第13話 作業

 一度、セフティーホームに戻った。


 ティア様はおらず、朝から入った様子もない。まあ、まだ十時にもなってないしな。トイレにくることもないか。


 スーツを脱いでランドリーボックスに入れる。


 綺麗になるまでシャワーを浴び、コーヒーとタバコで一服した。フー。


「あ、魔石を入れておくか」


 大した量じゃないが、少しでも部屋を拡張しておこう。


「拡張されたのか?」


 まったくわからない。変換率、悪いな~。


 一時間くらいでスーツが綺麗になり、また着替えて外に出た。


 また血塗れになるのは嫌なので、廃屋から木材を剥がし、握りやすいようナイフで削った。


 強度的に心もとないが、力を抑えればトールくらい問題なく殴れるだろう。


 何度か加減を覚えていると、またトールが集まってくた。


「こいつら、なに食って生きてんだろう?」


 さっきので二、三百はいたし、今回も同じくらい集まってきた。てか、雑魚しかいないんだろうか?


 またここで殴り殺すのは面倒なので、城下町の門まで後退した。


 オレが逃げたとでも思ったのだろう。自虐的な鳴き声をして追いかけてくる。知能は猿並みだな。


「手出し無用!」


 門を守る兵士たちに叫んでトールたちを殴り殺し始めた。


 なかなか堅い木材なようで、頭を砕いても折れることはなかった。とは言え、さすがに三十匹も頭を砕くと限界がきて折れてしまった。


「ソレガシ殿、これを!」


 と、背後から大剣が飛んできた。


 刃渡り一メートル五十はあり、厚さもあってオレの力に充分耐えられる強度をしていた。


 完全に力任せで振り回し、わらわらと集まってくるトールの頭を狙って潰していった。剣の意味が~とか言わないでね。


 四十分くらいで二、三百匹いたトールを殲滅できた。さすがにちょっと疲れたな。


「魔石の取り出し、お願いします」


 まだ戻らないでいたロイズさん。仕事を増やして申し訳ありません。


「任せてください。いっきに食糧問題が片付きましたよ」


「トールだけでは飽きるんじゃないですか?」


 オレも肉は好きだが、三食肉はさすがに飽きる。魚も食いたいよ。


「飢えるよりはマシですよ」


 まっ、そりゃそうか。食えてこそだしな。


「ソレガシ様。これからまたトールを狩りにいきますか?」


「いえ、昼休憩します。続きは午後からにします」


 せめて今日中に下町を出たい。初日から町から出れませんは情けなさすぎるだろう。初めてのお使いをやってんじゃないんだからさ。


「それでは兵士隊をお連れください。そのほうが解体も楽ですし」


 それはどうなんだ? とは思うが、確かにそのほうが楽か。解体とか面倒だしな。


「わかりました。午後からお願いします」


 この世界、時計はないが、ないだけに時間感覚は鋭い。大体時間通りに動いていたりするんだよな。


 地面にバッテンを描いてセフティーホームに入った。


「ティア様。お昼ですか?」


 テーブルに料理が並べてあり、コンロでお湯を沸かしていた。


「はい。ソレガシ様が戻る前にと思ったのですが、なにかありましたか?」


「順調すぎて約五百匹のトールを倒しました。そのせいで解体が手間なので兵士たちに任せました」


 今も解体を進めている。今日中に終わるかも怪しいだろうよ。


「午後からは兵士を連れて出てみます」


 朝、門を出てからの説明をした。


「……魔王軍の大隊を半日で壊滅ですか……」


「まあ、雑魚がいくら集まっても雑魚でしかありませんよ」


 あれはもう作業だ。もっと強い魔物が現れてくれないと愛華の命が救えないぞ。


「トール以外の魔物はいないんでしかね?」


 スーツの上を脱いでまたランドリーボックスに入れた。さすがにあれだけいると返り血を浴びてしまったよ。


「王都方面にはモクダンの軍勢がいます。トールの上位種です。三倍は強いと言われています」


「上位種ですか。三倍ならそう強そうな感じではないみたいですね」


 トールが千五百匹いるようなもの。二時間もあれば殲滅できるだろうよ。


「いえ、絶望的に強い魔物ですよ」


 と、ティア様に突っ込まれてしまった。


「オレはそれだけバケモノってことですよ」


 自動車がぶつかっても死なないオレ。下手したらトラックに牽かれても死なないだろう。戦車くらいの頑丈さじゃないと苦戦はしないだろうよ。


「まあ、まずは下町を出て、周辺にいるトールを片付けます。うろちょろされても邪魔ですからね」


 散らばった雑魚を片付けるのは大変だ。集まっているうちに片付けておくとしよう。


 脱衣場で手を洗ってきたら昼食とする。


「城下町はトールの肉で満たされているようですね」


 テーブルに上がった料理のトールの肉。てか、肉塊か。せめてネギとか乗っていたら食欲が誘われるんだがな。あ、ポン酢があったはず。あれをかければさっぱり食えるはずだ。


 押し入れからポン酢を引っ張り出してきて肉塊にかけた。うん。ポン酢、セイコー!


「さっぱりして美味しいですね」


「ええ。もっと買っておくんでしたよ」


 リミット様としゃべることがあるなら支給してもらえないか相談してみよう。調味料が切れたらオレのやる気も切れてしまいそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る