第17話 ヒ・ミ・ツ
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
ビ◯リーーーーチ!!
何故か、この呪文のような言葉を耳にすると意味もなく腹立たしくなる謎の現象に悩まされる中、その割には突然に脳内を駆け巡る“ビズ◯ーーーーチ!”。
今日も波のように定期的に押し寄せる悪魔の呪文“ビズ◯ーーーーチ!”。
そしてCM出稿量がやたらと多いせいで、
接触率がやたらと高い“ビズ◯ーーーーチ!”。
最早、◯ズリーチに脳内を支配されていると言っても過言ではない状況の中、本篇に関連するとても重要な問題が持ち上がる。
その問題とは、前回の口髭マスターGAGAの口から発せられた
それは「あんなこと書かなきゃあ良かった」「この後の展開はどうすんだよーーー!」と心の中で悔やむのと同時に「だからちゃんとプロットを作ってから執筆すれば良かったんだよ! この馬鹿が!!」などともう一人の自分から罵られてしまうほどの大問題であった。
そんな作者都合の話を他所に、BARアイアンヘッドに飛び込んだ常松は、この店のマスターだと自称する口髭マスターGAGAからの強力な波状攻撃を受けるものの、鉄壁のディフェンスでかろうじて回避する。
GAGAと常松の攻防は一進一退を繰り返していた。
髭マスことGAGAの髭タコチュー攻撃を真っ白く燃え尽きる前のジョーも真っ青になるような「スウェーバック」で間一髪かわすことに成功する。
しかしホッとするのも束の間、GAGAからの精神を抉るような、“
そこで常松はダメージを軽減するために、ダメ押しのラム酒ロックを注文。更にこの裏世界からの脱出を図るために必要なエレベーター情報を掴もうと髭マスGAGAに迫る。
しかし、髭マスからの情報は思いも寄らないビズリー○も真っ青な“エレベーターなんつー代物はこのビルには無い”発言であった。
そんなあり得ない発言に驚愕する常松と作者。
果たして、髭マスの言う通り、このビルにはエレベーターなんつー代物は無いのであろうか?
新たにわかったこの奇妙な謎は常松にどのように関わってくるのであろうか?
そして、イケメンしか好まないはずの髭マスGAGAの真意は一体何なのか?
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
常松が間違いなく乗ってきたはずのエレベーターがここには無いと言い張る髭マスことGAGA。
更には、この場所は地上階(一階)だと言い切る。
(エレベーターが無いなんてことが本当なら、俺はいったいどこへ行こうとしていたというのだ。否、そんな馬鹿な話がある訳がない。髭マスは何だってそんな嘘をつくのだろうか?)
常松は、そう思いながらGAGAの顔色や仕草などをよくよく観察するが、GAGAの素振りに嘘をついているような気配はまるでなく、自分が間違うことなど一切ないと言わんばかりの雰囲気を醸し出している。
しかし、ここまでエレベーターに乗って来た常松にすれば、エレベーターが無いとか、ここは地上階だからとか、そんな話は当然何かの間違いか、それとも嘘か、どちらにしてもある訳がないのである。
エレベーターに乗ってビルの四階・五階を目指していたはずの常松は、エレベーターが昇っていると思い込んでいたものの実は全く動いておらず一階でそのまま降りたということなのか?
(否、この飲み屋ビルの一階には路面に大衆居酒屋が一軒あるだけだ! やっぱり、この髭マスは何か嘘をついてるのかもしれないぞ)
GAGAはタバコを蒸しながら神妙な表情で考え事をしている常松を見つめている。
常松はそんなGAGAに問いかける。
「マスター、ここは本当に一階なんですか? だとすればこの店の前の廊下も地上ってことで間違いないんですよね?」
「だ〜か〜ら〜、本当なのよ!! ここは一階なんですううーー!!」
GAGAはタバコの煙を斜め上方向に吐き出して答える。
(おいおい、ここが本当に一階だったとしたら、俺はいったい何に乗ってどこへ行こうとしていたっつーんだよ……ん!? ちょっと待てよ……)
と、その時、ある考えが脳裏を過ぎった。
(そうか、ここは俺がいた方の世界ではなかったんだよな。裏世界なのだから、俺が乗ってきたはずのエレベーターが裏世界へ繋がる扉みたいなもので、だけど、こっちの世界の扉、つまりはあっち側からの出口が同じエレベーターとは限らないってことなんじゃあないのか。だとすると、俺がエレベーターを降りた後に、こっち側の世界から見たら、それがエレベーターだとは認識出来ないってことかもしれないぞ。エレベーターではないにしても俺のいた世界への扉というか入り口は、ここの廊下の壁のどこかってことになるよな)
