第三十一話 "ビギナーズラック"マッテヤ

『唐館さんと離れたことで幻が解けてるし、地図は内部構造が変わって使い物にならないだろうから強行突破を推奨するわ』

…これが萌さんから届いたメールである、どうやらはぐれたのは私だけではないようだ。そして、目の前には髪型が横結びの女の子が一人。見つけた時点で私はリンさんを手に持った。

「ふふふ…どうやら辿り着いてしまったようね…城田理沙!!」

「仮面無し…十二使徒ですか?」

「そのとおり!アタシはマッテヤ、十二使徒の十三人目よ!!」

「???」

十三人目?そもそも十二使徒にマッテヤなんて居たか?と混乱する。少なくともルナさんが調べてくれた十二使徒の中には居なかった…。

「その様子だと…リサーチ不足のようね。よーく聞くがいいわ、ユダ脱退後に十二使徒の穴埋め要因として登場するのがマッテヤよ!」

「穴埋め要因って言っていいんですか?」

なんか萌さんと同じ匂いがする。性格的な意味で。

「とりあえず敵ならぶん殴っていいですか?」

「え…ちょっと待って。色無しとか意思疎通ができない系の敵なら別にそれでいいと思うけど、アタシ一応人間よ?話し合いによる解決とかそういうのは…?」

「通してくれるんですか?」

「いや通さないけど…」

「じゃあぶん殴ります。私は先を急いでいるので」

「と、とんだ蛮族が来たもんだわ…」

「先輩の器を砕いた時点で貴方達は許せない敵判定です。文句があるなら今すぐ先輩を救出して記憶を取り戻させてください」


「【マジックワイヤー】ッ!!」

私が【マジックワイヤー】を発動しマッテヤの手首に巻き付けようとすると、急に落ちてきた蛍光灯に当たって外れてしまった。軌道が逸れた【マジックワイヤー】を戻ってこさせて後ろから巻き付けようとしたが、今度はマッテヤが何か落としたのを拾おうとしてしゃがみ回避される。その後も何度か放ったが、何故か【マジックワイヤー】はマッテヤを拘束することができなかった。

「何でですか…?特に意識してるわけでもなさそうなのに…?」

「ふふ、困惑しているようね…教えてあげるわ!アタシの【アトリビュート】は【運】そのもの!発動時は負けなしよ!」


「ふんっ!」

リンさんを振りかぶり当てようとするとマッテヤが足を踏み外して偶然避けたり、仮面達が合流してきて乱入してきたり。この能力、鬱陶しいほどこの上ない。そのうえ…

「ほら、蜂の巣になる運命よ !諦めなさい!」

ずだだだだだだだだだだだ、と弾丸が狭い廊下で飛んでくる。先程の仮面達が持っていた銃をそのまま使っているらしい、今のところは廊下の曲がり角を利用して避けてはいるが。

「痛ったッ…」

「直撃!このままガンガンいくわ!」

左腕を弾丸が貫き、ぼたぼたと血が流れる。このままだとジリ貧だ…。

「城田ァ!あの化け物の味方したのが運の尽きよ!」

(化け物?)

「化け物…今化け物って言いました?」

化け物。そう呼ばれるのは先輩しか知らない。

「言ったけど。何か問題あるかしら?煩悩である色無しから生まれたモノなんか化け物にすぎないわよ」


「【チェーンウォール】ッ!!」

「そんな殺傷能力の欠片もない技…え!?ちょ、寄るなあっ!?」

【チェーンウォール】を発動し、マッテヤの方に全速力で接近させる。マッテヤは銃を【チェーンウォール】に向けて乱射しているが、すり抜けるが弾丸を乱反射するかでメリットなど何も無い。マッテヤはこの行動が無駄だと悟ると反対方向に走り出した。私もマッテヤの走っていった方向に向かって走る。私が弾丸の軌道上に入るとマッテヤは走りながら乱射を開始したが、弾丸が当たったところを糸で補修しながら走り続ける。

「行き止まりで私を捕らえようったって、そうはいかないわ!私の能力を忘れたの!?」

「忘れてません、貴方の【運】に勝たなければ貴方を捕らえられない。ですが、逆に貴方の【運】に私の【運】が勝てばいいだけのことです。【マジックワイヤー】!!」

私は【マジックワイヤー】を放った。壁に。

「まだ大丈夫…相手がぜんぜん違うところに技を放つほど私の【運】は強い…」

「いや、これは意図的なものです!マッテヤ、そこの曲がり角の先はなんだかわかりますか!?」

「うそ…行き止まり!?」

マッテヤは思わず立ち止まるが、もう逃げ場は無い。壁と【チェーンウォール】に挟まれて銃を私の方へ向けることもできない。

「私の能力を知ってますか?」

私は動けなくなったマッテヤを【パーフェクトボール】で包みながら問う。

「糸…とか、鎖とか…?」

「【縁結び】ですよ。俗に言う【運命の赤い糸】ってやつを基盤に私の技は構成されてます。【マジックワイヤー】を壁に放って、【この建物の行き止まりに私は遭遇する】という運命を付け加えました。ただの【運】が【運命】に勝てるわけないんですよ」

