第17話 食事を終えてからの労働

恒達はミリーとの食事をなるべく楽しもうと、ゆっくりしていたら女将がやって来て恒達に言う。

「後、五分だからね」

「「「「……はい」」」」

「女将にしっかり、手綱を握られてるな。ねえ、ミリー」

「もう、おとうさん。くすぐったい!」

女将に作戦がバレたので恒達は観念して食事を早く済ませようと残った食事を掻き込むのをドリーはミリーと一緒に食事をしながら、黙って見ている。


「「「「ごちそうさま!」」」」

「がんばって! おにいちゃん、おねえちゃん」

「「「「うん!」」」」

恒達がそれぞれの食器を持ち、立ち上がり厨房へと向かう恒達にミリーが声を掛け、恒達もそれに応える。


「しっかし、こっちに来てまで皿洗いする羽目になるとはね」

「明良が家が食堂だからね。うんざりするのは分かるけど寝床のためだから。頑張ろうよ」

「そういう恒だって、家では家事当番なんだろ。姉ちゃんに聞いたぞ」

「はぁ~互いの姉ちゃんが友達だと、隠し事は出来ないなぁ。全部、筒抜けだ」

「そう言うなよ。恒、そのお陰かどうかは知らないけど、こうやって異世界でもメシも食えるし、野宿しないでもすむってもんだ」

「「……」」

明良と恒がそんな風に話をしている後ろで由香と久美は互いに顔を見合わせる。

「ねえ、久美は皿洗いとかしたことあるの?」

「ううん、ない。うちでは全部お母さんが『あなたはこんなことしないでいいから』って、手伝おうとしても全部、取り上げられちゃうの」

「久美もか。実はうちも。やっぱり、一人っ子って甘やかされちゃうね」

由香と久美は互いの女子力の低さを慰め合うと、女将の待つ厨房へと向かう。


「やっと来たわね。じゃあ、よろしくね。」

「「「「「は~い……」」」」

「どうする?」

「どうするって、やるしかないだろ。じゃあ、俺と明良で洗うから、由香と久美はすすぎと拭き取りをお願いね」

「「分かった」」

流しの中に山盛りの汚れた食器を女将に任され、「げっ」と辟易するが、片付けないことには部屋に入れてもらえないかも知れないと思うと、イヤでもやるしかない。


「やっと終わった~」

「お疲れ様、随分と手際がいいのね。そっちの男の子はもしかして、経験者なの?」

「い、いや……俺達は経験者というか、皿洗い専門で」

「そう。もし、厨房で働いてもらえたら助かったんだけどね」

「すみません……」

「いいのよ。じゃあ、また明日もよろしくね。あと、お湯は自分達で汲んでいってね。盥と布はそこにあるから」

「たらい?」

「お湯?」

「なんに使うの?」

「お風呂は?」

恒達が女将の言葉にそれぞれ不思議に思ったことを口にする。

「お風呂って何言ってんの? そんなの貴族様かお金持ちにでもならないと無理よ」

「「「「……」」」」

女将の言葉に愕然とするが、恒と由香はこれもだなと納得仕掛けるが、明良はそうでもなかったようで、女将に食い下がる。

「ないのは分かった。なら、作るのは構わないんだよな?」

「作るって……風呂をかい?」

「そう。ここの裏庭なら空いてるから、いいよね?」

「まあ、裏庭なら好きに使ってもいいけど。本気かい?」

明良の物言いに女将は理由が分からないながらも、承諾するが明良に本気なのかと確認する。

「本気さ。一日の終わりに風呂に入れないなんて我慢出来るか!」

「驚いた。あんたって、本当はどっかのお貴族様かい? とてもそんな風には見えないけどねぇ」

「そんなんじゃねえよ。ただ、俺達がいた所じゃ風呂に入るのが当たり前だったんだ。ただ、それだけだ」

「ふ~ん、まあいいさ。でも、出来たら使わせてもらうからね。裏庭を貸すんだ。それだけは譲れないよ」

「ああ、いいさ。じゃあ、行くぞ。恒」

女将に承諾してもらい、これで風呂が作れる。風呂に入れると喜んだ明良は恒の手を取ると、行くぞと言う。そして、恒はいきなりのことに驚く。

