第46話 馬車を買ったけど

 リリーに馬車を扱っている店を紹介してもらう間にギルマスにはオークションに参加する為に王都の冒険者ギルドに対し紹介状を用意してもらうことになった。


「じゃ、行こうか」

「お願いします」


 リリーに先導され恒達がやって来たのは色んな馬車を扱っているお店だった。


「こんにちは~お客さんを連れて来たよ~ホス~」

「あ~聞こえているよ。リリー」


 そう言いながら店の奥から出て来たのはホスと呼ばれた高齢の男性だった。その腰は曲がっており恒達よりも頭が低い位置にある。


 白髪の頭を掻きながらリリーに対し返事をすると「客ってのはあんたかい?」と恒に尋ねてきたので恒は「はい」と返事をする。


「ふ~ん、で?」

「で?」

「だからよ、ここには何をしに来たんだ? 馬車が欲しいんだろ? なら、どんな馬車が欲しいのかって聞いてんだよ! そんくらい、分かるだろ!」

「あ、はぁ」

「で、どんなのを探しているんだ?」

「そうですね……」


 恒はホスに対し欲しいと考えている馬車の概要を話す。


「ふ~ん、大人六人が乗れて、夜には馬車で寝られるのが欲しいと……ふむ」

「出来れば、今日乗って街を出たいんですけど……」

「はぁ? お前な、普通馬車と言えば四人乗りが一般的だ。それを六人乗りだなんて」

「え? 何かマズいことでも?」

「あるわ! 大ありだ!」

「え~」

「だから、さっき言っただろ。四人乗りが一般的だから、六人乗りとなれば注文になる」


 ホスに六人乗りを今日中に用意するのは無理だと言われガックリと肩を落とす恒に対しホスはリリーに何も教えてないのかと少々怒り気味に言うが、リリーは笑って誤魔化すだけで、「じゃ私はこれで。ユカ、また後でね」とその場を後にするのだった。


「え~今日乗って帰れないの~」

「そうみたいね」

「もう挨拶済ましてきたから戻るのもちょっと……アレだな」


 由香達は馬車が用意出来ないのなら、今日中に街から出ることは出来ないと思いそれぞれが好き勝手なことを言っているとホスは恒に対し、今ある馬車でいいのならと前置きしてから顎でクイッと恒達を店の奥へと案内する。


「ほれ、これが今ある馬車だ。箱馬車に荷馬車、それに幌付きの荷馬車だな。箱馬車は大人四人乗りしかないぞ」

「ありがとうございます。見せてもらいますね」

「ああ、好きに見てくれ。終わったら声を掛けてくれ」

「はい。分かりました」


 ホスは恒達を案内すると後は好きに見てくれと言うと踵を返し離れていく。


「はぁこれが馬車か~」

「ねえ、思っていたよりキレイな感じだよね」

「そうね。箱馬車はこれ一台だけみたいだけど、これじゃ皆乗れないよね」

「そうか? 詰めれば乗れるだろ?」


 恒が箱馬車の内装とか確認していると、その後ろで由香達がまた好き勝手なことを言い出す。しかし、六人乗りが欲しいところだが四人乗りしかないのなら注文するしかないのだろうかと恒が考えているとミモネが恒にそっと声を掛ける。


『狭いのなら広げればいいじゃない』

『広げる?』

『そう、空間拡張して馬車の中を広げるなり、転移扉でどこかに繋げればいいのよ』

「あ~そういうことか。じゃあ、これでいいな」

「え? 決めたの?」

「ああ、これにする」

「だって、四人乗りじゃ……」

「ミリーは明良の膝の上で、小夜は人化しなきゃいいだけだろ。それで御者はドリーに任せれば箱馬車の中は俺達三人とミリーだ」

「ああ、それもそうね」

「いや、待て! それはおかしいだろ。なんでミリーが俺の膝の上なんだよ」

「何よ、イヤなの?」

「別に……イヤとは言ってないだろ」

「アキラ、ミリーがおひざにすわるのはイヤなの?」

「……違うぞ、ミリー。それはないから、ね」

「うん、わかった!」


 恒の提案に他の皆も文句を言わなかったので、恒はホスに対し買う馬車を決めたことを告げる。


「いいのか? 六人乗りじゃないぞ」

「構いません。アレがいいです」

「まあ、俺は構わないがな。じゃあ、金貨で二十枚だな」

「じゃあ、はい」

「ん、確かに……」


 ホスに言われた値段が妥当かどうかは分からないが、とりあえず恒は言い値で払おうとバッグから金貨二十枚を取り出すとホスの前に並べ、それをホスが確認して受け取ると「ちょっと待て」と声を掛けられる。


「お前、馬車だけ買って、それを牽く馬は当てはあるのか?」

「あ、そうか。馬車だもんね。困ったなぁ」

「ふん、何も考えずに馬車だけ見に来たのか」

「うん、そこまで考えていなかった」

「ちっ、しゃあねえなぁ~」


 ホスは「ちょっと待て」と言うと何やら手元の羊皮紙に何やら書き込むとそれを恒に渡してくる。


「ほれ。これを門の近くにある貸し馬屋のケニーに見せろ。そうすりゃ、いい馬を紹介してくれるだろうよ」

「ありがとうございます」

「礼はいい。だがな、四人乗りとは言え、これに六人乗せて牽くんだろ。なら、二頭立てか力強い馬を用意する必要があるぞ。だからな、ケニーに『竜馬ドレイクホース』を用意するように書いといたからな。いいな、絶対にソレにするんだぞ」

「え、は、はい」


 恒はホセの迫力に負けてしまい思わず「はい」と返事したものの竜馬ドレイクホースがなんなのかも分かっていない。


「分かったのなら、さっさと行け!」

「え、でも馬車……」

「心配するな! こっちで点検したら、貸し馬屋まで運んでやるから、さっさと行け!」

「あ、はい。分かりました。では、お願いしますね」

「ああ」


 恒はホスに礼を言うと店を出て、ホスに言われた貸し馬屋へと向かうが、ドリーが「ならば、ワシはギルドで紹介状を受け取ってこよう」と言うので任せることにした。


「貸し馬屋って言うことはさ、レンタルってことでしょ? そんなところで買えるのかな」

「レンタル向きじゃないお年寄りの馬とか?」

「いや、さすがに紹介状まで書いてそれはないと思うぞ」

「うん、ミリーもそうおもう」

「まあ、行けばハッキリするさ」


 ホスが恒に何をさせたいのか分からないが、やたらとと言っていたのが気になる恒だった。

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