宇宙人

紫香楽

第1話 宇宙人

夜の海。真っ暗な世界。小さな月が、チラチラと白を散らす。コンクリートの堤防の上で、静かに波の音を聴いていた。どこからか漂ってきた海が、堤防にぶつかって、チャプチャプと、なんだか困ったように揺れている。耳を澄ませば、遠くの海の声も聞こえてきた。ザザーン、ザザーン。


辺りには私以外誰もいない。久しぶりの潮の香りは、前とは違うものなのだろうか。


ふと隣を見ると、何かが立っていた。私は目を見開いて息を止めた。


緑色の体に、大きくて黒々とした目。頭からキャンディーのような触覚が伸びている。そして小さな穴が顔の真ん中に二つ。その下の切れ込みは口のようにも見えた。



頭の中がぐるぐると回り出す。回って回って竜巻となっていく。心臓は冷や汗をだらだらと流していた。 ソレは表情もなく私を見つめたまま。私の体は石のように動かないまま。


なにをしに来たのかわからない。なにをされるのかわからない。アレが何なのか、わからない。わからない。


クルクルクルクル


ソレは突然触覚を回しだした。なにを示しているのかはわからないが、私は慎重に応えなくてはならない。


「よ、よろしく」


裏返った声で、ゆっくりと右手を差し出した。身体中の筋肉はこわばったままだ。指先はブルブルと震えている。


しばらく私の手をみつめた後、彼は私の握手に応じた。緑色で、しかし柔らかく、温かい手だった。


クルクルクルクル


彼は繋いだ手を回しだした。


クルクルクルクル


私も一緒に回しだす。


クルクルクルクル、クルクルクルクル


これが彼と私の出会い。

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宇宙人 紫香楽 @451o4971no

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