黒瀬さんに、告白しようと思ってる。

だんご

第1話

黒瀬くろせさんに、告白しようと思ってる。

 クラスのみんなには、悪いけど。

 抜け駆けで。

 次の委員会の日、同じ当番だから。

 手紙ラブレター渡して。それで気持ち伝える。

 黒瀬さんは男の人と付き合ったことないから。

 びっくりするかもだけど。

 もう気持ちを伝えるのを我慢できないから。』


「――っていう気が狂ったかのような怪文書メッセを送ってきたと思ったら、今度はファミレスに強制連行って……一体どんな了見かしら」


「……振られた」


「はぁ?振られた?……振られたって、黒瀬さんに?」


「うん……」


「……」


「……」


「はっ、ざまぁ」


「……おまえ、失恋で傷心してる幼馴染に対してもっと優しい言葉とかかけられないわけ?」


「あんなメッセージをよりにもよって私に送ってきやがったあんたが、そんな言葉かけてもらえるわけないでしょ?」


「深夜テンションって怖いよな」


「死ね」


「傷心中の相手に対して容赦なさすぎない……?」


「なんか被害者ぶってるけど、あんたの凶行に巻き込まれた黒瀬さんが一番の被害者なんだからね?」


「俺の告白を凶行って呼ぶのやめて?」


「で、黒瀬さんには何て理由で振られたの?存在が生理的に無理とか?」


「ガン無視したうえに傷口に塩塗りたくってくるじゃん……。というか、おまえの中で俺が振られた理由の第一候補それなの?」


「それ以外に何があるっていうのよ」


「え、それ以外ない感じ?俺ってもしかして女子の中で相当評判悪かったりする?」


「…………」


「無言で微笑むのやめて?微笑まれてるのに何の安心感も感じないから」


「ま、今はそんなことよりも、あんたが黒瀬さんになんて振られたかについてでしょう?」


「俺にとってはそんなことじゃないんだが……。んー、黒瀬さんになんて振られたか、なあ……」


「なによ、言えないような酷い振られ方したわけ?もしかして、生理的に無理が正解だった?」


「いや、そういうわけじゃないんだが……」


「じゃあもったいぶってないでさっさと言いなさいよ」


「………………彼氏が、いるらしい」


「……」


「……」


「ふっ、あっははははははははははははははは!」


「爆笑は酷くないかなあ!?」


「いやいやいやこれは笑うでしょ!?あんた私に送ってきたメッセの内容忘れたの?『黒瀬さんは男の人と付き合ったことないから。びっくりするかもだけど。』とか言ってたのに、男がいるからって理由で振られるとか笑うなって方が無理じゃない!」


「だから言いたくなかったんだよ!」


「あー笑った笑った……やば、笑いすぎて涙出てきた。いやー、でもまあ、考えてみれば当然だと思うわよ?黒瀬みなみって言ったらクラスどころか学校全体でも1、2を争う美少女だし。むしろなんで彼氏がいないと思ったのよ」


「そんだけの美人なのに彼氏がいるとかいたとか一度も聞いたことなかったからだな。あとはまあ、そうであってほしいという俺の願望」


「あんたのキモい願望はともかくとして、確かに黒瀬さんに男の影がって話は聞いたことなかったわね。付き合ってること隠してたのかしら」


「いや、ほんの数日前から付き合い始めたらしい。隠したいって感じじゃなかったから、これから徐々に広まっていくんじゃねえかな。……俺ももう少し早く告白していればっ……!」


「黒瀬さんって気まぐれやノリで付き合うタイプじゃなさそうだし、彼氏さんとは好きになるまでの積み重ねがちゃんとあったんだろうから、あんたが多少早く告白したくらいじゃ何も変わらないと思うけど」


「やめろ、正論は俺に効く……。わかんないじゃん、俺の方が早く告白してたら俺と黒瀬さんの積み重ねが実を結んでたかもしれないじゃん……」


「あんた積み重ねって言えるほど黒瀬さんと接点ないでしょ」


「……委員会一緒だし」


「それ以外にはあんの?教室でも話してるのほとんど見たことないけど」


「…………」


「ダメじゃない……。というか、そんなんでよく告白したわね。黒瀬さんのどの辺が好きだったわけ?」


「……顔?」


「サイッテー……」


「いや、そんなゴミを見るような目で見るんじゃない!俺も言っててこれは……って思ったけど!でもさ、見た目ってやっぱ重要じゃん!おまえだって、付き合うならイケメンの方がいいだろ!?」