「何よそれ!?私の知ってる【運命の赤い糸】と随分違うんだけど!?」


「…あーもう、負けよ、負け。もう逆らわないからこの技解いてちょうだい」

「駄目です」

私は左手を開き、そしてグッと握りしめた。

「【死を待つ繭の中】」

マッテヤを包んでいる【パーフェクトボール】が少しずつ小さくなっていく。

「せ、狭くなってる…!?」

マッテヤは焦って中でもがいているようだが、【パーフェクトボール】は私の技の中でも結構な強度を誇る。そう簡単に壊せはしない。中でずだだ、という音が聞こえたが、それと同時に痛みに喘ぐ声も聞こえた。恐らく【パーフェクトボール】の中で銃を撃ったが、弾が乱反射して逆に自分に当たって負傷してしまったというところだろうか。

「たすっ…たすけて…もうあんなこと言わないから…」

「駄目です」

「お願いだからっ!お願い!!ね?お願い?ね!?お願いします!!」

私は左手をさらに強く握りしめた。【パーフェクトボール】は急速に縮小を始め、中からはばき、ぼき、ぐちゃ、ぎぎ、ぎち、などの音が響いている。私はその音を聞きながらその場を後にした。



「オイオイオイオイィ!お前らかぁ〜?侵入者ってのは!…あぁ?ここに居るなら侵入してないってことじゃんか。じゃあ誤報かぁ?」

「馬鹿なのか、君は…いや、馬鹿だったな。あいつらは私達のような後から来る敵を中に入れないようにする役割だろう。挟み撃ちされてはたまったものじゃないからな」

二人の男が向こうからやってきた。怒鳴り散らして此方に威嚇していると思われる方は杖を持っており、冷静に戦略を解説している方は鋸を持っている。普通逆じゃなかろうか。

「…不愉快。あのうるさいの、先生が近くに居ない時の若い頃の光村のクソに似てる。…あ、言っとくけど君のことじゃない」

「兄姉貴…それ、おれの親父のこと?」

「うん」

「あぁ!?うるさぁだって!?誰のこと言ってんだアァ!?」

うるさい。

「紛れもなく君だろ。…さて、私はシモン。このぎゃあぎゃあうるさいのは大ヤコブ、私達の仲でのあだ名はオコブ」

「その情報いらねぇだろ!」

「そこを通してくれないか」

「それはできない相談。僕達は友達のためにここにいる。ここを通すことはできない」

兄姉貴は二人を見据えながら言った。なので、おれも同じようにする。

「俗に言う『ここを通りたければおれたちを倒してからにしろ』ってヤツだ!おれもここを通す気はないぜ!」

「分かった。…では君たちを消してから行くとしよう」

「よぉっし!戦いだァ〜!」


「【人体自然発火現象】!」

「【水化】」

この変身技を発動している間は物理攻撃が殆ど効かないので、これで相手がどうくるか見定める。少なくともシモンの方はめんどくさそうな顔をして、大ヤコブに『任せた』とでも言うように後ろに下がった。大ヤコブの【アトリビュート】は確か【巡礼杖】と【帆立貝】、何方もどんな攻撃が繰り出されるか分からない代物だが…。

「いくぜぇ〜!【天からの贈り物】!」

空に暗雲が立ち込め、やがてゴロゴロと鳴り始める。これは…もしや!?

「光村、僕の下に隠れて!変身を解くのはその後でいい!」

「わかった!」

すぐさま兄姉貴の下に避難する。その直後に、ドザァーーーッと雨が振り始めた。土砂降りだ。

「そしてェ!【雷光の怒号】!!」

ピシャッ!!と一瞬の光と共に兄姉貴が雷に貫かれた。

「グああああああァァァァァァァ!!??」

「兄姉貴ッ!!!!」

兄姉貴はあまりの痛さに変身が解けかかるが、今ここで変身を解いても雷のダメージは通るから意味を成さないのとおれを雨から守るので変身を解かずなんとか持ち直す。

「光村…どうする。恐らく光村の【人体自然発火現象】は雷が効かない、でもこの雨で僕の下から出ると光村は一瞬で消えてしまうと思う。そして生身に戻ると雷は効くが雨は意味を成さなくなる…」

