第14話 ベダードン
トールの駆除作業は順調だった。
いや、順調すぎて下町を解放してしまった。
「うーん。あれだけ狩って魔石はこれだけとは……」
少なくとも五百匹はいたはずなのに、魔石は洗面器に入るくらいの量しかなかった。
「……前途多難だな……」
いやもうこの世界にきて半月は過ぎてんだけどさ。
「ソレガシ殿! 町の外に魔物が現れました! 数は六! ベダードンです!」
ベダードン? ポケットなモンスターかな?
魔石はセフティーホームに運び、新たに手に入れた角材をつかんで兵士のあとを追った。
下町も壁で囲まれているが、そう高くもなく厚くもない。オレならパンチ一つで崩せそうな板の壁だった。
それも魔王軍の侵略時に壊されており、壁の役目を果たしてなかった。
「あれがベダードンか」
ファンタジーに出てきそうな象だこと。いや、ファンタジーな世界だからいいいのか。これはさすがに角材で倒せる相手じゃないな。
「あれも魔物ですか?」
「はい。昔から城塞を落とすときに用いられます」
確かにそれだけのサイズはありそうだ。廃材を運ぶトラックはありそうだ。
「ちょっと倒してきます。皆さんはここにいてください」
「あ、あれと戦うつもりですか!?」
「ええ。同じくらいのを動かしたことがあるので大丈夫です」
側溝に落ちたのを持ち上げたことはある。あの感覚なら問題ないはずだ。
「まあ、皆さんはここで待っててください。近くにいると巻き込んじゃうんで」
あちらは威嚇のためかゆっくり向かってきている。なら、こちらから出向いてぶん殴らせてもらいます。
門から飛び出してベダードンに向かって駆け出した。
身体能力に合わせた肺なので、一キロ二キロ全力疾走しても息切れは起こさない。最高は五十キロは走ったことはある。帰りは電車で帰ったけど。
まあ、全力疾走で走ったら止まれなくなるので、コントロールができる速度で走った。
ベダードンに乗る獣鬼族と呼ばれる緑色の肌を持つ魔物がオレに気がつき、背後にいる配下に叫び始めた。角材持ってくるんだった。
仕方がないと走る速度を上げ、正面にいるベダードンに全力タックルをした。
速度も乗っていたのでベダードンを吹き飛ばすことで停止できた。
「やはり、このサイズでもオレの力は通じそうだな」
片脚にタックルしたが、オレに痛みはない。これならまだコンクリートブロックに当たったほうが痛かったな。
数メートル吹き飛ばされながらまだ生きているベダードン。なかなか防御力のある魔物のようだ。
ただ、前脚は完全に折れているようで立てないでいる。なので、鼻をつかんで一本背負い。地面に叩きつけてやった。
足下にちょうど石を発見。つかんで突進してくるベダードンの頭に投げつけてやる。
石は砕けてしまったが、ベダードンの頭も少し削ることはできた。やはり鉄球でもないと頭は吹き飛ばないか。
また手頃な石があったので一投入魂。また頭にぶつけてやった。
「オレ、コントロールいいな」
もしかして野球の才能があったか、オレ? 角材もいい感じに当ててたし。まあ、やっていたら人が死んでいたことだろうけどな。
「おっ、またバールのようなものが」
獣鬼の武器なんだろうか? よくよく見たら持っているヤツがちらほらといた。
「ん? あいつのが一番丈夫そうだな」
豪華な鎧を纏うヤツがバールと言うより金棒みたいなものを持っていた。あれならベダードンの頭でも余裕で砕けそうだ。
そいつに目標を変え、バールのようなものを振り上げて駆け出した。
途中、獣鬼が道を塞ぐが、バールのようなもので蹴散らしてやり、豪華な鎧を纏う獣鬼に迫った。
「人間がっ!」
お、こいつもしゃべるんだ。ファンタジーやな~。
金棒を軽々しく振ってくるが、左手でキャッチ。力任せに奪ってやったらバールのようなもので金的アタック。金棒を持ち変えて頭を吹き飛ばしてやった。潰したら魔石まで潰しかねないからな。
「いい金棒だ」
二メートルはあり、オレの力にも負けない硬さをしていて、大地を吹き飛ばすこともできた。
「材質なんだ?」
バールのようなものだったら折れているところなのに、大地を吹き飛ばしても曲がることなかった。
「まあ、いい。これで殴りやすくなった」
もうちょっと細いと握りやすいが、まあ、オレの握力なら滑り落ちることもないだろう。頑丈さが一番だ。
「よし。やるか」
リーチが伸びたのでベダードンも脚を折ってやれば簡単なもの。倒れたところを頭に金棒を振り下ろせば終了だ。
六頭を倒したら次は獣鬼だ。このサイズならトールより生命力はありそうだ。愛華のために死にさらせ!
幸いなことに獣鬼は逃げないでいてくれている。なら、遠慮なくぶっ殺す!
強い存在はいないのでこれも作業になり、陽が暮れる前に全滅させられた。
「……さ、さすがに疲れたな……」
午前中はトール。午後はベダードンに獣鬼。ちょっと戦いすぎたな。てか、昼、食ってなかったっけ。バケモノも食わなきゃ力が出ないか……。
「ソレガシ殿!」
ベダードンの上で休んでいたらロイズさんたちがやってきた。
「また片付けをお願いしていいですか? さすがに疲れました」
「もちろんです。ゆっくりお休みください。魔石も取り出しておきます」
「すみませんね。面倒なこと任せて」
やるだけやって丸投げ。ほんと、すみません。
「このくらいなんでもありませんよ。ソレガシ殿は魔王軍と戦うことに集中してください」
そう言ってもらえてありがたい限りだ。
「では、また朝に──」
そう告げてセフティーホームに入った。
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