「え?」

「『え?』じゃないだろ。恒以外に誰が作るんだよ」

「いや、明良が作るんじゃないの?」

「お前、何言ってんの?」

「いやいやいや、明良こそ何言ってんのさ」

「俺は風呂に入りたい。それは恒。お前もそうだろ?」

「ああ、そりゃな」

「なら、作ってくれよ。なあ、いいだろ。恒ぅ~」

無茶振りとも言える明良のわがままだが、恒はそれにイヤとは言えないでいる。何故かと言えば、恒自身も風呂に入りたいからだ。

それに由香と久美の二人も恒と明良の後ろで期待した目で見ている。

「分かったよ。でも、明良もそれに由香達もちゃんと手伝うこと! いい?」

「おう!」

「うん!」

「はい!」

「じゃ、女将さん。裏庭お借りします」

「それはいいけど、今から作るのかい?」

「当然! 一日の終わりは熱い風呂って決まってるからな」

女将に断りを入れ、恒達は裏庭にと向かう。


「へぇ~意外と広いね。じゃあ、明良。先ずは男湯と女湯で区切ろう」

「ああ、じゃあ適当に半分にするか」

「排水も必要だから、一杯一杯じゃダメだよ。湿気もあるし、ちゃんと余裕を持ってね」

「分かったよ」

恒に言われ、明良は建物から一メートルほどの離れた位置で、地面に線を引いていく。


「こんなもんか。じゃあ、恒。頼んだぞ」

「はいよ! じゃあ、まずは基礎からだな」

恒が地面に手を着くと、魔力を流し『成形』と呟くと、基礎が立ち上がり、明良の書いた線に沿って、基礎が立ち上がると『硬化』と呟く。すると土で出来た基礎は岩の様に固められ、まるでコンクリートの様になる。

「うん。なんとか排水の為の傾斜もちゃんと出来たね。じゃあ、今度は浴槽とボイラーを作るよ」

「これも『お詫びチート』の一つなのか?」

「多分ね。よいしょっと……これで浴槽とボイラーも出来たから。あとは、壁で覆って、浴室と脱衣場、それから男女の間仕切り壁を作れば終わりだね」

「待ってよ! 屋根は? 屋根がないわよ?」

「ちょっと待って」

恒がその場で基礎から壁を伸ばすと『硬化』を掛ける。

「ほら、この高さなら覗かれる心配はないでしょ。まあ、心配なら女将さんに頼んで屋根を着けてもらえばいいさ」

「本当に? 覗かれない?」

「久美、中に入って確かめよう!」

「そうね」

恒が作った壁は十メートルはある。それに対して宿は三階までなので、窓から体を乗り出さない限りは、覗くことは出来ないだろう。


「ねえ、覗かれないのは分かったけどさ。お湯は?」

「お湯なら、ボイラーから出るだろ?」

「それは誰がするの? それにお水は?」

「だから、それは……あれ? そういや、蛇口は? 水道は?」

「しっかりしろよ。恒」

「そういう明良も気付かなかっただろ」

「まあな。で、どうするんだ?」

「分かったよ。ちょっと、待ってろ」

恒は地面に手を着き、何かを探す素振りを見せる。

「あった! 皆、ちょっと離れてて!」

恒は明良達が自分から離れたのを確認するとボイラーを一度、壊すと底に触れ、『掘削ディグ』と呟くと手を離す。

「恒? 何をしたんだ?」

明良が恒に問い掛けるが、恒はボイラーを新しく作り直すと大丈夫だからとだけ言って、その場を離れる。すると少しして、恒達の足下から『ゴゴゴゴ……』と地鳴りみたいな音が聞こえてくる。

「ねえ、恒大丈夫だよね?」

「いいから、いいから」

由香が不安になって恒に確認するが、その恒は大丈夫と言うばかりで、なんの説明もしてくれない。

そして、その内に『シュー』という音に変わり、ボイラーからお湯が噴き出す。

「温泉か!」

「そう、あっちに火山っぽいのが見えたから、もしかしてと思ってね。上手いこと地熱で温められている地下水に当たってよかったよ。じゃあ、入ろうか」

「「「うん!」」」

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