「イケメン、ねえ……」


「……なんだよ、人の顔をじっと見て」


「別に?私はイケメンと付き合いたいわけではないなって思っただけ」


「マジかよ……イケメン好きじゃない女子とか存在したのか……」


「普通にいると思うわよ?見た目よりも中身が大事って女の子。もっと言うと、たとえ客観的にイケメンでなくても、好きになった人が一番カッコよく見えるものなんじゃないの」


「……おまえって結構ロマンチストよな」


「うっさい。顔しか見てないあんたとは違うのよ」


「いやいや、俺だって顔だけで黒瀬さんに告白したわけじゃないからな?」


「そうよね、今のは私が悪かったわ。あんたは、ちゃんと身体からだもみてるわよね」


「俺の印象最悪にしようとするのやめてくんねえかな!?ちげーよ!性格とかそういう内面的なとこだよ!」


「性格ねえ……例えばどんな?」


「そうだな、人の話をちゃんと聞いてくれるところとかかな。黒瀬さんってさ、オチすらないようなすっげーしょうもない話でもニコニコしながら聞いてくれんの。そういうところ、いいなあって」


「ふーん……ほかには?」


「……面倒見のいいところかな。委員会の仕事とかさ、俺結構覚えが悪かったと思うんだけど嫌な顔一つせずめっちゃ丁寧に教えてくれてさ」


「……ほかには?」


「ほか……ほか……えーと……」


「何よ、二つしかないわけ?」


「ちげーから。ぱっと言語化できないだけだから」


「ふん、どうだか。…………顔がよくて、話をちゃんと聞いてくれて、面倒見がいい、ねえ。え、それならあんた私のこと好きになってないとおかしくない?」


「……?」


「その本気で不思議そうな顔やめなさい、腹立つから」


「幼馴染が急にナルシズムに目覚めたらそりゃこんな顔にもなるだろ」


「あんたはナルシズムって言うけどさ。自分で言うのもなんだけど、私って結構な美少女だからね?学校1の美少女の座を黒瀬さんと争ってるの、他でもないこの私だからね?」


「あーそういやあったなそんな設定」


「設定って言うんじゃないわよ。客観的評価に基づいた純然たる事実だから」


「いやな?別に俺も否定してるわけじゃないんだよ。おまえがめちゃくちゃ可愛いのは認める。でもなあ……小さい頃から散々見てきた顔だし今更特別視できるかと言われると――ってなんかすごい顔してるけどどしたよ」


「……なんでもないわよ。……とりあえず、私が可愛いってことがわかってればいいの。それに加えてほら、私って人の話ちゃんと聞く上に面倒見がいいじゃない?」


「………………?」


「次その顔したらぶつわ」


「すげー理不尽」


「今だってこうしてあんたの話を聞いてあげてるじゃない」


「言うほど話聞いてくれてるって感じか?むしろおまえが主役だと言わんばかりに毒吐きまくってない?あと、黒瀬さんが話を聞いてくれてる時の笑顔は癒される系のやつだったけど、おまえの笑顔は煽りor嘲りって感じなんだが」


「テスト前に必ず泣きついてくる学習能力皆無のあんたアホの面倒だって毎回見てあげてるでしょ」


「教わったとこ間違えると舌打ちされるけどな」


「…………」


「悪かった、俺が悪かったからそんな睨むな。……いや、思わず茶化しちゃったけど、実際言う通りだと思うよ。おまえ、俺が本気で悩んでたり凹んでるときは絶対真剣に話聞いてくれるし、勉強教えてくれる時だって俺がちゃんと理解するまでなんだかんだ付き合ってくれるもんな」


「……そんな風に素直に認められるとそれはそれで反応に困るけど。というか、どうしてそれであんたは私に惚れてないわけ?顔がよくて、人の話をちゃんと聞いて、面倒見もいい女が好きなんでしょ?」


