第26話 一生、一人でいるがいい!
なんだかんだで部屋割りは、ほぼ元通りで収まった。
ほぼと言うのは、騒動の元だった小夜の部屋割りが決定したからだ。
「ふふん。どうだ、小娘よ。妾と旦那様はやはり離れられない
「キ~ッ! 恒、どうするつもりなの?」
部屋割りの結果に小夜が由香を煽り、由香は恒にどうするつもりなのかと問い詰めるが、恒にはどうもする気はないので軽く流す。
「どうするも何もこうする以外になかったんだから、しょうがないだろ!」
「そうじゃ! そうじゃ! あ~夜が楽しみじゃ……今宵はどんな格好で……あ~」
「恒、俺も同じ部屋なんだけど? あまり、寝られないのは……ちょっと」
「明良、何言ってるの? 俺が何かするって思ってるの?」
「でもよ、あっちはその気満々だぞ。お前が何かしなくても襲われるのは間違いないだろうよ」
「あ~それは大丈夫。小夜、『解除』」
「え?……あ!」
恒が小夜に対し、『人化』を解除させると、そこには小夜の姿はなく黒鞘の妖刀『村正』が宙に浮いていた。
『旦那様よ。これはどういうことじゃ?』
「どういうことも何もしばらくはそのままで」
『ふん、旦那様はじらしも一流なのじゃな。じゃが、妾はもう少し人として楽しむのじゃ。じゃから、こんなのはすぐに人化して……ん? おかしいのじゃ。もう一度……やっぱり、ダメなのじゃ……旦那様よ、これはどういうことなのじゃ?』
どうやっても人化出来ない小夜が恒に説明を求める。
「なんでって、小夜は俺の所有物扱いになっているのは知っているよね?」
『そうじゃな。妾は武器として旦那様の所有物なのじゃ』
「だから、ある程度のことを小夜に対して、こうやって制限出来る理由だ」
『……イヤじゃ! 非道すぎるのじゃ! まだ、旨い物も食べていないのじゃ! 旦那様ぁ~』
小夜の悲痛な叫びだけが響くが、恒はと言えば、耳を塞ぎ聞かないようにしている。
しかし、この状況に耐えきれないのもあるが、同じ女として男に邪険に扱われるのを見てしまうと、いくら人外でも可愛そうと思えるもので、躊躇する由香よりも先に久美が恒に対し、文句を言う。
「恒、元に戻してあげて!」
「久美、言っちゃ悪いがアレが元の姿だぞ」
「ん~じゃあ、言い方を変えるね。小夜の人化を許可してあげて」
恒の言葉に確かにそうだけどと久美は言い方を変え、恒に小夜に人の姿になることを許して欲しいとお願いする。
「久美、お前達は小夜が俺にベタベタするのをあんなにどうにかしろと言ってたじゃないか。小夜の人化を許可すれば、またアイツは俺にベタベタと纏わり付くぞ。それはいいのか?」
「イヤだけど、それよりも同じ女として、こんな扱いされるのは見ていられないの!」
「そうよ! 私も久美と一緒の気持ちよ!」
「じゃあ、小夜の面倒はお前達に任せてもいいんだな?」
「「え? いや……そういう「いいんだな?」……はい」」
久美にお願いされた恒は元々は由香と久美が小夜に対してワチャワチャとして、部屋割りが決められなかったのが、原因じゃないかと言えば、それ以上に小夜のことを放ってはおけないと言う。そんな由香と久美の二人に恒から言われたことに対し、反論しようとするが、結局は押し切られてしまう。
「よかったな、小夜」
「旦那様よ、妾は本当に泣きそうになったのじゃ。慰めて欲しいのじゃ」
「あ~そういうのは久美が責任持ってやってくれるから。頼んでみなよ」
「分かったのじゃ」
由香と久美の二人の承諾とも取れる発言に対し、恒はニコリと微笑むと既に人化で和装姿の少女と化した小夜に話しかけると、小夜ももう少しで本気で泣きそうになったと恒に甘えようとするが、その役目は二人に任せたと由香と久美の方へと小夜を振り向かせる。
そして、このやり取りを黙って見ていた由香と久美は揃って声に出す。
「「ハメられた……」」
「なんじゃ人聞きの悪い。そもそもお主らが妾と旦那様の仲を引き裂こうして、あれやこれやと反対するばかりで何も建設的な意見を言わないのが悪いんじゃ。だから、妾と旦那様でまずは二人を大人しくさせる為に一計を案じたと言う訳なのじゃ。まあ、と言う訳でこれからよろしく頼むのじゃ。旦那様と同衾出来ないのは残念じゃが、機会がなくなった訳でもないからの」
「「……」」
長々と小夜から、この状況を説明された由香と久美は恒を一瞥するが、恒本人はニコニコと笑っているだけだ。
「なら、部屋割りは由香達の部屋に小夜が追加されただけってことか」
「そうだね。明良の方も落ち着いたみたいだしね」
「まあ、そうだな。ワシの目が黒いうちは許さんからな」
「ドリー、ドリーの寿命ってどのくらい?」
「さあの。ほぼ無いのじゃないかな」
「「……」」
ドリーの発言に恒と明良は何も言えなくなる。
「明良、ミリーと結ばれる日は今生では難しいね」
「もし……もしの話だけど、ミリー以外の相手って許されると思うか?」
「多分だけど、ミリーはこれから一緒に旅に出るよね。その途中でミリーの目を躱してってのは難しいし、もしミリーにバレて暴走でもしたらって考えたら、明良にはミリー一択しか残されていないんじゃないかな?」
「恒……なんか楽しそうだな」
「そう?」
明良の発言に恒はしまったという顔になる。ドリーの目が黒い内ってのは生きている内は認めないと言っているのと一緒で、試しにドリーに寿命があるのか聞いてみるとないのも一緒だと返答される。だから、明良に生きている内は無理だなと言ってしまう。そして、ミリーの暴走を考えると芽がないからと言って、他の女性に手を出すのは考えられない。もし、そんなことをしてミリーが暴走してしまうかもと考えてしまう。
そんなこんなの理由で明良は生きている限り童貞だなと考えてしまうとどうしてもニヤけてしまう恒だった。
「お前、俺が一生童貞でいるのが決定したと思って笑っているんだろ? 怒らないから正直に言ってくれ」
「そ、そんなことはないよ」
「なら、なんでそんなに肩が揺れているんだ? それにさっきから、俺と目を合わせないよな?」
「ぐ、偶然じゃないかな? それに、ミリーが多分許さないと思うよ。そういう年頃になれば、ドリーの反対を押し切って来るかもね」
「その時はワシがなんとしてでも止めてみせる!」
「『お父さんなんか大っ嫌い!』って言われるかもよ?」
「ぐっ……恒。冗談でも言わないでくれ」
やはり、お父さんは娘に嫌われるのが一番怖いらしい。
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