「そんなの…」

おれは【人体自然発火現象】の変身を解き、炎になっている髪の毛と火炎放射器のようになっている足を人間のように戻した。

「こうするに決まってるだろ!来てくれ兄姉貴!」

そのままおれは大ヤコブに向かって走り、

「【怒号】!」

雷をその身に受けた。だが、ここで立ち止まっては意味がない。炎の能力のせいか焼け焦げてもあまりダメージを受けない身体を頑丈になったなぁと感じながら痛みを抑えて走り抜き、ついに大ヤコブのところへ辿り着いた、と思ったその時。

「ふんっ!!」

肩にいくつもの小さい刃が刺さった。鋸だ。シモンは一気におれに接近し肩に鋸を乗せ、思いっきり引いた。

「いぎいいいいいうぅぅぅあああアアア!!」

肉を貫通して肩の骨が削れていく音が鳴る中、痛みを我慢してシモンの方へ身体を向けその腹と左腕をがっちりと掴む。

「【燎原之火】だぁァァ!!」

手から高熱の炎を放った。仮面達を一瞬で焼き払える威力を持ったこの技でもシモンは倒せなかったが、掴んだ所が互いに溶解し雨に冷やされて一体化する。

「クソッ、もうそっちに撃てなくなったじゃねえか!!【怒号】【怒号】【怒号】ッ!!!」

大ヤコブは【雷光の怒号】を連発するが、

「【超高圧洗浄砲】!」

兄姉貴は先程から自分の身体に貯めていた雨水を砲丸のように雷へ放つ。雷は兄姉貴に届くことなく消滅した。そして、

「…つかまえた」

「ァげぼッ!?」

兄姉貴は大ヤコブの身体を【水化】した身体で完全に包んだ。あとは失神するのを待つだけ…だと思っていた。正直言って、油断していたのだ、おれは。大ヤコブが巡礼杖を自分の腹に思い切り突き刺したその瞬間、大ヤコブの身体から眩い光が溢れ出し閃光が辺り一帯を包んだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!?!!!!!!!」

兄姉貴は叫び声をあげて気絶し、【水化】が解ける。

「【雷霆】!!!」

そこには、雷と化した大ヤコブが立っていた。


「作戦は良かったが盲点だったなァ!お前らと同じように変身できるんだよオレはァ!」

確かに盲点だった。おれたちにできて大ヤコブができない道理は無い…。

「シモン!そいつはお前に任せる!オレはコイツの器を砕く!!」

「オコブ、君にしては賢い選択じゃないか。君には敵を必要以上に甚振る性格があるからな」

「アぁ〜!?そりゃお前のことだろシモン!」

「くっそ…!」

このままでは、兄姉貴が消滅させられてしまう…!

「うおおおおおおおおおおッ!!!」

おれはシモンの身体をくっつけたまま大ヤコブの方へ向かおうとするが、シモンは動かない。何なんだ、こいつもペテロのような強さの体幹なのか!?

「しょうがねぇッ!」

おれは手を一瞬だけ火にし、シモンと手の溶解した部分から離れる。雨のせいで少しだけ身体の体積が減ったがこのぐらいなら問題無い、先程までの作戦が全てパァになったのはかなりの痛手だがまずは兄姉貴の救出を優先だ!

「させないぞっ!」

シモンは自由になった腕で鋸をぶん回しおれに当てるが、鋸は当てるだけでは大したダメージにはならない。シモンを無視し大ヤコブ方へ全速力へ移動するが、

「【疾風迅雷】!!」

大ヤコブは激しい風を巻き起こしながらこちらに向かって突進してきた。触れた途端身体に先程の雷の比ではない電流が流れる。

「うああああうがああがっぐぎいいいうううああああ!!!!」

そうしてそのケタ外れた電流に耐えられず、おれも意識を失った。…筈だった。


「な、んだ…?」

胸の奥底から熱いものが湧き上がってくる。頭の炎は再度、いやいつもよりも強く燃え上がるが、おかしい。火が消えていない。はんてんは真衣さんのちゃんちゃんこのように長くなったが、いつもは普通に着ているのに今は羽織っており炎の熱でマントのようにたなびいている。分かった。これが【覚醒】だ。


【彗星落下】

一回上空に上がってから、剣を下に構えて彗星のように真っ逆さまに落ちて深く刺す技。使用した際に尋常では無い速さで落下するため、上手く受け身を取るか勢いを殺さないと使用者にまでダメージが入る。

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