第49話 私の指定席
恒と明良はケニーに鞍の付け方を教わるが、恒と比べ明良は言ってはみたものの目の前の
ミリーも例外ではなく「アキラ、ダサ……」と呟く。
「明良……」
「言うな、恒! 俺も自分でも分かっている。でも、こういうことからやっていかないと……本当にミリーに見放されそうで」
「ああ……」
そんなこんなでなんとか鞍に馬銜に手綱と一揃い着けたところで恒が違和感を感じる。
「あの、ケニーさん。これで全部なんですか?」
「はい。鞍と馬銜と手綱で、一揃いですよ。どうかしましたか?」
「そうだぞ。恒。何が問題なんだ?」
「いや、問題があるっていうか、ないのが問題なんだけど」
「何を言っているんだ?」
「あのさ……」
ケニーは恒が何を言いたいのか分からず、明良も恒が「ない」と言っているが「何が無い」のかが分からない。
なので恒はケニーに改めて問う。
「あの、
「「鐙?」」
恒の問い掛けにケニーだけで無く明良も『鐙』が何を指すのか分からずに口にする。
「恒、なんだよソレ?」
「え? 明良は知らないの?」
「な、なんだよ。知らないのが悪いのかよ」
「恒、明良が知っているハズないじゃない。動いているのを見るのは好きでも、その中に出て来る単語とか覚える訳ないじゃない」
「そうよね。鐙なんて時代劇とか西部劇くらいじゃないの」
「ん? 由香も久美も何を言っているんだ? もしかして、お前達は恒が言っていることが分かるのか?」
「当然でしょ。私は恒と同じで図書室の住人だもの」
「私は時代劇が好きだから……」
「え? 俺だけ知らないの?」
「明良が知らないのは横に置いといて」
「置くのかよ!」
恒はケニーに対し、鐙がどういう物かを地面に描いて説明すると、ケニーがそれに興味を示し、ちょっと待って下さいと言って、奥から持って来たのは革ベルトと半円の金具だった。
ケニーは革ベルトを
そして、右足を反対の鐙に乗せてから感触を確かめる様に鞍の上で軽く腰を上下に浮かしてみる。
「うん、いい感じです」
「そうですか。では、もう一つの方も試してみて下さい」
「え、俺?」
「うん、明良。つま先を鐙に乗せてから、一気に自分の体を引き寄せる感じでやってみなよ」
「……分かった。じゃ。うわっ!」
明良は恒に指示された要領で鐙に左足を乗せてから一気に
「あ、出来た……」
「素晴らしい! お客さん、これ……」
「いいですよ」
「え? 私、まだ何も言ってませんが」
「作りたいんでしょ。どうぞ」
「ですが……」
「おじさん、恒がいいって言ってんだからいいの!」
「そうよ、おじさんもさっき恒に同じことをしたでしょ」
「うむ、さすが旦那様じゃ」
「ミリー、わかんない……」
ケニーは恒達の態度を嬉しく思いながらもこれ以上のやり取りは意味がないと思い、有り難く引き取ると黙って恒に頭を下げる。
恒と明良が
「ちょっと、恒。私達はどうするの?」
「そうよ。なんで私達は歩いているの?」
「恒……すまんが手を」
「ん? いいよ」
由香と久美が恒に文句を言っている最中に小夜は恒の側に行き、恒に手を貸せと言うと恒は素直に小夜に向かって手を伸ばせば、小夜はその手を取り、恒の前に乗る。
「「あ~! ズルい!」」
「アキラ……」
「ああ、ほら!」
「ありがと」
ミリーも小夜のやったことを見習い、明良に対し右手を伸ばせば明良もミリーのその手を握ると黙って
「あ~ミリーまで!」
「もう、由香のせいで乗り遅れたじゃない!」
「なんで私のせいなのよ!」
「だって、そうじゃないの!」
「何よ!」
「なんなのよ!」
由香と久美が言い合っているとミリーは明良の袖をチョンチョンと引くと「ながくなりそうだからいこう」と言われ、明良はうんと頷くが
すると、同じ様に恒と小夜を乗せた
『五月蠅くて適わない』
「なんかゴメンね」
『だが、賑やかなのは悪くないぞ』
「そう? じゃ、よかった」
「「よくない!」」
「え?」
「ほほほ、醜い争いしているからじゃ」
「「上から~」」
「ほほほ、悔しかったら来るがいい」」
「「また、上から~」」
「小夜、あんまり揶揄わないの」
「む、すまない」
恒と
そして、そんな二人に恒の前に陣取っている小夜が二人を煽るものだから、さすがに恒も気の毒に思い小夜を窘めるが、小夜はそんな二人に向かって勝ち誇ったように口角の端を少しだけ上げる。
「「キ~ッ! ムカつく!」」
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