第40話 そろそろかな

 昨夜の明良の騒動は夜まで続いたがミリーの「お父さんなんか嫌い!」でドリーが撃沈されて、やっと静かになった。


 だが、恒だけはその騒動には参加せずに何かをずっと考えていた。


「ねえ、どう思う?」

「どうって、恒のこと?」


 由香が久美に対し唐突に質問するが、久美の方もその質問に対し難なく恒のことなのかと返す。


「うん。最近なんだかずっと考えているわよね」

「ん~そう言われればそうかな」

「何を考えていると思う?」

「私に分かるとでも?」

「それもそうか」

「なら、聞くしかないんじゃない」

「聞いてもいいのかな?」

「聞かないと分からないわよ」

「うん、分かった」


 二人は恒に近付くと何をずっと考えているのかと直球で聞いてみる。


「あ~うん、その今後のことなんだけどね」

「今後?」

「どうかしたの?」

「ほら、この世界の崩壊にミリーが原因かもってのがあったでしょ」

「「あ~」」


 恒が話した内容に二人は頷く。


「だからさ、そのミリーが悲しむことをする訳にはいかないでしょ」

「ごめん、ちょっと話が見えないんだけど」

「私も」

「……ミリーって明良のことが好きだよね」

「そうね。隠すこともないくらいにね」

「少なくてもドリーより好きなのは確かよね」

「でもさ、俺達は世界崩壊の原因を探すのが目的で旅をするよね」

「うん、そうよ。あ! もしかして、そろそろこの町から出ようとか」

「あれ? そうすると明良も一緒よね。ってことは……」

「そう! ミリーが悲しむってことで……」

「「あ!」」


 ここに来て由香と久美は恒が悩んでいたことに思い当たる。


 そして、恒がそんなことで悩んでいるとも知らずにミリーに世話をやかれている明良とそれを羨ましそうに見ているドリーだった。


「で、どうするの?」

「どうするって?」

「だから、悩んでいるってことは幾つかの答えは出ているんでしょ」

「どうしてそれを」

「分かるわよ。これでもずっと……って、何を言わせるのよ!」

「アイタ!」


 由香が恒に悩んでいることに対する答えを聞いてくる。恒はなんで由香が既に答えを出していることを知っているのか不思議に思うが、由香からすればずっと見ていた恒のことだから、すぐに分かってしまうが、そんなことを言えるハズもなく照れ隠しに恒の右肩を強く叩いてしまう由香だった。


「それで、どんなパターンを用意したのよ」

「あ、うん。まずは明良をここに残す」

「まあ、それが無難ね」

「ミリーも悲しくないし。うん、いいかも」

「まだ、途中なんだけど……」


 恒が一つの答えとして、この町に明良を残していくことでミリーが悲しまずに済むだろうと提案すると由香と久美は、まるでそうするのがいいように、その「一択しかない」とでも言いたげだ。


「とにかく、残りも聞いてね」

「「は~い」」


 他に提案したのは「皆でこの町に留まること」と、「ミリーを連れて旅を続ける」ことだ。


 恒としては世界崩壊の原因を探すという目的がある為、この町に留まることは出来ない。それにドリーの安全の為にも、出来るだけ早くあの国から離れたいというのもある。


 なので、「この町に留まる」という選択肢はなくなるので、実質は「ミリーを連れて行く」か「ミリーを置いて行く」ことになる。


「ねえ、ちょっと聞いていいかな?」

「何?」

「なんで明良を連れて行きたくないの?」

「え?」


 由香は恒がどこか明良を遠ざけたいと考えている様に思えたので、どうしてそう思っているのかを聞いてみる。


 聞かれた恒としては、そんなことを思っていた訳ではないが、由香に言われてハッとして気付く。

『どうして俺は明良を遠ざけたかったんだろうか』と。


「もしかしてだけどさ、恒って明良を弱いから……だから、一緒に旅をするのが不安なんでしょ」

「あれ? でも、なんでそれは私達には当てはまらないの?」

『ふふふ、わからないのね』

「「ミモネ!」」


 不意にミモネが現れると「そんなことも分からないの」とでも言いたげに薄い胸を張って威張っている。そして、ミモネはそのままの姿勢で話し出す。


『あのね、恒は無意識だけど二人ならなんとか守れると思っているのね』

「「あ!」」

『そう、だから明良までは守れないから、一緒に旅をするのを躊躇っているのよ。ヒドいよね』

「あれ? そうだったの?」

 恒はミモネに指摘されて初めて理解したという感じでミモネに問い返してしまう。


「じゃあ、答えは決まったね!」

「由香、それってどういうこと?」

「だから、弱いのなら強くなればいいだけの話でしょ。だって、さっきも『毛が生えてない』ことを気にしていたくらいだから」

「「ああ~」」


 由香の提案に恒も久美も『その手があったか』と思った。だが、一つ大きな問題が残っている。


 そう、誰がその真実を明良に伝えるのかという問題だ。


 由香と久美は恒を見るが、恒はミモネをジッと見る。

『え? 僕なの?』

「頼む!」

「頼んだわよ!」

「お願い!」

『え~』


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