「ちょっとお〜、おかしなことを言ったかと思えば、急に考え事なんかしちゃったりしてえ、あたしのことはシカトってわけえ〜」
突然、髭マスの声が頭の中に飛び込んでくる。
(チッ! せっかく脱出ルートの謎が解明しつつあるってのに、この髭親父はうるさいから酒でも飲ませてやるしかないか)
「はあ?? いやあ、そんなつもりはないんですけどね。あっ、そうだマスターも一杯どうですか? せっかくお会いしたんですから軽く乾杯でもしましょうよ!」
「あらあ〜、常ちゃんってば、なかなか男前なことを言っちゃってくれるじゃあないのよ! あたしってば、グッときちゃったわよ〜う!」
(いや、グッとこなくていいって……)
GAGAは妙な笑みを浮かべながらショットグラスを棚から取り出すと、手際よく氷をグラスに放り込んで、ラムを注いでいく。その過程で、何故なのかはわからないが常松にウインクを飛ばす……が、このウインクには何の意味も無さそうである。
勿論、常松は苦笑いで誤魔化している。
(ったく、「何を考えているの?」なんて聞かれると厄介だから思わず、乾杯しようなんて言っちゃったけど……)
「はあーーい、あたしも常ちゃんとお揃いのラム酒ロック、いかせてもらいますう〜、ほらあ、常ちゃんもー、イク時は一緒でしょ〜! 乾杯しましょう」
「あっ、はい、では乾杯しましょう」常松もグラスを額の辺りまで掲げる。
「それじゃあ、イック〜うわよおお〜う! カンパーーーーイ!!」
二人は軽くグラスを合わせると、ラムを口に運んだ。
「フウ〜! ラムって良い香りよね〜。 常ちゃんもこの香りが堪らなく良いって思わない〜?」
「ええ、俺もラムの香りは好きですよ。なんていうか、甘い香りの中にほんの少し焦がしたような苦味を感じるんだけど、それがなんとも云えず良いんですよね」
「あらあ〜、さすが常ちゃんねえ! よくわかってるじゃあないのよ、あっま〜〜い中にもちょっとの苦味なんてねえ、まるで、あたしのことみたいだわよね!! で、常ちゃんってばあ、やっぱり、甘くてちょっぴり苦味があるあたしみたいなのが好みってことなのかしら〜」
「えっ、えーーー!! それはなっ……あっ、しまっ………」
あまりに意表を突いたGAGAの
(不味い、ヤバいぞ! 髭マスの機嫌を損ねるわけにはいかないっつーのに、あまりの奇襲に思わず声を上げてしまった)
「どうしたの? 図星過ぎて、照れちゃったのかしら〜」
(あっぶねえーー、セーーーフ!! 良かったあ、怒ってはいないみたいだな)
「ラム酒って、ホント良い香りですよね! 俺はあくまでもラム酒の味が好きなんですよ!!」
(これでどうだあ!否定はしていないが真実はハッキリと言ってやったぞ!)
そう自分に言い聞かせると、若干のドヤ顔でGAGAの表情を確認する。
GAGAは鬼のような形相で常松を凝視しているように見える。
(―――――――!! うわっ! なんか睨んでるぞ、こわっ! 否、待て待て、そういえば髭マスは元々こういう顔なんじゃね? )
「常ちゃん、別のラム酒も試しに飲んでみない?」
「はっ……い? ああ、是非! 是非にも飲んでみたいです」
「じゃあ、今度はあたしが一杯、奢るわね」
「それではお言葉に甘えて、いただきます!」
GAGAは、常松の返答に親指を立てるとボトルが並んだカウンターを見回してお酒を探し出す。
(怒涛の攻撃だったなあ〜、そんなことよりも、この世界からの脱出ルートが見えてきたかもだな。さっきまでは、エレベーターが消えたと思い込んでいたけど、消えたんじゃあなくて、こちら側の扉はエレベーターじゃあなかったんだな。であれば、こちら側の扉は、ただの壁ってことになる。でも、その壁は本当に扉になっているのか? だとしても開けるための鍵みたいなものやスイッチ、仕掛けなんかがどこかに隠されていそうだけどな)
「は〜い、常ちゃん、お・ま・た〜〜」
GAGAは再び常松のシンキングタイムにいい感じで割り込むと、新しいショットグラスを差し出す。
グラスを受け取った常松は、それを鼻に近づけて香りを確認する。
「うわあ〜、まあるいような、まろやかな感じの香りですねえ。ホント、良い香りだ」
そう言って、そのままグラスを口に運んで味を確かめる。GAGAも嬉しそうな笑みを浮かべている。
「これは芳醇だなあ。少しだけ樽の香りも感じられて、味に深みがあるみたいだ」
常松はGAGAに親指を立てて、感謝と喜びを表現してみせた。
「良かったわ! このラムは樽の中で3年間熟成させたものなの」
「なるほど〜」
「でも、残念ねえ。いくら常ちゃんがあたしのことを好いてくれてもお〜、さっきも言ったけど、あたしはイケメンじゃないとダメなのよね〜」
(おいおい、この髭マスは何故そっちへ持っていく?? どうしてもダメ出ししたいってことかい!!)
