第9話 返り血で緑色
「痛っ! もう少し開けた場所に転移出来なかったのか?」
「贅沢言わないでくれよ。あんな所から一瞬で下りられただけでも感謝して欲しいくらいだぞ」
転移した場所は、山の上から見た街へと続く街道からは少し離れた藪の中だった。その為に街道へ出るために恒達は藪の中を進んでいる。
「そりゃそうだが。なあ、あとどれくらいで道に出るんだ」
「どのくらいだろ。ミモネ、分かる?」
『分かるけどさ、なんでワタルは『
「『
『そう、『
「そうか。じゃあ、使って見るか『
「どうした恒!」
「いや、大丈夫。問題ない。驚いただけだから」
『ちゃんと、使えたみたいなの。じゃあ、僕はこの辺で消えるの。他の人に見付かると面倒だからイヤなの』
「「え~ミモネ、いなくなっちゃうの?」」
『大丈夫。僕はワタルに憑いているから!』
「なんか妙な感じに聞こえたけど……大丈夫なんだよな」
『大丈夫なの! 僕が見えなくても心配ないの! じゃあねなの』
「「あ~いなくなっちゃった……」」
人目を避けるためにミモネが姿を消し、由香達が残念そうな声を上げる。
そして、恒は『
「えっと、街道はこの方向で合っているな。この調子なら、後十分もすれば街道に出られるな」
そう言う恒の顔はどこか不満が見て取れる。
「不満そうだけど、頭の中に地図があるんだろ? 何が不満なんだ?」
「ん~それがさ。便利っちゃぁ便利なんだけど、なんて言うのかな。こう、カユイ所に手が届かないって言うのかな。そんなもどかしさがあるんだ」
「そうかぁ頭の中にナビがあるってだけでも羨ましいけどな」
「そうか、羨ましいか。じゃあ、そんな明良に俺からのプレゼントだ!」
「え? 何?」
恒は明良の背中をバチンと力強く叩くと『
「これで、お前も『
「俺が? 本当に? じゃあ『
「うん、さっきからそうみたいだね」
「そうみたいって、お前。これがなんなのか分かっているのか?」
「うん、多分だけどゴブリンクラスじゃないかな」
「恒。お前、随分落ち着いているけど、勝算はあるのか?」
「俺にはないよ。って言いたいけど、ここにはドリーもいるし、俺も多少は戦えると思うんだ。こんな風にね」
そう言うと恒は明良に左手に刃状にした氷を纏わせた物を見せる。
「恒はそんなことが出来るのか」
「うん。女神からのお詫びチートの一つだね」
「そうか。それで街道に出るまでの作戦は?」
「ドリーを先頭にして、次が由香、明良、久美、で俺の順番で進む」
「なるほどね。女子を挟んでの行軍だ」
「そういうこと。分かったのなら行くよ。ドリーもいい?」
「ああ、ワシはいつでもいいぞ。ただ、ゴブリンは切っても金にはならん。だが、死体を残しても面倒だ。だから、ワタルはゴミ拾いも頼むな」
「あ~分かったよ。じゃあ、お願いね」
「おお、任された」
ドリーは腰に差していた片手剣を右手に持つと、藪を払いながら周りを囲んでいるゴブリンに殺気を飛ばしながら、進んでいく。
「ふふふ、ワシの殺気にビビッて襲ってくることもないようだな。ほれ、街道が見えて来たぞ」
「あ! 本当だ。明るくなってきた」
「一匹くらいは襲ってくるかと思ったけど、意外と楽勝だったね。ねえ、恒……恒?」
「恒、なんでそんなに汚れているの? どこにも水溜まりとかなかったけど?」
「まさか、それ全部返り血か?」
「そう、明良の言う通り。全部、ゴブリン達の返り血だよ。もう、アイツらなんで体液まで緑なんだよ! それに生臭いし……『クリーン』! よし、これでキレイになったかな。ん? どうしたの?」
「どうしたって、なんでお前がゴブリンに襲われているんだ?」
「ああ、そのこと。それは説明するけど、今は街道に出ようか」
「ああ、そうだな」
街道に出ると街の方向を明良と確認した恒は、街を目指して歩きながら、さっき藪の中でゴブリンに襲われた理由を話す。
「先頭は、ドリーが殺気を出して睨みを効かせていたから、襲われることはなかったでしょ」
「ああ、そうだったな」
「じゃあ、その殺気を避けた連中がどこを襲うかっていうと……最後尾の俺になるって訳」
「それって、映画とかでよくある最後尾から狩っていくっていう戦法か」
「多分ね。ラノベの中のゴブリンの知能は高くないから、狙ってやった訳じゃなく本能的に弱そうな俺に狙いを定めたんだと思うよ」
「その結果が、あの返り血って訳か」
「そういうこと。お! 街の門が見えて来たね」
「ねえ、恒。ちょっと気になったことがあるんだけどさ」
「由香、気になることって?」
「ほら、ラノベでも街に入るときには冒険者ライセンスみたいな身分証が必要になるでしょ? 私達、そんな物持ってないわよ。どうするの?」
「ああ、そういう問題があったね」
由香が恒に身分証を持っていない自分達が街に入れるのか不安だと漏らすと、それを聞いたドリーが大丈夫だと恒達に話す。
「それなら大丈夫だ。ほれ、これがワシの冒険者ライセンスだ」
そう言ってドリーが懐から金色に輝くカード状の物を恒へと差し出す。
「へぇ~これがそうなんだ。っていうか、ドリーって高ランカーだったんだね」
「何故、そう思う?」
「だって、カードが金色だし。これってSランクって書かれているよね」
「ふふん、そうだ。Sランクのドリーと言えば、結構知られている名前だ。だから、お前達の保証人としてもワシなら十分ってことだ」
「へぇ~単に生臭いおじさんって訳じゃないんだね」
「ぐっ……まだ生臭いと言うか。ワタル、この女には気を付けた方がいいぞ。悪いことは言わん。なんなら、ワシが紹介してやってもいい」
「「ちょっと! 余計な真似は止めてよね!」」
「ドリー。あまり恒達を揶揄うなよ。とばっちりは俺達に来るんだからさ」
「それはすまない」
そんな賑やかな道中も街の門に立つ守衛の前で終わりを告げる。
「身分証を」
「これでいいか。この子達は、森の中で保護した。ワシの連れとして通して欲しい」
「森の中で……これはっ……ドリー様でしたか。ええ、ドリー様が保護してくれるのであれば、問題ありません。お通り下さい」
「ありがとうな」
守衛がドリーに冒険者ライセンスのカードを返すと丁寧なお辞儀をしてドリーと恒達を街の中へと通す。
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