第27話 訓練再開です

昼食をすませ、また訓練場に戻ると明良達と一緒に武術訓練を始める。

明良にはショートソード、由香と久美にはロッドが合うだろうとドリーに勧められるままにそれぞれが木製の武器を手に取る。

恒はと言えば、小夜がどうしてもと言うので、妖刀に戻った小夜を腰に差す。


「よし、じゃあそれぞれ武器を持って。ワタルは後でな」

明良、由香、久美がそれぞれに武器を構える。


「ふむ。まあ、最初はそんなもんか。構えは後で矯正するとしてだ。今は好きなように打ち込んでこい!」

「「「え? いいの?」」」

「何を心配している。忘れているかもしれんが、ワシはSランクだぞ。心配せんでもかすることすらない。いいから、かかってこい! あ、言い忘れていたが三人同時だぞ」

「舐めやがって!」

「ホントよね」

「……ボコボコにしてやるんだから!」

「ふん! そういうのはワシにひとかすりでもさせてから言うんだな。いいから、さっさと来い!」

ドリーに煽られた明良が先に飛び出す。

「三人で来いと言ってるのに……まあ、若いからしょうがないか」

明良は何も考えずにショートソードの木剣を上段に構えたまま、ドリーに向かって走り出す。

ドリーに向かって振り下ろされた木剣をドリーもまた、自分が持つ木剣の切っ先をそれに合わせてから、身を躱す。ドリーに初手を躱された明良は木剣を振り下ろした勢いそのままに前のめりになってしまい、そのままの勢いで前転してしまう。


「これで分かっただろ。今のお前達ではワシに傷一つ負わせることなど不可能だということを」

「もう、普段はお気楽オヤジのクセに!」

「ホント、ムカツク!」

「アキラ、お前もかすり傷程度だろ。ほら、ちゃんと三人で掛かってこい!」


さっきのこともあり、今度は明良も挑発に乗るようなマネはせずに一度、深呼吸すると由香達と相談する。

「ふむ。今から話し合いか。だが、そんなには待てんぞ」

ドリーに言われ、由香がドリーを睨み付けるが、すぐに明良に手を引かれる。

「由香、いちいち相手にするな」

「そういう明良だって、最初に突っ走ったくせに!」

「いいから、今はあのオヤジに勝つのが先よ! その為には今のままじゃダメだって分かったんでしょ!」

「ああ、そうだったな。じゃあ、どうする?」

「久美、支援系の魔法が使えるのよね」

「そうね。じゃあ、皆に『加速アクセル』『身体強化マッスル』『並列思考パラレル』!」

「「おお! 力が溢れるぅ!」」

「明良、ドリーに近付くまでは構えないでね」

「分かった! とりゃぁ~!」

「由香はドリーに魔法で攻撃よ!」

「そうね。『火球』『氷矢』『岩礫』!」

先ずは明良がさっきと同じ様にドリーに向かって走り出すが、まだ剣は持っているだけだ。そして、それに合わせて由香がドリーに向かって魔法を放つ。そんな様子を見たドリーは落ち着いた様子で見ている。

「ほう、今度は多少の知惠を搾ったようだな。だが、その程度の魔法じゃワシには届かん! ふん!」

ドリーの気合い一発で由香が飛ばした全ての魔法が弾かれる。

「まだよ。『視界剥奪ブラインド』」

久美の魔法により、ドリーの頭が黒いモヤで覆われる。

「ほう、視界を奪いに来たか。だが、その程度じゃあな。そこ!」

「ぐわぁ……」

背後から、ドリーを狙った明良の剣先を躱すと同時にドリーの木剣が明良の胴を払う。


「どうした? もう、終わりか?」

「明良! 明良の殺気が漏れすぎなの。殺気を出さずにオヤジに近付いて!」

「ほう、それに気付くか。だが、そうそう殺気を……ん? 明良の殺気が消えた

?」

視界を塞がれたままのドリーが明良の殺気を見失う。正直、久美の魔法などすぐに払えるが、勝負を面白くするためにとワザとそのままにしていることが仇になった。


「ふん。だが、甘い!」

明良の剣を躱すと同時に明良の足を引っ掛ける。

「え~なんで?」


ドリーは久美の魔法を取り払い、視界を取り戻すと明良達にダメ出しをする。


「まず、アキラの殺気を消すまでは良かったが、ワシは魔力感知が出来るからな。そういうのは無意味だ。まあ、魔力感知が出来るのはその辺にゴロゴロしているからな。それに剣の振り方がなってない。まずは素振りだな」

「げっ」

「それにユカ。魔法が使えるのは分かるが、なんでも出せばいいってもんじゃない。もっと、その場その場での使い方ってものがあるだろ。そうだな、お前の場合は威力を高めるのが先だな。手数を増やすためにも魔力制御を鍛えるのが先だ」

「でも、魔力制御って言われても……」

「そうだな。先ずは水球を出してみろ」

「水球? これ?」

「そうだ。それをもう少し小さく……そうだな、直径一センチメートルくらいだ」

「ん~小さくすればいいのね」

「ああ、そしてその大きさで二つ、二つ出来たら三つという具合に十個まで増やしてみろ」

「分かったわよ」

「クミ、支援魔法を使ったのはいいが、無駄が過ぎる。アキラに並列思考は不要だ。それに身体強化もまだ使いこなせないのに無理だろ。だが、お前が指揮を執ってからは格段によくなったのは確かだ」

「ど、どうも」

「そこまでは褒めてやるが、支援魔法だけでなく、敵の動きを阻害する魔法もあるだろう。なぜ、使わない?」

「あ、忘れてた……」

「と、まあダメ出しするとキリは無いが、概ねそんなところだ。ユカとクミはギルマスに相談して、誰かに教えてもらうがいい。だが、魔法ばかりでなく武術の訓練も怠るなよ。魔力が尽きたり、接近戦になればどうしても武術は必要になる。好き嫌いではなく死なないために憶えるんだな」

「「はい……」」

一通りの手合わせを済ませた後にドリーからの寸評と言うダメ出しを喰らった明良達は、それを忘れない内にとそれぞれの鍛錬に移る。


「さて、待たせたかな」

「別にいいけどさ、なんで木剣から真剣に持ち替えたのさ」

「これか? そうだな、単なる気分だ。気にするな」

明良達の手解きを黙って見ていた恒に対し、ドリーが話しかけるが目付きがさっきと全く違うことに気付く。それは手に真剣を持っていることからも分かっているのだが。

『あ~あ、ドリーのスイッチが入っちゃったね』

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