GAGAは更に続けてマウントをとる。
「ごめんなさいねえ〜、でも、ほら、こういうことはちゃんと相手に伝えておいた方がいいわけだし〜」
「アッ、ハハハ………そうですよねえー、
常松はささやかなカウンターを繰り出すが、GAGAは一切動じていなかった。
「ところで、常ちゃんはどうしてエレベーターなんか探しているのかしら? さっき、そんなことを言っていたわよね?」
「えっ!? あっ、それはですね。え〜っとですね、なんだか酔っ払ってしまって、いつも行く店のビルと勘違いしちゃったのかな〜なんて、いやあ、お恥ずかしい限りですよ」
思わず、かなり下手くそな嘘をつくが、GAGAはグラスの中の氷を指でカラカラと回転させながら言う。
「常ちゃんって、嘘が下手ね」
(こりゃあ、観念するしかないかな……どうしよう……本当のことを話してみるか? それだと万が一、次元パトロールに通報されたら一貫の終わりだからなあ。そういえば俺って子供の頃から嘘が下手くそなんだよなあ)
小難しい表情になってどう答えるべきか迷いに迷う常松。それを無言で見つめていたGAGAは氷を回していた指を口に運んでひと舐めする。
「本当は、セクスィーー過ぎるこのあたしに何か聞きたいことでもあるんじゃあないのかしらあ」
「………えっ?!? あっ、まあ、そうなんですけど」
「常ちゃんてば、歯切れが悪いわねえ、男でしょう!? 付いてるものも股間にしっかり付いているんでしょーーう! 男は肝っタマタマが大事なのよ〜う! そうでしょう?」
「はい......そ、そ、そ、その、通りですよね」常松の声は上ずり、前門の狼は相変わらず縮み上がってしまう。
「じゃあ、言っちゃいなさいよ! ドーンと男らしく言いなさい!! セクスィーなあたしが、しっかり聞いてあ・げ・る・か・ら」
(この髭マスは、違う意味で怖いんだけど、悪い人ではなさそうなんだよな。もう、こうなりゃあ、この髭マスに
話しちゃおう! 覚悟を決めろ、常松京太郎!)
常松は自分を奮い立たせると、ついに覚悟を決めた。
「実は、ですね。ここに入る前に隣のお店のユリコママにも相談したんですが、どうやら俺はこの世界の人間ではないというか、この世界の裏側の世界から間違って入り込んでしまったというか、迷い込んだとでもいうのか、とにかく、元いた世界に戻る方法を探しているんですよ!」
そう告げ終わるとしばらくの間、静寂が訪れる。
GAGAはラム酒を一気に飲み干すと静寂を破る。
「よく言ってくれたわ。それでこそ、あたしが認めた常ちゃんよ!」
正直なところ、この短い時間で何を認めてもらえたのか全く検討はつかなかったが、常松は安堵する。
「俺の話を信じてくれるんですか?」
「当たり前じゃあないのよーう! あたしは、あなたを認めたって言ったでしょう! だから、その話を信用するわ」
「良かったあーー。何だかホッとして少しだけ気が抜けちゃいましたよ」常松の表情に笑みが戻る。
「常ちゃんが、男らしく、タマタマを据えてくれたんだから、今度はあたしが、あたしのセクスィーーさを披露する番よね!」
(………セクシーさって、なんだろうなあ)
「いいわよ! 常ちゃんのその不屈のファイト溢れる魂と、このあたしへの愛に敬意を表して、教えてあげるわ!」
(おいおい、愛してはいないんだってば)
「それって、向こうの世界へ戻る方法ってことですか!?」
「常ちゃんは、あそこ、じゃあなくて、あっちの世界から来たってことなのよね? あたし、ユリコママから聞いたことがあるのよ。 常ちゃんみたいに、あっちの世界から来た人がいるって話をね」
「えっ、俺の他にも向こうから迷い込んだ奴がいたってことでしょうか……」
「そうよ、しかも、二人もよ〜。そのうち一人は元の世界に帰って行ったそうなのよ」
「―――――!!! その話、本当ですか!? だけど、一人だけってことは……」
「ユリコママから聞いたんだから、本当の話だと思うわよ。 常ちゃんだって、ユリコママの話だったら信用できるはずよね? だけどね、残念なことに一人は次元パトロールに捕まってしまったそうなの」
(―――――!? マジかあ、本当なら生還率が50%だぞ!!)
「ユリコママからは、表と裏の世界の話を教えてもらったし、彼女は嘘をつくような女性ではないと思います。だけど、元いた世界に戻れた人間が二人の内、一人だけだったとは……」
「それはきっと運が悪かったのか、それとも、アレについての情報を得ることが出来なかったからかしらね」
「アレ……? ARE?? その“アレ”ってのは一体??」
「あたしねえ、ユリコママから聞いたのよ、“アレ”のことを……。つまり、ヒ・ミ・ツ・の扉について!」
「―――! ヒミツの...? それって扉の話なんですね!!」
「そうなのよ、まさにそれは秘密なのよ。あまりに秘密過ぎて、週刊誌の中綴じページくらいのマル秘っぷりなのよ〜う!!」
(マル秘っぷりって、なんだよ!)
「でも、勘違いしないでね〜、常ちゃんが考えているようなエッチな扉ではないんだから〜」
(エッチな扉って……もう勘弁して欲しいなあ、俺って、どんだけドスケベな奴になってるんだろうか......)
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