第4話 とりあえず二人と一緒に

明良と早川の手を握り『ヒール』を実行すると、明良達が恒の手を引いてクラスメイトが集まる場所へと連れて行こうとしていた力が弱まり、明良達がその場に立ち止まる。

そして、自分達が恒の手を引っ張っていたことに気付くと、恒と繋いでいた手を慌てて離す。

「なんで、おれが恒なんかと……」

「私も……なんで?」

「二人とも覚えていないの?」

恒に覚えていないのかと質問された二人はコクリと頷く。

『ワタル、このままじゃまた掛かってしまうから。その二人には『精神耐性』を付与してあげて』

『それで大丈夫なの?』

『今よりはマシだよ』

『分かった。ありがとう』

『いいから、死なないでね。今もこっちをジッと見ている奴がいるから』

ミモネに礼を言ってから、明良と早川に声を掛ける。

「二人とも覚えていないみたいだけどね。さっき俺の手を引っ張ってアイツらのいる場所に連れて行こうとしたんだよ」

「俺が? お前の手を握って? 嘘だろ?」

「私から、長生君の手を握ったの? 本当に?」

恒が思った通りの反応を返されたことで、二人は洗脳されたことに気が付いていないようだ。

「まあ、信じられないってのは分かるけど。今、アソコに行くのはイヤなんだ。早川なら分かるでしょ」

「そうね。少なくとも、あの人達のことは好意的には感じられないわ」

「だよね。俺も同じ。だから、ここから逃げようと思う。二人はどうする?」

「「逃げる?」」

「ああ」

そして、ラノベでは何度も読んでいるから早川も分かってくれることを期待して、どう思うかを確認してみたら、やはりあの連中に対して好意的な感情は持てないようだ。

だから、恒はここにいるとダメだと言い、二人に対してはここから逃げると宣言した。

「逃げるって、どうやって?」

「そうよ。それに他の人達はどうするの?」

「アレを見なよ。もう正常な判断は出来ないと思うよ」

恒がそう言って集められたクラスメイト達の顔を確認させると、皆一様に目の焦点があっていないようで、どことなくとろ~んとしていて、口は半開きのままだ。

「でも「そこのお前達! 聞こえないのか! こっちへ来るんだ!」……あ、行かなきゃ」

「そうだな」

「ちょっと待てって!」

クラスメイト達の様子を確認した早川は恒に何かを言おうとしたが、クラスメイト達が集まっている前で男が恒達に向かって『集まれ!』とアノ声で叫ぶ。

「ヤバい!」

恒は夢遊病に掛かったようにクラスメイトの元に行こうとすは明良と早川の手を取ると二人に対し『精神耐性』を付与する。

「あれ? なんで恒が俺の手を……俺、今何をしていた?」

「長生君、こういう風にいきなりなのはちょっと、どうかと思うよ」

「よかった。間に合ったみたいだな。じゃ、逃げるぞ!」

「「え?」」

出来るかどうか半信半疑だったが二人に対し『精神耐性』を付与出来たようで二人は正気に戻る。恒は二人の様子に安堵し「この場所から逃げる」と告げる。

「ちょっと、待って! ねえ、私も一緒にいいかな?」

「「「え?」」」

「鈴木……君はあの声は平気なのか?」

「うん、まあちょっとはウザいと思うくらいかな。でもなんか、聞こえてくる声に何かノイズが混ざっているみたいに聞こえるんだ。恒君もそうなの?」

「恒君? ああ、そうだ」

手遅れにならない内にここから逃げだそうとしていた恒が不意に後ろから声を掛けられたので振り返り確認すると、そこにはクラスメイトの女子『鈴木すずき 久美くみ』が、そこに立っていた。

『ミモネ、鈴木はなんで平気なの?』

『ん~理由は分からないけど、彼女の『精神耐性』『物理耐性』が高いことが理由かもね』

『精神に物理の耐性が高い?』

『そうよ、気になっちゃう?』

『まあな、でも虐められていた感じはなかったけどな』

『何も学校でだけ、虐められるって訳じゃないでしょ。家庭内とかあるじゃない』

『複雑な……』

『まあ、そういうことだから。とりあえずは『取扱注意』ってことは確かね』

鈴木が何故、洗脳されなかったのかをミモネと話していたら早川が鈴木に詰め寄っていたところだった。

「ちょっと、久美! なんで『恒君』なの?」

「由香。ここは異世界だよ。名字持ちの方が珍しいんだから、名前で呼ばないとダメなんだよ」

「あ、そっか! じゃあ、私もわ……恒君。きゃっ!」

「呼び方は別にいいけど、『君』もいらないぞ。呼び捨てにしないと不自然だ」

「それもそうね。じゃあ、恒で」

「わ、私も! わ、恒!」

早川が恒を君付けで呼ぶ鈴木に対し、詰め寄ると『異世界だから』の理由で納得し、鈴木と同じ様に恒に対し、『恒君』と呼び、一人悶えている。

そんな様子を見ていた恒だが、むしろ呼び捨てにした方が不自然にならないからと呼び捨てで呼ぶように早川と鈴木にお願いする。

そして、また早川は恒の名を呼び、一人で悶える。


「なあ、恒。それはいいけどさ。あのオッサンがこっちを睨んでいるぞ? 少し、ヤバくないか?」

「そうだな。なんか横にいる衛兵に耳打ちしているし……じゃあ、久美は一緒に逃げるんだな? 明良と由香はどうする?」

「「行く!」」

「分かった。じゃあ俺を中心に集まって!」

「えっと、どうすれば?」

早川が恒に対し、どうすればいいのかを確認してきたので、恒はその早川の手を取ると、自分の腰に手を回させると明良達にも同じ様にしてくれと言う。

「恒にか。まあ、恒なりに何か考えてのことだよな。いいな、信じているからな!」

「ああ、いいから。男にしがみつくことに気が進まないのは分かるが、早くしてくれ。ほら、衛兵が四,五人こっちに向かって来ているぞ」

「うわっ! やべ!」

明良がやっと恒の腰にしがみつくと鈴木も意を決した様に恒にしがみ付く。

「じゃ、行くよ。しっかり捕まっててね。絶対に暴れないように!」

「おう!」

「うん!」

「いいわよ!」

恒は自分の腰にしがみ付く三人のクラスメイトに声を掛け確認すると、こちらに向かってくる衛兵を一瞥すると、スキルを実行する。

「『転移』!」

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