第10話 知らせ
木こりの夫婦の家を後にし、2人が古家へたどり着いた頃には、太陽はすでに沈み始めていた。
歩みを止めた
「この村には宿なんかないし、行くアテもないんだろう?ウチに泊まっていったらどうだ?」
「いえ、結構です。」
「・・・ハァ。あの2人の話から事件の糸口が全く掴めなかった。お前が何か気がついていれば、教えてくれないか?」
事件の糸口が掴めないのは事実であるし、いくらラニットが
「それが人に物を頼む時の態度ですか?」
「・・・ッ!お前なぁ!」
『子供』相手ではあるが、これまでのラニットの態度と事件の手掛かりのなさから来る苛立ちが原因である。
「・・・ッ!?」
「・・・すいませんでした。」
「あ、いや・・・。こちらこそ、大きな声を出してすまない。驚かすつもりはなかったんだ。」
そんな反応に、
だが、そんなやり取りが中まで聞こえていたのであろう。
「声が聞こえると思ったら、帰ってたのね。さぁさぁ2人とも入って、入って!もうすぐお夕飯ができますからね。」
「いえ、ボクは・・・。」
「ラニットくん、悪いんだけど寝るところはノクトの部屋で構わないかしら?狭い家でごめんなさいね。ほらほら、早く!」
「・・・はい。ありがとうございます。」
ラニットは、捲し立てる
常日頃、
夕飯の後、ラニットは「先に休ませていただきます。」と言って早々に部屋へ戻り、これまでとは違った様子を
部屋に戻る
なんと声をかければいいのだろうか。
答えを出す間も無く、部屋の前へ辿り着き扉を叩く。
「入るぞ。」
返事はなかったが、
不機嫌なラニットに何を言われても、とにかく謝ろうと腹を決めていた。
仏頂面で不貞腐れていると思っていたが、窓際に腰掛けるラニットの表情は神妙なものであった。
「さっきは本当に悪かった。大人げなかったと反省してる。」
第一声に謝罪の言葉を述べた。どんな罵倒が飛んでくるかと身構えたが、ラニットの返答は
「先ほど、ボクの『虫』からこれが届きました。」
ラニットが
『知らせ』が届いたのである。
「『知らせ』が届いたのか!それは・・・?」
「血です。ボクの『虫』は獲物を発見したら、その血液を『知らせ』として、ボクの元に運んでくれます。」
「血液?お前の『虫』は、一体何なんだ?」
獲物とは当然、
だが、血液を運ぶことに何の意味があるのだろうか。
そんな
「
蝙蝠がつける目印。吸血痕である。
「小さな傷ですので本人は、『虫に噛まれた』と思う程度でしょう。つまり、身体のどこかに吸血痕がある人物がいれば、それが
だが、それで終わりではない。むしろ、
迅速に対処しなければ新たな犠牲者が増えてしまう。
「一刻も早く事件を解き明かして、終わらせなければ・・・。」
決意を言葉に出し、己を奮い立たせる。
そんな
「ベスティアさん、一つ言っておきたいことがあります。」
「ん?なんだ?」
「あなたは、故郷であるこの村で起こった事件の全ての謎を解き明かし解決させることが目的なのかもしれませんが・・・ボクにとっては違います。
ボクにとって重要な事は、『
その口調は、
「もっとハッキリと言えば、この事件が
死人の為に時間を
明日からは、
ラニットの言っている事は、『
だが、正しいからと言ってすんなりと受け入れる事ができるかと言えばそうではない。
「・・・ラニット、たしかにお前の言う事は正しいよ。だがな、人間には情があるんだ。
オレが
そして、犠牲とは何も直接襲われた人間だけじゃない。残された人間も犠牲者なんだ。
オレは今日、フィオナさんの涙を見た。
そして約束したんだ。この事件を解決すると。
全てを教える事はできなくても、せめて納得がいくようにはしてやりたい。」
自分の
「あなたがどんな理由で
一応、一宿一飯の恩がありますから言わせてもらいますが、あなたは今回の件から身を引くべきです。
あなたが人間の情を大切に思うなら、なおさら。」
「何を言っているんだ?今更見過ごせるわけがないだろ。」
自らの故郷が、
だが、ラニットが告げた言葉は、
「今回の事件が、
「・・・あなたは、故郷の人間を殺す事ができますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます