第7話 亜空間の宴【後編】
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
消えたエレベーターの謎よりも大人の女性の色香に惑わされてしまい、ユリコママとの乾杯をチョイスしてしまった常松に“悲しい男の性”が滲み出る。
しかし、当の本人にその自覚はない、まったくと言って良いほどにない。
間髪いれずにユリコママの亜空間呪術『ボトルイレチャッテー!』が炸裂し、常松は敢え無く撃沈する。
毎度おなじみのちり紙交換のような、というより最早死語となった“ちり紙”の存在がどうなっているのか気になるところではあるが、そんな状況をどのように打破するのであろうか!
そして、
常松が選んだボトルとは!?
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
カウンターには、ウイスキー、ブランデー、ジン、焼酎などが並んでいる。
ユリコママはそれら様々なお酒を指さしながらウインクを決める。
「ボトルは何にしますぅ? ウイスキーかしら♡」
ママのウインクに一瞬ドキッ♡とする。
(おおーーーっと、なんだなんだ、そのウインクは!? まさか、美味しいお酒もあるけど私が一番おいしいのよ的なアピールなのかー!?)
と、バカ松でなく常松は思うが、そんなことはない。
さすがにそれはないかと思う常松は気を取り直して考える。
「ウイスキーって気分じゃあないんだよなー」
(こうなったら芋焼酎のロックでも飲もう! でもって、つまんな〜い話をして、エレベーターのことなんか忘れてしまうしかないな!)
消えたエレベーターの件は有耶無耶にされてしまい、さらに常松はお酒の誘惑に負け、そんなことはどうでもいい状態になっていた。
だが、逆にこんな時だからこそママのテンションにあわせる必要があるのかもしれない。そう直感が告げているようにも思える。ママと美味い酒が飲みたいだけなのかもしれないが……。
この不可解な状況下でも、得意のいい加減さが役に立っているのかもしれない。
「芋焼酎がいいんだけど、あるかな?」
「あら〜、焼酎派なのね。しかも芋なんてシブいわね〜♡ うちは、黒喜界島ならあるわよ」
「ラッキー! それ好きなんだ! じゃあ黒喜界島をお願いします」
「いま、この黒喜界島って人気あるわよね。最近は、赤とか、白喜界島なんてのもありますよね」
「俺も普段は黒が好きでよく飲むんだけど、最近は白も好きな方だったりするんだけど、でもやっぱり赤も大好きで捨てがたいんですよねー」
焼酎のロックを作るママが、クスッと意地悪っぽく微笑んだ。
「いやだわ〜♡ 黒とか、白とか〜、赤とか〜♡」
「んっ、何が…ですか?」
「だってぇ〜、なんだか下着の色の話でもしてるみたいでしょ〜♡」
(ええーーっ、まったくそんなことは微塵も思わなかったぞ!)
「常松さんって♡エッチね〜。黒もお好きで〜♡ 白も好んでるなんて〜、でもって、赤が大好きなんでしょ〜♡」
「いやいや、焼酎の話ですよーー、芋焼酎の!! そんな話じゃあなかったですよねー! なんで急にそっちの方向へ流れちゃうんですかーー!?」
突然、話題がシモネタにすり替えられ、しかもそのシモネタの罪を擦り付けられて思わず取り乱してしまう。
「じょーーだんですよ〜♡ そんなに興奮なさらないで〜♡」
「いや〜、突然のフリで思わず驚いちゃって取り乱しちゃいましたよ。お恥ずかしい」
「で〜♡ 私の下着の色を想像しちゃったから〜思わず興奮しちゃったってわけ〜♡」
「………二段落ちってやつですね。そうですよ。ママのパンツの色が気になってしまいましたよ」
常松はあきらめて開き直り、ママのシモネタに乗ることにした。
「私のお♡パンツの色はあとで教えるとして〜ぇ♡ 飲みましょうよ」
(まだ言うのか)
ママは常松のシラケ顔にはまったく動じていない。
「は〜い♡ 芋のロックです」
「ママも焼酎で良ければ飲みますか?」
「もちろん! 一杯、いただきますわ」
「じゃあ、せっかくだから2人で楽しく飲んじゃいましょう!」
「そうこなくっちゃー♡ せっかく常松さんと出会えたんだから、私も思いっきり飲んじゃうわ〜♡」
「嬉しいことを言ってくれるなー!!」
グッっとくるママの台詞に喜び浮かれる常松のテンションが一気に銀河の彼方まで上昇する。
その勢いでさらに調子に乗って、よせばいいのにバブリーな時代によく使われていたというか、よく使っていた恥ずかしい台詞を口にしてしまう。
「ユリコママの瞳に乾杯!!」
「あら、うれしーーぃ♡ かんぱ〜い♡」
(なんだかツイてんなー俺、ナイスな店を開拓しちゃったなーー)
ケニーGのロマンティックなインスト曲がバックに流れるかのような甘い雰囲気に、常松の鼻の下は伸び伸びに伸びまくっていた。
もちろん、ケニーGの曲が流れているのは常松の脳内だけで、傍から見ればカッコつけまくって、かなり恥ずかしい奴になってしまっているということを本人は自覚できていなかった。
そして......消えたエレベーターのことなど、最早どーでもイイ状態になっていた。
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