第3話 姉の威厳を示すのだっ!
アルビオは古都というだけあって、なんだか歴史を感じさせる街並みだ。
でも聞いた話だと、一年前に大水害があったらしい。その影響かどうかわからないけど、遠くに見える大聖堂は修理の足場に囲まれている。
わたしは広場の噴水の近くで、ぼーっと街を眺めていた。
かれこれ二時間近く経つ。
ルイは宿を探しに行ったきりだ。
バカ姉は絶対にここから動くな、と言い残して。
わたしはその間、手持ち無沙汰のまま、ぼーっとしていたわけだ。
それにしても、とわたしはふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。
年長者に対して、本当に失礼な弟だ。奴は、わたしを一体何だと思っているのだろう?
役立たずのポンコツ姉だとでも?
まがりなりにも、わたしは人生の先輩なのだ!……一年だけだけど。わたしはキリッ、と唇の端を固く結ぶと立ち上がった。
今こそ、姉の威厳を見せる時だと思う。よく分からないけれど、きっとそう!
二時間待っても帰ってこないのなら、きっと宿探しに苦戦しているに違いない。そこをわたしが、鮮やかすぎる手際で助けるのだ。
──宿?そんなのあっさり見つかったけど、そんな難しいことだったかしら?
なんて、澄ました顔で言ってやるのだ。
そうと決まれば即行動だ。
わたしは立ち上がった。
今こそ、あの小憎たらしいルイを見返すのだ!
「──保護者がいない? 駄目駄目!」
わたしの野望は、あっさりとついえた。
そこは路地裏にある、少しホコリっぽい宿だった。
太い腕を胸元で組んだ店主は、胡散臭そうな目でわたしを見ている。
どうやら世間では……子供だけでは、泊めてもらえないらしい。
店主のオジサンはジョーレーがどうとか説明してくれるけど、今ひとつ分からない。
お金はあるのに、おかしいと思う。
でも、ここで引き下がったら初日から野宿だ。それだけは断固避けたい。
わたしは目に涙を浮かべながら、上目遣いにオジサンを見た。
「あのーですね、すごく困っているんです。子供だけでも泊まれるお宿って……ご存じないでしょうか?」
「なんだ、訳ありか?」
「そうなんです! 血も涙もない母に家を放り出されて、弟にはバカ姉だと理不尽に罵られて……。できれば王子さまがいそうな素敵なお宿を希望です! ありませんかっ!?」
「あるわけないだろう」
……やっぱりそうか。
オジサンは不機嫌さを隠しもせずに、言い捨てる。
でも、わたしの主演女優顔負けの演技は、心に響いていたみたい。
深々とため息をつくと、カウンターに地図を取り出して見せたのだ。
「ここだ。この郊外にある洋館を尋ねてみることだ。旅人を無償で泊めてくれる、物好きがいるらしい」
「本当ですかっ!?」
「ただし、王子なんぞおらんぞ」
「かまいません!」
オジサン、いい人っ!
王子さまがいないのはマイナスポイントだけど、得られた成果は大きいと思う。
ありがとうございます! と言い残して、わたしは走り出した。
夕暮れを迎えて、影は長く伸びていた。
わたしの巧みな交渉術のおかげで、今夜は野宿をせずに済みそうだ。きっとルイは、涙を流して感謝するに違いない。
バカ姉だなんて、二度と言わせない。
喜び勇んで広場に戻ろうとして……わたしは、はたと気づいた。
──おかしい。
広場に戻るつもりが、目の前は行き止まりだった。
道を間違えた。
気づかないうちに、人気のない路地に入り込んでしまっていたのだ。
慌てて元来た道を戻ろうとして、目があう。
視線の先に、目つきの悪い男たちがいた。
どう見ても友好的な雰囲気じゃない。
ニヤついた笑みを浮かべながら、男たちがわたしを取り囲んだ。
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