「確かにそんな風に言われると、俺はおまえに惚れていて然るべきな気がしてくるな……。でもなんつーかなあ、おまえとは付き合いが長い分もう異性って枠を超越してるっていうか、もはや……姉?」


「死ね」


「なんでぇ?」


「それがわからないからあんたはダメなのよ。妹じゃなくて姉って言うあたりが最高にあんたって感じだし」


「俺が頼りがいあるかっこいい男なら兄ポジション狙えたかもだけどなあ……。実際、おまえからしても俺って出来の悪い弟みたいなもんだろ?」


「……別に、あんたは優しくて頼りがいもあるし、ちゃんとかっこいいわよ。弟みたいに思ったことなんて、私は一度もないし」


「え、なんだって?」


「死ね」


「聞き取れなかったものはしゃーないだろうが!」


「いや、確かに私も声のボリューム落としたけどこの距離で聞こえないって異常でしょ。あんたの耳どうなってんの?」


「おまえと話してると急に耳が聞こえづらくなることがあるんだよな」


「もはやそれ病気なんじゃない?」


「俺もちょっとおかしいなって思って、実はこの前病院行ってきたんだよ」


「……マジ?」


「マジ」


「それで、医者からなんか病気だって言われたの……?」


「……主人公性難聴だねって言われた」


「…………なんて?」


「主人公性難聴だね、って……」


「……一応聞いてあげるけど、どんな病気?」


「医者の説明によると、"特定条件を満たした異性が特定の話をする時だけ耳が遠くなる病気"らしい」


「死ね」


「おかしいだろ!?」


「死ねとしか言いようがないじゃない。なんなのその医者、現代医学舐めてんじゃないわよ」


「まあ俺も流石に、何言ってんだコイツって思ったしヤブ医者だったんだろ。特定条件を満たした異性って何ですかって聞いても『それをボクの口から伝えるわけにはいかないよ』ってすごいニヤニヤしながら言うだけだったし」


「……ちなみに、治療法とかは聞いてないの?」


「え、なんでちょっと興味持った感じになってんの?」


「いいから」


「えーと、『残念ながら治療法はないねえ。聞き逃しようがないくらい、素直にはっきりと気持ちを伝えればいいんじゃないかな?うかうかしてると鳶に油揚げをさらわれるよ?』とか言ってたな。正直、何言ってるか全然わからなくて意味不明だったわ」


「…………なんていうか、ムカつくわね」


「そうなんだよ。常に人を食ったような態度でさ。でもすんげーイケメンだからそれも様になってるのがさらに腹立たしいんだわ」


「……ただ、言ってることは一理あるのよね。今回は失敗したからよかったものの、こいつ意外と女子からの評判いいし……」


「おーい、また聞こえないんだがー?」


「これは聞こえなくていいやつだからそれでいいのよ。ねえ、あんたって今度の週末空いてる?」


「急にどうした?空いてるけど」


「そ。なら、一緒に遊びにいかない?」


「もちろんいいぜ。でも、おまえから誘ってくるのは珍しいな」


「ま、一応失恋したらしい幼馴染を元気づけてあげようっていう私なりの気遣いよ」


「おーおーそりゃどうも。で、どこ行くんだよ」


「んー、その辺はおいおい決めていくんじゃだめ?」


「了解……っと、もう結構いい時間だな。ぼちぼちお開きにするか?」


「そうね。あんまり帰りが遅くなってもよくないし」


「急だったのに付き合ってくれてありがとな。おかげで元気出たわ」


「私も楽しかったし、別に感謝されるようなことじゃないわよ」


「そう言ってくれるのはありがたいなあ。また俺が振られたときは話聞いてもらっていいか?」


「何言ってんのよ。絶対嫌に決まってるでしょ」


「ええ……めっちゃいい笑顔で拒否るじゃん……」


「私としては、"また"なんてないつもりなんだから当然でしょ?」


「……?」


「別にわからなくていいわよ。今は、ね」




――幼馴染に、告白しようと思ってる。

  鈍感なあいつには、悪いけど。

  伝わるまで。

  次の週末、デートだから。

  告白して。それで気持ち伝える。

  あいつは私を異性として意識してないから。

  びっくりするかもだけど。

  私の隣にいる人は、あいつ以外に考えられないから。

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