのカメラを譲ってくれてことを思い出した。忙しさも相まってすっかり忘れていたが、子供のころは親父とこのカメラでいろんなものを撮って回っていた。

 親父が休みの旅に、山や川に行って自然の風景や鳥やいろいろな動物を撮った。親父からカメラを奪い取っては俺も写真を撮って、どっちの写真が良いだのうちに帰ってからお母さんに品評会をしたものだ。懐かしさに浸っていると、写真を撮りたくてうずうずしてきた。しかし、いざ電源を入れようとするものの電源が付かない。充電が切れているのだろうと思い、付属のケーブルを指してみても充電されない。らちが明かなくなった俺は、カメラを手に取り近所の家電量販店に行くことにした。


「ああ、これは故障していますね。うちで取り扱っているメーカーのものじゃないから直るかわかりませんが、修理に出されますか。」

 気軽な気持ちで来たので、金額を聞いて丁重にお断りをした。いままで存在を忘れていたカメラに対して、三日分の日当は気軽に出せるものじゃない。もう二件ほど他のお店に足を運んでみたが、同じようなことを言われてしまった。

 「占いがあんなこと言わなければこんなことにはなっていなかったのに。」

 半ば八つ当たりのように今朝の星座占いに悪態をつくと、ふとした時に自分がとてもみじめな存在のように思えて、より一層気が滅入ってしまった。占いの言っていた通り、ただただ気苦労を重ねただけだった。

 もう手段もないし、疲れてしまったので帰ろうかとしたところ若い店員さんに呼び止められて、なにやらバックヤードのほうへ誰かを呼びに行ってしまった。

 数分後戻ってきた店員さんはなにやらメモのようなものを手にしていた。

「お待たせしてしまって申し訳ありません。よければここを訪ねてみてください。」

渡されたメモには、とある住所が記されていた。最寄り駅から3つ隣の駅あたりだ、そう遠くはない。

「実は、叔父がこういったカメラに詳しくて、昔馴染みにしているお店があるとかでここのことを教えてもらっていました。僕はいまのところ用がないので行ったことはないのですが、もしかしたらと思って。」

 最近人と関わっていなかったから、こういった思いやりにシンプルに驚いた。見ず知らずの相手にここまでしてくれるなんて、この子はとてもいい子なのだろう。多分俺より若いはず。

 簡単に謝意を伝えお店を後にした

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