時計部屋

1gami

時計部屋

「うっ…」呻き声を出しながら私は目が覚めた。目を開けると当時に私は周囲の状況に困惑する。本来ならば、一般的な社会人男性が住んでそうな素朴な洋風のマンションの一室で目覚めるはずが、鼠色のコンクリートの正方形の扉もない部屋の中にいた。私の脳はどんどん目覚めていくと同時に恐怖と不安が高まり始める。「誰か!誰か!」壁を叩きながら尋ねるも反応はなかった。私は得体の知れない部屋の中で一人ということを段々と自覚し怖くなっていた。薄っすらと理解していく。恐らく私は誘拐されたのだろう。だが理由はわからない。自分で言うのもあれだが、収入も低く家族も友人も恋人もいない。私が誘拐される理由が分からない。目的が分からないというのはこんなに恐ろしいものだと知らなかった。ドンっと強く何かを吹っ切らせるように手を床に叩きつける。速くここから出ないと。出ないと…。出ないと何があるんだ?…恐怖が余計な事を考えさせる。思考を切り替え藁にもすがる思いで辺りを見回すと時計があった。それを発見すると同時に音が聞こえ始める。カチッカチッとあまりにも機械的な秒針が振れ、音が鳴っている。この時計には短針がなくあるのは長針だけだった。見た目は白く真ん中に小さな黒い穴。数次の書いてないアンティーク調の時計だった。その他には何もなく私は床へ座り込んだ。私はここで殺されるのを待つのか?私はここで死ぬのか?頭の中は死への恐怖と私をこんな目に追い込んだ奴への怒りが混じり合っていた。カチッカチッ。時計が一秒の経過を教える。座り込んだ床のコンクリートは冷たく妙な不快感があり気分も収まらず。空気も埃っぽく気分が悪くなっていった。

 目覚めてから何時間か経過した頃に何回も犯人の目的を思考していると、冷静になり段々と恐怖は和らいでいった・その代わり、空腹と虚無感が募り狭い部屋に独りというの孤独が辛くなっていった。そして一番私を追い詰めるのは、唯一置いてある時計が時間の経過を刻んでくる事だった。時間をつぶそうと眠ろうとしたが、床が冷たいのと時計が気になって眠れなかった。私の精神が少しづつ削られていくのを感じながら私は膝を抱え込みただ一秒一秒時間が過ぎるのを待っていた。「どうして」自分に言ったのかどこかにいる犯人に言ったのか分からない言葉を私は一人つぶやき続けた。自分への尋問を繰り返す。

 答えが見つかる訳もなくただ一秒を刻むだけの時計が部屋を支配している。カチッカチッ。そんな機械音が段々と不快になってくる。「うるさい!」とヒステリックになっている女のように少し声を上擦らせながら怒鳴りつけ私は耳をふさぐ。が、音は無慈悲にも耳のスキマを通ってくる。カチッカチッ。私は声にもならない声で叫び、床を叩きつけ立ち上がる。正面の壁に向かって走りつけ、時計を外そうとするも図書館の最上段の本が届かないように届きそうで届かない。上に跳んでみるも届かない。「くそっ!」そう言い、跳ぶのをやめ時計を睨みつけると、時計が少し可笑しいことに気づく。真ん中の黒い穴が天井の光を少し吸って反射している。そこには小型のカメラが取り付けてあった。「はは」俺は乾いた笑いと共に誘拐された理由が思いつき床へ倒れ込んだ。愉快犯ってことか…。人が時計で狂うところを見たいだけのイカれた野郎の仕業なのだろう。今も監視して私の姿を楽しんでる奴がいる。その事実が私を絶望に追い込む。カチッカチッ。落ち込んでいても鳴り響く。カチッカチッ。どうせ餓死で死ぬのだろう、きっと助けは来ない。扉もないから誘拐犯も、ここに来ることはないのだろう。カチッカチッ。うるさい。カチッカチッ。うるさい、聞きたくない。それでも。カチッカチッ。この音を聞かない方法があればなんだってするのに。カチッカチッ。「ははっ」笑いながら壁を正面にとらえる。私は実験されるだけの動物じゃない。カチッカチッ。カチッカチッ。カチッドンッカチッドンッ。冷たい秒針の音と低く鈍い音が交互になる。そして低く鈍い音はグシャッグシャッと潰れる音になっていく。カチッグシャッという音は段々と重なっていき、音のでかいグシャッという音がより響く。グシャッグシャッ。グシャッグシャッ。私は冷たくなっていく体を感じながら、時計に反抗するように頭を振っておでこを最後まで壁に打ち続た。

 

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